第368話 会議は続く
「目的は何だ?」
「なぜ? 目的? これはまた、随分なご挨拶ですねぇ」
「……当然だろ」
「はぁ~、悲しいなぁ」
「……」
「ぼくは13歳ですからね、公園くらい来ますよ。公園で遊ぶなんて、年相応でしょ」
相変わらず、ふざけたことを言ってくれる。
「有馬さんはぼくのことを何だと思っているんでしょ?」
「……少年とは思っていないな」
「えっ、まさか少女だと思ってます?」
「……」
「やだな~、そんな怖い顔しないでくださいよぉ。これだと、冗談も言えないじゃないですか」
この調子、この余裕!
「……」
能力開発研究所での戦いで俺の力は理解しているはずの壬生のこの態度。
それだけ自信があるということか?
あれからそう時間も経過していないのに……。
「とにかく、ぼくは何もしてないんですから。ねっ、もっと穏やかにいきましょ」
「……それで? 言いたいことはそれだけか?」
「ホント、つれないなぁ。今は友好関係にあるんですよ。覚えてます?」
「今は停戦中だ。そんな仲になった覚えはない」
「酷い! 熱く闘った仲なのに……。ぼくは悲しいです」
っ!
これは?
「コーキさん?」
セレス様も空気の変化を感じ取ったか?
けど。
「大丈夫です」
「……」
壬生に殺気はない。妙な気配もない。
とりあえず、ここで争う気はないようだ。
「あくまでも友好関係だと言い張るんだな?」
「もちろんです」
「それなら、壬生の家を何とかしろ」
こいつは、それくらいの力を持っているはず。
「ああ、それはですね、ぼくも困ってるんですよ」
「……」
「ぼくが興味あるのは有馬さんだけですからね。有馬さんの友人に迷惑をかけるあいつらには辟易しているところで」
「壬生伊織の力があれば何とでもなるだろ?」
「そう簡単じゃないんです。壬生は面倒な家ですし、ぼくにもしがらみがありますから」
「壬生家では子供として振る舞っているのか?」
「うーん、まあ、どうでしょ?」
おそらく、壬生の中身は老成した人物。100歳、200歳の可能性すらある。
そんなやつが子供として行動するには、相応の理由があるはず。
壬生の家には、それだけの価値があるということか。
「でも、有馬さんがぼくを評価してくれるのは嬉しいので、ひとつ話しちゃおうかな?」
「……何だ?」
「貸しになりますけど?」
「……話せ」
「ふふ、話しますよ。と言っても、大したことじゃないですけどね」
「……」
「今は、このお姉さんをひとりであの家に帰さない方がいいです」
「どういうことだ?」
「嫌な奴が和見家を訪問中なんです」
嫌な奴?
「誰だ?」
「……有馬さん、さっきから言葉遣いが酷いですよ。もっと穏やかに話せません?」
「……誰が訪問しているのか、教えてくれ?」
「そうそう、そう言ってくれれば、ぼくも気持ちよく話せます」
まずいな。
壬生のペースになってる。
「実はですね、そこのお姉さんと鷹郷の部下が壬生の長男を捕まえてしまったもので、壬生家は怒り心頭って感じでして」
「壬生家の長男とは君の兄のことか?」
「そうなりますね。血はつながってませんけど」
実の兄弟じゃないと?
「近い内にあの研究所と和見家に何か仕掛けると思います。ということで、用心してくださいね」
「いつ何をするつもりなんだ?」
「それは、ぼくには分かりません」
「まさか、また襲撃か?」
「だから、ぼくには分からないですって。でも……正面から襲撃することはないと思いますよ。あいつらにそんな度胸はありませんから」
壬生家には、お前と橘ほどの度胸はないということか。
「今日はその前段階。壬生の者が和見家に訪問中です。なので、今お姉さんが帰ると嫌な思いをするだけですから、帰るのはもう少し後にした方がいいですね」
和見家を訪問しているのは壬生家の使者。
そいつが、嫌な奴か。
「……」
「今のぼくが話せるのはこれだけです。でも、役に立ったでしょ」
「……そうだな」
「ふふ、ひとつ貸しですからね」
「……」
「では、また会いましょう」
その言葉を残し、壬生は公園から去ってしまった。
以前と同様、身体を透けるように消して……。
「コーキさん!?」
「今のは壬生の異能です」
「消える異能……」
驚くのも無理はない。
けど、今はまず。
「古野白さんと武上に電話してもらえますか? 今の壬生の話を踏まえて、もう一度話し合いたいと思いますので」
壬生の話ぶりから、ここ数日の間に事が起こることはないと思うが、俺がテポレンに戻る前に相談する必要がある。
次にこっちに戻って来るのがいつになるかは分からないのだから。
「そうですね。分かりました」
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<ヴァーン視点>
「よし」
久々にゆっくり休めた身体。
活力が戻っているのを感じる。
本当に助かったぜ。
しかし、テポレン山の中にこんな場所があったとはなぁ……。
驚くどころじゃねえよな。
地下に広がる異質の空間。
岩肌むき出しの地下に溢れる不思議な光とその中に建ち並ぶ多くの建造物。
ロマンと現実が混ざり合った摩訶不思議な世界だぜ。
こんな状況でさえなけりゃ、ゆっくりと地下世界を楽しませてもらうのによ。
今はそんなことしてる場合じゃねえからな。
「ヴァーン殿!」
おっ!
こっちに歩いてくるルボルグ隊長の足取りも軽い。
ゆっくり休めたんだな。
すっきりした顔してるぜ。
「コーキ殿の姿が見えないのですが?」
「ああ、心配いらねえよ。しょっちゅう消えちまうけど、すぐ戻って来るからな、あいつは」
「なら良いのですが……今後の方針をもう一度確認する必要がありまして」
「だな」
「エンノアの民とも親しいコーキ殿がいないことには、それも……」
コーキがいなけりゃ、話し合うこともできねえか。
と思ってるところに。
「おい、どこ行ってたんだ」
戻ってきやがった。
「悪い。地中を見回っていたら遅くなった」
こんな早朝からか?
まっ、コーキらしいけどよ。
「コーキ殿、お待ちしておりました」
「隊長?」
「ああ、今後の方針を話し合おうってよ」
「……なるほど」
「コーキ殿、ヴァーン殿。それでは、あちらの部屋へ」
エンノアに提供された家屋の中でも最も大きいこの家の一室。
そこに集まっているのは、いつもの面々だ。
「セレスティーヌ様、これからもう一度我らの進むべき道を確認したいと思います」
「……はい、お願いします」
方針の確認。
といっても、
これからオルドウに向かうか、ここに留まるか?
まずは、その択一だけだ。
で、それが決まったら、詳しい内容を決める必要がある。
どれくらいエンノアに留まるのか?
ここでレザンジュ王軍を迎え撃つのか?
オルドウに潜伏するのか?
それが可能なのか?
無理なら、どこに行くか?
他国に逃れるのか?
はぁぁ。
簡単じゃねえよな。
ありがてえことに、エンノアの皆はここに残るように言ってくれるけどよ……。
っとに、悩ましいぜ。





