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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第371話  遊撃戦


<イリアル視点>




「イリアル、この穴は本当に意味のあることなのか?」


「もちろんですよ。これで奴らも姿を現すはずです」


「……そうか」


 頷くトゥオヴィは納得のいかない表情を隠しもしない。

 そりゃ、そうだ。

 いきなり山中の地面に穴を掘り始めたんだからな。


「効果があるとは思えんが……」


 テポレン山での捜索開始から3日が経過。

 神娘セレスティーヌを見つけるどころか、手掛かりひとつ得ることができない状況に業を煮やしたふたりの千人長が口にしたのが、テポレン焼き討ちと撤退という言葉。


 何とも……。


 テポレン山に火を放つなんていう愚策は論外。

 そんなことしたら、テポレンに生息する無数の魔物がどういう行動をとるか!

 ありえねえ作戦だ。


 そもそも、この季節の生木がそう簡単に燃えるわけがない。

 実行自体不可能ってもの。

 それは上の者たちも理解しているようで、この作戦はすぐさま却下された。


 撤退はまあ、ここに神娘セレスティーヌが隠れていないのなら選択すべき考えだな。

 けど、神娘はここに隠れているんだぜ。


 結局、オルドウをはじめ近隣の街や村でも神娘セレスティーヌの姿が目撃されたという報告がない現状では撤退は避けるべきという周囲の説得もあり、千人長もテポレン山に留まることに同意したんだが……。


 とにかく、千人長ふたりの機嫌が良くねえ。

 あの感じじゃ、何をしでかすか分かったもんじゃない。

 下手なことをされると、計算が狂ってくる。


 ってことで、俺がトゥオヴィに提案したのが地面に穴を掘るという奇妙な作戦だ。

 もちろん、そんな奇想を受け入れてくれるのはトゥオヴィだけで、他の隊の連中は俺たち小隊の掘削作業を馬鹿にするように眺めるだけ。


 当然だな。

 捜索のために入った山で地面に穴を掘るなんて、そんな馬鹿なことを実行してくれたトゥオヴィと小隊の皆がおかしいんだよ。


 まっ、それも俺への信頼あってこそ。

 ただ今回は、ちょっとばかり申し訳ない気持ちになっちまう。


 ……。


 はっ、こんなこと考えるとは、俺も焼きが回ったもんだぜ。

 こいつらとは、あくまで仮初の関係だってのに。



「それで、この作業はいつまで続ければ良いのだ?」


「……夕刻まで続けましょうか」


「今日は穴を掘るだけになるぞ」


「それで良いかと」


 穴と言っても、1人か2人の兵士が入れる程度の小さな穴で深さも腰ほどまでしかない。

 そんな小穴が俺とトゥオヴィの眼前に数えきれない程広がっている。

 100人で数刻に渡って穴を掘り続けた成果だな。


「掘削作業のみで1日を……。今夜はノジンキト千人長と顔を合わせたくないものだ」


「はは、また文句ばかり言われそうですね」


「……誰のせいだと思っている」


「……」


 もちろん、俺のせいだ。






 レザンジュ王軍の後方に位置する天幕の中。

 相変わらず寝心地の悪い簡易寝具に包まれての睡眠。

 もう慣れているとはいえ、それでも決して気持ちの良いもんじゃねえ。

 眠りも浅くなるというもの。


 その上、今朝は……うぅ、寒っ。


 今の季節でもテポレンの朝はかなり冷え込む。

 こうして眠っていても目が覚めてしまうくらいに……。


 やっぱり、軍から支給される簡易の寝具だけじゃ足りねえな。

 寝具の中で身を縮めながら寝返りを打つ。


 ……。


 ああ、やってらんね。

 ホント、今回の仕事はよう……。


 ……。


 まさか、こんな複雑なことをする羽目になるとは考えてなかったなぁ。


 やり過ぎは良くねえ。

 かといって、放置もできねえ。

 加減とバランスが何よりも重要。

 そこに、ワディンとレザンジュの連中の思惑も入ってくる。


 はぁ~。

 魔眼持ちの俺じゃなきゃできねえ仕事だろ。

 それが分かってるから、ボスも俺に指令を出したんだろうが。


 にしても、人使いが荒いってもんだ。

 他のふたりとは扱いが違いすぎるぜ。


 ……。


 そもそも、ここまで長期に渡ってトゥオヴィの傍にいることになるなんて、当初は想定していなかったんだ。


 おかげで妙な情まで湧いちまった。

 っと、らしくねえ。


 けどまあ、それも……。


 微睡みの中、考えるとはなしに思考が続いていく。

 とりとめのない思考……。


 ……。


 ……。


 ……ん?


 何だ、この音は!?

 おそらくは軍営の前方。そこから聞こえてくる、この音は?


 ……なるほど、そうきたか!


 その考えに、一瞬で頭の中が冴えわたる。


 頭に引きずられるようにして飛び起き、天幕の外へ。


 ……。


 後方のこちらはまだ静かなもの。

 が、前方は喧騒に包まれようとしている。



「「「「「わあぁぁぁ!!」」」」」


「「「「「おおぉぉぁ!!」」」」」


「敵襲! 敵襲だぁ!」


「迎え撃てぇ!」



 ああ、間違いない。

 あいつら仕掛けてきやがった。


 ふふ、成功だ。





********************





「早く入れ!」


 20人全員が地下への入り口の扉をくぐる。


「よし、これで全員帰還したな?」


「「「「「はっ!」」」」」


 戦闘を切り上げたばかりの皆には依然として高揚が残っている。

 無事に初戦を終え帰還できたのだから、当然のことか。


「では、フォルディ殿、扉の偽装をお願いします」


「了解しました」


 ルボルグ隊長自らが率いて行われた初めての遊撃戦。

 実質戦闘時間は四半刻にも満たない程度だったが、それでも素晴らしい戦果を収めることができたと思う。


 もちろん、2000の王軍に対して20名の兵員で与えることができる損失などたかが知れている。

 ただ、この奇襲作戦の狙いは敵に損害を与えることだけじゃない。

 なので、初戦は大成功。そう言っても良いはず。


「偽装完了です」


「よし、これでもう安心だ」

「ああ、2000なんて恐れることもない!」

「王軍のやつら、テポレン山から追い払ってやる!」


 興奮が抜けきらないワディン騎士たち。

 そんな彼らと共に広場へと足を進める。


「けど、俺たちがテポレン山に隠れていることがバレてしまったな」

「ああ、もう後には戻れないぜ」


 彼らの言う通り、俺たちの存在が露見してしまった以上、レザンジュ王軍が自発的にテポレン山を去ることはないだろう。


 ここからは自力で王軍を何とかするしかない。


「大丈夫だ。遊撃戦を繰り返せば何とかなる!」

「そうだな」

「ああ、そうだ!」


 今回は早朝に敵陣を叩くという奇襲作戦だったが、今後は昼に夜にと遊撃戦を続ける予定。

 戦闘形式も場所も相手も、その都度変化することになる。


 けど、やれる!

 そんな手応えをワディン騎士たちは感じているようだ。





本日は発熱による体調不良のため更新が遅れました。

明日は……体調次第になりますが、なるべく更新したいとは思っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  むむむ……誘われているのでしょうか。どうなるか…… [一言]  体調が悪い中、更新ありがとうございます。どうか無理はなさらぬように……
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