第383話 テポレン山の戦い 6
お待たせいたしました。
更新再開です。
<ヴァーン視点>
B地点におびき寄せた王軍に対して行った爆弾攻撃。
これによって一変した戦況は、その後の魔法矢斉射、コーキとノワールの突撃によって確かなものになっちまった。
で、現在の戦地の状況はというと……。
A地点、B地点には地面に伏した王軍兵が残るばかりで、残るすべての王軍はA地点のはるか後方まで退却している。対して、こちらワディン、エンノア連合は防壁で守られた陣地の中。大きな傷を負った者はひとりもおらず、戦意に満ち満ちている。
「コーキ殿の計略がここまではまるとは驚きだ」
「ああ……想定通りっちゃあ、想定通りなんだけどよ」
まっ、こんなに上手くいくとは、さすがにな。
正直、信じられねえくらいだぜ。
「コーキ先生の考えた作戦ですよ。上手くいくに決まってます。ヴァーンもディアナさんも信じてたんでしょ」
「……」
いやいや、シアもさっきまで不安そうな顔してたじゃねえか。
「うむ、そうだな……」
「なので、ここからも作戦通り進めるだけです。そうですよね、セレス様、ルボルグ隊長!」
「ええ、シアさんの言う通りだと思います」
「ですな。コーキ殿の指示に従いましょう」
セレスさんもルボルグ隊長も平然を装ってるけどよぉ。
ほんとは驚いてんだろ?
「……」
ディアナの隣にいるユーフィリアは表情が変わらねえ。
セレスさんとルボルグ隊長はすましたもの。
シアは当然って顔してやがる。
なもんで、驚いた顔をしている俺とディアナとアルが目立っちまう。
「ヴァーン、アル、しっかりしろ」
「ああ?」
ディアナ、お前が言うかよ。
「分かってるよ、ディアナさん」
っとによ。
「ふたりとも、先生が戻ってきたわ。先生、お疲れ様です」
「……シア、ヴァーン、こっちに問題はないか?」
「大丈夫です」
「お前が出て行く前と何も変わってねえよ」
「そうか。なら、次の段階だな」
「……」
次の段階。
強烈な先制攻撃を受けたあいつらが後退した後に、再度この道を上ってくるという想定に基づく作戦だ。
「……あいつら、もう一度正面から攻めてくるのか?」
「絶対とは言えないが、あの大軍だからな。おそらく攻めてくるはず」
確かに、今の先制攻撃で倒した敵兵の数は知れている。
あっちは、一割も減っていない。
が……。
「来なかったら?」
「さらに次の段階に移るだけだな」
さっきの魔道具攻撃に恐れをなした場合。
東側に開かれたこの山道ではなく、違う方向から攻めて来る可能性がある。
と言ってもだ。
北は切り立った断崖、南は人が入り込めないような密林の斜面。西はオルドウへと続く獣道という地形から考えると簡単なことじゃねえ。
そうすると、最も可能性が高いのはこの東側からの進軍。
ただし、さっきのような開けた山道からではなく、山道の左右にある樹林を通って来るんじぇねえか?
もちろん、左右の樹林は大軍が動くには適していない。
生い茂る樹木によって視界は遮られ魔法や弓といった飛び道具も容易に使える場所じゃねえからな。
まあ、それはこっちにも言えることだ。
あの樹林に魔法矢を放っても効果は薄いだろう。
それを狙って左右の樹林から上ってくる。
そして、隙を見て中央の山道を使って攻めてくる。
そういうことじゃねえのか?
と考えてたのによ。
「やはり、正面から来るようだぞ」
「……」
本当だな。
準備を始めてやがる。
「懲りてねえってか」
「魔法矢の数が少ないと踏んでいるんだろ。さっきの攻撃で大半を使い果たしたとな」
それは甘い考えだ。
で、ありがてえ。
こっちには、まだまだ魔法矢が残ってるんだぜ。
魔法爆弾もな。
だから、このまま油断しててくれよ。
「今度は、あの盾を持ってねえ奴も多いな」
「大量に用意することはできなかったんだろ」
「なら、魔法矢だけで充分か?」
「……そうだな。ゼミアさん、次の魔法矢の準備をお願いします」
「承知しました」
「フォルディさん、念動力隊は待機で」
「はい!」
あの王軍が道具不足ってか。
笑えるぜ。
「進めぇ! 恐れることはない!」
「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」
「あのような魔道具攻撃が続くはずはないのだ! 我らの力を見せてやれ!!」
「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」
この短時間で士気を戻すとは、レザンジュの指揮官もなかなかやる。
けどよ。
今回に限っては、そいつぁ悪手なんだぜ。
「盾を構えたまま、突撃っ!!」
おっと、もうすぐA地点だな。
「コーキ!」
「ああ。ゼミアさん、お願いします」
俺が言うまでもねえか。
「……撃てぇ!」
ヒュン、ヒュン。
シュッツ。
シュ、シュッツ。
空を斬り裂くような鋭い音と共に50本の魔法矢が一斉に空へ!
何度見ても壮観だぜ。
「魔法の矢が来るぞ!」
「いや、あの魔道具とは限らない!」
「けど、あれは!」
「止まれぇ!」
「構えろ、盾を構えるんだ!」
「総員、止まれぇ! 前を固めろ!!」
「違う、上だぁ!!」
足を止めた王軍が片膝をつき盾を構えなす。
魔法で防御壁を作ろうとしている奴もいる。
が、さっきとは大違いだ。
そんなもんじゃあ足りねえだろ。
「「「「「ドーン!!」」」」」
「「「「「バーン!!」」」」」
「「「「「ドガーン!!」」」」」
魔法矢が王軍の上空で炸裂。
「「「「「「「「「「ううぅ……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ああぁ……」」」」」」」」」」
もう何度目だ、この悲惨な眺めは?
まあ、俺たちにとっちゃあ悪くねえけどよ。
「次だ。撃てぇ!!」
*******************
山道を通ってのレザンジュの進軍。
それが5度も続いたが、その悉くを退けることに成功した。
王軍がこちらの魔道具の準備を侮ってくれたおかげだな。
「コーキ殿?」
「このまま待機……いや、少し休んでください」
「良いのですか?」
「ええ、戦いはまだまだ続きますからね。ただし、二交代でお願いします」
「承知しました」
ゼミアさんが率いる魔道具隊、フォルディさんたち念動力隊は少し休む方がいい。いつまで、この戦いが続くか分からないんだからな。
……。
……。
敵である王軍は、こちらとかなり距離を置いている。
まあ、当然か。
部分的な敗戦とはいえ、5度も続くと被害は無視できないものになっているはず。
態勢を立て直したいのだろう。
さてと、問題は次にどう出るかだ。
さすがに、山道を通って真正面からの行軍は控えるとは思うが……。
っと!?
動き出したな。
なるほど。
今回は山道と左右の樹林を使って三方向から攻めるつもりか。





