表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
381/701

第377話  発現



 まずい!


 足の自由を奪われて不利な体勢の俺に襲いかかる3本の剣撃。

 速くて鋭い剣だ!

 が、剣姫の剣とは比べるまでもない。


 3剣の攻撃とはいえ、これなら何とか!


 自らの剣を救い上げるようにして眼前に叩きこむ。

 そうしようとした瞬間!


「だめぇ、駄目! 止まれぇ!!」


「!?」


 幸奈の発した叫び声と同時に3本の剣が止まってしまった。


「うっ……」

「っ……」

「……」


 剣だけじゃない。

 動きも完全に止まっている。


「「「……」」」


 何が起こったのか理解できず喪心状態の3人。

 俺も驚きで固まってしまうほどだ。


「お前ら、何をしている!」


 もうひとりの敵兵。

 俺に向けて魔法を放ってきた男が焦りの声をあげている。


 こいつは動けるんだな。

 なら、とりあえず。


「くそっ、喰らえ! ファイヤーボール!!」


 放たれたファイヤーボールを避け、その男に瞬足で接近。

 そして、一撃。


「ぅ!?」


 もうひとつ、とどめだ。


「ああぁ……」


 男が苦悶の表情で地面に倒れ伏した。

 よし、これでもう魔法使いはいないはず。


 6人の連携攻撃は敵ながら素晴らしいものだったが、魔法を使えないとなれば恐れることはない。地魔法か土魔法か分からないが、こっちは足さえ取られなければ問題ないんだ。


 で、動きを止めた3人。

 今も剣を振るおうとした状態で固まっている。


「……」


 その3人にヴァーンとアルが近づき。


「コーキ、大丈夫か?」


「ああ、こっちは問題ない」


「そうか。で、こいつらなぜ止まってんだ? コーキが何かしたのかよ?」


「いや、俺にも分からない」


 ただ、幸奈が叫んだ直後に止まったんだ。

 なら、もしかしたら……。


「……今は時間がねえ。とりあえず、始末するぞ」


「……ああ」


「うぅ……」

「ぅ……」

「……」


 恐怖を顔に浮かべているが、やはり動けないか。

 その3人にヴァーンとアルが容赦なく剣を振るう。


「……」


 戦いだから仕方ないこと。

 そう分かっていても、身動きの取れない相手にこれは気分の良いもんじゃないな。

 とはいえ、捕虜として地下に連れて行くというのも問題がある。


 まっ、俺が甘いってことか。


「コーキさん、ヴァーンさん、地下に戻ろう」


 急襲してきた6人は、すべて倒すことができた。

 残りの王軍は魔法矢を受けた衝撃からまだ立ち直っていない。

 未だ混乱中だ。

 こちらを襲ってきそうな兵士も見当たらない。


 やはり、この6人が特別手練れだったということか。


「おう、戻るか!」


 タイミングもいい。

 潮時だな。


 あと一撃放ってから離れよう。


「雷波!」






 ヴァーン、アル、そして幸奈たちと無事に地下に到着した後。

 ほんの僅かな休憩を挟んで始まった軍議。


 今後の方針についての意見が割れてしまった。


 ・これまで同様に局地的な遊撃戦を続ける。

 ・魔法矢を使って全力で攻撃を仕掛け、残りの王軍を撃退する。

 ・地下に籠って、しばらく様子を見る。


 方針はこの3つ。

 今はほぼ均等に意見が分かれている状態。


「ゼミア様、魔法矢の効果は抜群ですから、やれます! 正面から攻めましょう!」


「駄目だ、矢の数は限られているんだぞ」


 エンノアに渡した魔法の矢は500本。

 さっき100本を使ったから残りは400本しかない。

 先のことを考えれば、あまりにも心許ない数だ。


 しかし、俺の収納の中には通常のクロスボウの矢が2000本残っている。

 それを改造するための材料も揃えている。

 だから、魔法矢を作り出すことも可能。

 時間があればだが。


「敵が浮足立っている今こそが好機なんだ」


「そうだ、俺は賛成だぞ」


「お前ら、コーキさんが言ったことを忘れてないか」


「「「「「……」」」」」


