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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
370/701

第366話  テポレン山 2


<長老ゼミア視点>





「皆の衆、ここまでの経緯は今話した通りだ」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


 言葉にならぬざわめきばかりが耳に入ってくる。

 皆、声に出してはいないものの思うところがあるのだろう。


 当然じゃな。

 このような大事。

 皆にとっては生まれて初めてのことであろうから。


 無論、わしにとっても……。


「……」


「……」



 広場の中央にそびえ立つ美しき神像、エンノアの守り神トトメリウス様。

 いつもと同様、我らを見守ってくださっておる。

 ただ、そのお姿はいつにも増して神々しく。

 穏やかながらも尽きることのない慈悲の御心を映し出しているように思えてならぬ。


 エンノアの者が今のトトメリウス様を目にすれば、何かを感じ取れるはずじゃが……。



「どうする?」

「俺は……」

「私は……」


「ゼミア様のお言葉なら……」

「そうだな」

「でも……」


 ふむ、少しは声も出始めたか。

 ならば、先に進めよう。



「……遥か昔、我らエンノアの多くは各地で要職についておった。我らの力が(まつりごと)に役立てられておった」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「政に関わっておらぬ者もそれぞれの地で幸せに暮らしておった。だが、我らが力を発揮するにつれ、我らを利用していた者共がこの力を恐れるようになり……。次第に疎まれるようになっていった」


「そうだ……」

「ご先祖様は苦しんで……」


「ふむ。皆も知っての通り、その後エンノアは街を追われることになる」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「街に暮らしておった最後の数年は惨憺たる有り様だった。通りを歩けば悪魔と罵られ、近づくなと避けられ、街から出て行けと言われ、石まで投げられたという」


「悪魔だなんて!」

「石まで! あり得ない!」


 現実はさらに悲惨な状況だったと聞く。

 が、今はそこまで具体的に話す必要もないじゃろう。


「……迫害は次第に激化していき。特にエンノアの子らは虐められ暴力を振るわれ、命を落とす者も少なくなかったらしい」


「っ!!」

「許せない」

「ああ、許せないぞ」


 皆の心に眠るエンノアの魂に火が着き始めた、か?


「……街を出るのは仕方ないことだったのだろう」


「そんな!」

「ばかな!」


「このような苛酷な暮らしを続けることなどできるわけもないのだからな」


「仕方ないわけがない」

「悪いのは、為政者だろ」

「街の住人もだ」


「過酷な生活を放棄するのは当然のこと。だが! 我らエンノアが迫害を受ける謂れなどあったのだろうか? そこに正義は存在したのか?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「今ここで声を大きくして答えよう。否だ!」


「「「「「「そうだ!」」」」」」

「「「「「「ああ!!」」」」」」


「「「「「「否だ!!」」」」」」


 ふむ。

 エンノアの魂が復活したようじゃ。


「我らに非はない!」

「理不尽な迫害だったんだ!」

「間違いない!」


「長老!!」


「……ご先祖たちは各地の権力者に乞われ力を貸したにすぎぬ。それも、政を正しく行うために。決して私利私欲で力を使ったわけではない。そのことは時の権力者たちも重々承知しておったであろう」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「であるのに、彼らは我らを捨てた。恩を忘れ義理に背き、我らエンノアをまるで塵芥のように扱ったのだ」


「奴らは人じゃない」

「ああ、忘恩の輩だ」


「各地で街を追われたエンノアは数を大きく減らし、このテポレンに移り住むことになる」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

「以来、数百年に渡って我らはこの地に囚われたまま」


「「「「「くそっ!」」」」」

「「「「「っ!!」」」」」

「「「「「うっ、うぅぅ」」」」」


「今はこの地での生活にも慣れ、我らは穏やかに暮らしておる」


 ふむ。

 状況の説明は、もう十分じゃな。


「だが! 本当にこれで良いのか!?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「皆は今の状況をこの先も受け入れ、この地で生きていくのか? 我らの子や孫にもこの生活を強いるのか?」


「……嫌だ」

「駄目だ、これ以上は!」

「私は外に出たい」

「俺も!」


「……我らも人なのだ。地虫のように地下での暮らしを強要される存在ではない。人として当然の幸せを得る権利がある」


「「「「「そうだ!」」」」」

「「「「「権利だ!」」」」」


「日差しを身体に受け自由に街を歩く。食べたいものを食べ、好きな場所に暮らし、自分の道を自分で選ぶ」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「それを我らが求めて悪いのか?」


「「「「「悪くない!」」」」」

「「「「「悪いわけがない!」」」」」


「そう、その通り!」


「「「「「「「「ゼミア様!!」」」」」」」」


「ただ……今の状況は楽観できるものではない。数日中にレザンジュの大軍がテポレンに押し寄せてくるやもしれぬ」


「レザンジュが来るのか?」

「大軍が……」


「我らは、このまま地中に潜み嵐が過ぎ去るのを待つこともできる」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「皆、まだ隠れ住みたいか?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


