第381話 テポレン山の戦い 4
<和見幸奈視点(姿はセレス)>
結局、コーキさんとは深い話をすることもできず、この日を迎えてしまった。
戦いが始まってしまった。
「コーキさん……」
今も感じている違和感。
喉元まで出かかっている、この……。
「セレスティーヌ様、不安だとは思いますが、ここは私たちにお任せください」
ディアナさん……。
「はい、皆さんにお任せしますし、信じております」
この戦いがどうなるのか?
その心配や不安はとても大きい。
ただ、こうしてコーキさんの姿を見ていると、どうしても考えてしまう。
「コーキ殿が心配ですか?」
「えっ!」
ディアナさん、急にそんなことを言われると……。
「コーキ殿のことが気になるのですよね?」
「その……」
コーキさんのことが気になる!
それが偽りのない本当のわたしの気持ち。
でも今は……。
今は戦闘が行われているのに。
「……」
「……」
ディアナさんの指摘に対して、上手く答えることができない。
気まずい。
だから、咄嗟に口から出てしまったのが。
「コーキさんの作戦が心配で」
そんな言葉。
でも、これも嘘じゃないから。
「……そうですね。今回の作戦は素晴らしいものですが、本当に上手くいくかどうかは分かりませんし」
「そう、そうなんです」
何とか上手く話ができた?
「戦争とは相手があるものです。ですので、敵の対応次第で作戦の成否も変わってくる。それが戦の真実です」
「……」
「今回は王軍も対策を講じてきたようで、魔法矢の効果も前回ほどではありませんし」
ディアナさんの言う通り。
今も多くの魔法矢が防がれている。
「ですが、心配は無用です。セレスティーヌ様はここでお待ちいただければと」
「はい。わたしは皆さんを信じてここで待ちます」
上手くいくと信じたい!
この作戦もコーキさんのことも、みんなのことも。
「ディアナ、準備した方がいい」
ディアナさんとふたりで話をしているところに、ユーフィリアさんが声をかけてきた。
「そろそろ出番だと思う」
「……分かった」
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魔法矢による初撃の効果は前回のそれに遠く及ばない。
王軍の5人1組の盾防御で防がれたからだ。
「効いていないぞ」
「ああ、効いてないな」
「心配ない」
「ああ、想定内だ」
実際に与えた損害も少ないが、それ以上に王軍に動揺がまったく見えないことが問題だ。
まっ、こっちもほとんど動揺してないけどな。
「コーキ殿?」
ゼミアさんが指示を求めるように、見つめてくる。
「……もう一撃、今度は半数の25人で撃ってみましょう」
「了解しました。皆、半斉射だ。撃てぇ!」
半数の魔道具隊から放たれた矢が、再び敵先陣で炸裂。
が……。
当然のことながら、初撃と同じように防がれてしまった。
……。
王軍が魔法矢対策を立ててくることは分かっていたこと。
想定内ではあるが、これは思った以上に上手く防いでくれたものだ。
通常の盾ならここまで防御することもできなかっただろうに……。
特製の盾を用意したってことか。
たった数日。
その時間でここまで対応するとは、侮れない。
とはいえ、こっちもこの数日を無駄に過ごしたわけじゃないんだ。
「どうする、コーキ?」
「コーキ殿?」
「魔法矢には余裕がありますが、少し控えましょう」
「ってことは」
「ああ、次はB地点だな」
ここからA地点までは約100歩。
B地点までは50歩。
王軍もB地点まで来れば、魔法や弓での正確な攻撃が可能になる。
こっちは事前に用意した防壁で守られているが、それでも用心した方がいい。
ただ敵先陣を見ていると……。
完全に防御に徹している感がある。
先陣は防御特化、特製の盾を持った重装歩兵隊ってところか。
この重装部隊でこちらに攻め込み飛び道具の優位性を奪ったところで、後続の軽装隊が
攻め寄せてくるという算段なんだろうな。
まあ、こっちとしては敵を防壁内に入れた時点で負けが確定したようなもの。
一度敵を防壁内に入れてしまうと、その後は大軍が雪崩を打って攻め込んでくるはず。
だから、何としてもこの重装歩兵の進軍を防がなければいけない。
おそらく、この重装歩兵隊は500程度。
特製盾の準備はその程度なんだろう。
なら、この500を叩けばいい。
「予定通り、俺がB地点手前までノワールと出る。その後ろにフォルディさんたち念動力隊、それをヴァーンたちが護ってくれ」
「了解だ」
「了解しました」
B地点での戦闘の肝は念動力者。
エンノアのもうひとつの異能。
念動力を操る彼らがいてこそ成立する作戦だ。
「ノワール行くぞ」
「オオン!」
自陣の防壁を出て、B地点へ。
「進めぇ!」
足を進める王軍重装歩兵隊。
乱れることのない隊列、迫力のある鎧が陽光に鈍く輝いている。
見事な進軍だ。
「ワディンのやつら、出てきたぞ」
「魔道具が効かないと分かったんだろ」
「なら、もう決まりだな」
「ああ、ひねりつぶしてやる」
「待て、あれは!」
「ダブルヘッドとあの冒険者か!?」
「あいつらはまずいぞ」
「ああ、気をつけろ」
俺とノワールに気付いた重装歩兵隊の足が止まる。
そこは、ちょうどB地点。
はは、完璧だな。
「盾を構えろ!」
重装歩兵隊を率いる指揮官の指示で歩兵隊が盾をこちらに向けてくる。
さっきの5人1組の防御ではなく、両手の盾を前に出しただけ。
俺の魔法とノワールの黒炎を警戒してるってことか。
では、期待に応えるとしよう。
「雷波!」
「「「「「うっ!」」」」」
「「「「「あぁ!」」」」」
その楯でも完全には防げないだろ。
とはいえ、これで倒しきることはできないからな。
「ノワールは待機だ。黒炎は後で頼む」
「オン!」
ということで、もう一撃。
「雷波!」
「「「「「ぐぅ!」」」」」
「「「「「うわぁ!」」」」」
「慌てるなぁ! しっかり盾を構えるんだ!」
よし、隊列が乱れたぞ。
「フォルディさん、お願いします」
「はい! 皆、力を込めろ」
「「「「「おう!」」」」」
俺の後ろにいる念動力隊。
彼らが念動力を発動する。
「ノワール、退くぞ」
後退してフォルディさんの隣、ユーフィリアたちが作った魔法防壁の後ろに身を隠した、次の瞬間。
ドッゴーーン!!!
ドッドーン!!!
ダーーン!!!
凄まじい爆発音!
魔法矢の炸裂音など比べ物にならないほどの轟音がテポレンに響き渡る。
「……」
「……」
「……」
轟音の後には、もうもうと立ち込める白煙。
その白煙の中に見えるのは……。
「「「「「「「「「「ううぅぅ……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「あぁ……」」」」」」」」」」
B地点に倒れ伏す多くの重装歩兵。
ほとんどが瀕死の状態だ。
本業多忙のため、明日からは不定期更新になります。
通常更新再開は次の日曜か月曜になると思います。
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御理解のほど、よろしくお願いいたします。
もちろん、可能であれば今週も更新いたしますので。