「今対峙している王軍だけが俺たちの相手じゃない、トゥレイズやワディナートには数万の大軍が控えている。その大軍がやって来るかもしれないんだぞ」


「その通り。先のことを考える必要がある」


「だから、今は地下に隠れているべきなんだ」


「いや、遊撃戦を続けた方がいい」


 とにかく、話がまとまらない。

 まあ、こうして各々が意見を口にするのは悪いことじゃない。

 可能なだけ吐き出した方がいいんだが……。


「……」


 俺の目はつい幸奈の方に向かってしまう。

 幸奈とは地下に戻ってくる道中、そして地下で少し話しただけ。

 が、明らかに以前とは様子が異なっている。


 そんな幸奈を鑑定で調べたところ。



和見幸奈


レベル 1  20歳 女 人間


<異能>


魂替(たまかえ)、揺魂



 異能が増えていたんだ。

 しかも、この揺魂の異能は……。


・揺魂:人の魂に直接干渉し様々な影響を与える。

    効果は対象者の精神力によって変動する。



 壬生伊織の持っている異能と全く同じもの。

 にわかには信じがたいことだが、全く同じ異能がこの世界にいる幸奈の中で発現したということか。


 鷹郷さんから聞いた話によると、異能というのはひとりにつき1つが原則だということだったのに。


 ……。


 まあ、壬生という例外がいるんだ。

 同じような魂系の異能を持つ幸奈が2つ目の異能を手に入れたとしても、そこまでおかしいことじゃないのかもしれない。

 それに、この揺魂という異能は魂替から派生した異能とも考えられる。


 いずれにしても、今俺の目の前にその事実が存在する以上、それを受け入れるしかない。


 が、問題は……。


 自分の異能に気付いていない幸奈。

 3人のレザンジュ兵の動きが止まったことを不思議には思っているものの、それが自分の力の結果だとは全く考えていないようだ。


 それは、あの場にいた皆も同じ。

 奇妙な現象だったと感じているだけで、深く考えている様子もない。

 まっ、今はそんなことで悩む余裕もないんだろうけど。


 で、その幸奈。

 異能の自覚はないが、自分の存在に違和感を覚え始めている。

 ということは、幸奈が自身の記憶を取り戻すのも時間の問題かもしれない。


 記憶が戻れば魂替を使える可能性も高い。

 そうすれば、幸奈とセレス様が入れ替わることもできる。

 ようやく元に戻れる!


 ただ……。

 今のこの緊迫した状況では、諸手を挙げて喜ぶこともできない。


 難しいところだ。



「コーキ殿、コーキ殿の意見を伺ってもよろしいでしょうか?」


 ああ、今はこれからの方針を考えるべきだな。





 結局、その日は結論が出ることもなく、解散することになった。


 明けて翌朝。

 早朝から軍議を再開した結果。

 正面からの総攻撃はとりあえず回避することに決定、しばらくは様子を見るという結論に至った。


 そして、大きな問題が起きることもなく5日という時間が過ぎる。

 俺は来るべき時に備え事を進め、皆もそれぞれに準備を進めている。


 幸奈は……。

 まだ記憶が戻っていないようだ。


 そんなエンノアでの時間。

 ささやかな平穏が破られたのは、いつもの広場でのこと。


「大変です!!」


 朝昼夕と皆が集まる広場に入ってきたのは偵察班のひとり。


「どうしたのだ?」


 この様子、良い知らせではないだろう。

 数日前のことが頭を過ってしまう。


「大変です。麓にレザンジュの大軍が現れました」


「敵兵の数は?」


「1万は下らないかと」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  お疲れ様です。  幸奈ちゃんおめでとうと思いつつレベル1にお驚きです。コーキさんは自分と別のところで驚き喜んでますが、ね。  でもコーキさんが久々に安心している感がします。良かったです。…
[良い点]  幸奈の記憶がもどった!  あの神様のお力かと思ったのですが、違いましたね! 読者の想定を裏切る展開、流石です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