「一生を地中で暮らすのか?」


「俺はいやだ!」

「もう隠れたくない」

「私も」

「外に出たい!」


「エンノアは選ばねばならぬ。自身の未来を!」


「「「「「「「……」」」」」」」

「「「「「「「……」」」」」」」


「皆の胸の内にあるその選択で良いのか? しかと考えよ!」



「俺は……外に出る!」

「俺も!」

「出るぞ!」


「「「「「俺もだ」」」」」

「「「「「私も」」」」」

「「「「「おれも」」」」」


 ふむ。 


「良いのだな?」


「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」

「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」


 大半は賛同しているようだが、不安に思う者もおるようだ。

 まあ、当然のことじゃな。


 ならば、最後に。


「エンノアに残された預言には、我らは再び自由を得ると書かれておる。その時は今ではないのか。黒と白が揃った今こそ、その時では!」


「そうだ!」

「我らには黒がいる」

「白もいるぞ」

「間違いない」

「コーキさんがいれば」

「あの人がいれば」


「エンノアの子らよ、今こそ預言に約束された勝利を我らの手で掴もうではないか。我らの意志を世界に示そうではないか!」


「「「「「「「おう!!」」」」」」」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」

「「「「「「「おお!!」」」」」」」


「「「「「「「やってやる!!」」」」」」」


 怒号のような歓声が広場に響き渡る。



 これでいい。

 ここまで揃えば、何の問題もない。

 エンノアの力を十全に発揮できるはず。


 我らの力、皆の知る精神感応と干渉。

 それだけではないのじゃ。


 多くの者は知らぬであろう。

 エンノアの全ての民がさらなる力を持っておることを。


「……」


 エンノアの精神の力は己にも発動する。

 我らは強く意志を表明することで、現実の事象に影響を与えることができるのじゃ。

 つまり、意志具現のためには表明の強さこそが重要となってくる。


 もちろん、複雑極まりない内面を扱うのだから、容易いわけはない。

 それでも、この力が有用であることに変わりはないじゃろ。





********************


<セレスティーヌ視点(姿は幸奈)>




「で、有馬はいったい何してんだ?」


「……」


 異世界にいます。

 なんて言えるわけがない。


「古野白も気になるだろ」


「そうね。ずっと家に戻っていないみたいだし、さすがに気になるわね。幸奈さんは知らないの?」


「……お仕事で遠出しているようです」


 遠くで仕事をしているというのは本当のこと。

 コーキさんはトゥレイズ城塞で仕事をしているようなものだから。


 でも、今の状況は?

 コーキさんとはもう何日も会っていないから、まったく分からない。

 トゥレイズで何か悪いことが起こっていなければ良いのだけれど……。


「遠出って、どこでバイトしてんだあいつ?」


「あの、私も聞いてないので……」


「そうなのね。それで、有馬君が戻って来るのはいつなのかしら?」


「ごめんなさい。それも知らないんです」


 これは本当。

 私が知りたいくらいだから。


「……」


「……」



 壬生さんに襲われている所を助けてもらって以降、古野白さんと武上君とはこうして顔を合わせる機会が増えた。今後も護衛を続けてくれるということなので、その打ち合わせがほとんどなのだけど……、それ以外にも色々と話をするかな。


 今もそう。

 駅近くのカフェでお茶を飲みながら話をしている。

 ふたりが言うには、異能の話もするので半個室になっているこの店を選んだらしい。



「有馬は携帯電話も持ってねえからなぁ。不便で仕方ねえぜ。って、古野白はポケベル渡したんだよな」


「ええ、有馬君はポケベルを持っているはずよ。ただ、連絡しても返事はないわね」


「あいつ、見てねえのかよ」


 ごめんなさい。

 見ていないのではなくて、見ることができないんです。


「もう仕方ないわ。今後のことは私たちで決めましょ」


「だな。といっても、方針はオレが護る、これだろ」


「そうね。あなたは正義のヒーローだものね」


「そういうこった」


「戦闘中なら少しは、いえ、ごくごく微量は理解できるんだけど……」


「んん?」


「ほんと、恥ずかしくないのね」


「何がだ?」


「……何でもないわ」


「そうか?」


「そうよ」


 このふたり。

 戦闘でもそれ以外でも、息がぴったり。



「けどよぉ、夏休みが終わったら、ちょっと難しくなるなぁ」


「あの、そこまで護ってもらわなくても大丈夫ですので」


 いつまでもお世話になるのは申し訳ない。

 この世界では、命の危険があるわけでもないし。


「そういうわけにはいかないわ。有馬君と約束したのだから」


「そう、遠慮は無用だぜ」


「……ありがとうございます」


 ありがたいことだけど。

 どうしても、気が引けてしまう。

 私は幸奈さんじゃないから……。



「この音は,幸奈さん?」


 えっ、携帯電話に着信?


「すみません、電話に出てもいいですか?」


「どうぞ?」


「少し失礼します」


 席を離れ電話を手に取る。

 相手は?


「……!?」


 コーキさん!


『すみません。連絡が遅くなってしまいました』


 コーキさんが戻ってきた!




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[良い点]  むむっ!  今度は異世界でコーキなしに事態が動く!?
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