表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
365/701

第362話  再編成


<ウィル視点>




 朝から降り続いていた雨がやみ、ちょっとした日差しが埃の舞う部屋の中に差し込んでくる。

 一条の光が照らし出すのは普段は目立たない僅かな染み跡。床に残る赤黒く変色したそれは、この部屋に滞在を始めた頃に私が汚してしまったものだ。コーキさんと一緒に部屋の中にいた時に、つい不注意で。


「……」


 今はオルドウに帰ってしまったコーキさん。

 あの時はまだこの宿にいたんだ。


「はぁ……」


 オルドウを離れてもう何日が経っただろう。

 まさかカーンゴルムに留まることになるなんて、こんなにも長い間オルドウに戻れないなんて。夕連亭を出発した時には想像もしていなかった。


 もちろん、今は十分事情を理解している。

 面会を求めている相手が普通ではないので、そう簡単に事が運ぶとも思ってはいない。それでもここまで長引くと、ちょっと……。


 当初の予定ではキュベルリアでヴァルターとカロリナに話を聞いて、その後はオルドウに戻るつもりだったのに。


 あの時、コーキさんを引き止めなくて良かった。

 でも、もし引き止めていたら?

 私に付き合ってくれたのかな?

 どんなに長くなっても?


 今、コーキさんが傍にいれば……。


 ううん。

 それは贅沢よね。


 私にはヴァルターとカロリナがいる。

 2人がいつも護ってくれている。

 だから、そう。

 これ以上を望むのは……。


 ほんと、分不相応だ。



「けど、長いなぁ」


 オルドウは変わりないかな?

 夕連亭は大丈夫?

 休暇が大幅に延びちゃって、ベリルさん怒ってるかも。

 宿のみんなも……。


「早く帰りたい」


 でも、もうすぐだ。

 面会が済めば全てが終わる。

 父には、一度会えれば十分。

 他は何も望まないから。


 きっと近い内に帰れる。

 オルドウに、夕連亭に戻ることができる。





「5日後です。準備しておいてくださいね、お嬢」


 5日後なんだ。

 面会の日は。


「……」


 あと5日。

 長いような短いような。


 それでも。

 ついに父に会うことができる!

 ようやく希望が叶う!


「ウィル様、良かったですね」


「ありがと、ヴァルター、カロリナ」


 これも全てヴァルターが手を回してくれたおかげ。

 私ひとりでカーンゴルムを訪れていたら、父に会うこともできなかったと思うから。


 本当に2人のおかげだ。

 ありがたい。

 嬉しい。


 嬉しい……?


 ほんと? 

 私、嬉しいのかな?


「……」


 幼い頃からずっと、父はいないと聞かされてきた。

 ヨマリ母さんは私にそう言い続けてきた。

 だから、父のことなんて気にもしていなかった。


 それなのに、あの夜の事件で父の生存を知って。

 こうしてカーンゴルムまでやって来て。


 それは……。


 父のことを知りたかったから。

 私と亡くなったユマリ母さんのことを父がどう思っているのか?

 事実を知りたかったから。


 ただ、父に会うこと自体は……どうなんだろう?

 嬉しい?

 ちょっと違うような?


「……」


 ()さんがいない今、私と色濃く血で繋がっているのはこの父だけ。

 なのに、全く実感が湧いてこない。

 直接会えば、何かが変わるのだろうか?


「でも……」


 相手はこの国の王。

 父であり、王である人。

 普通の感情で会えるとも思えない。


 私……。


 これで良かったのかな?



「ここまでお嬢を待たせてしまいましたが、謁見の約束を取り付けることができて一安心ですよ」


 父と会うだけなのに、謁見。

 仕方ないことだけれど、やっぱり普通じゃない。

 

「ただ、少し気になることがありまして」


「何かあったのかい?」


「ああ、偶然分かったことなんだが……」


「どうしたの?」


 ヴァルターが口ごもるなんて珍しい。


「……お嬢の情報が漏れているらしいんですよ」


「私の情報?」


 どういう情報が?

 私が現王の娘だなんて、知られているはずはないし。


「ええ。レンヌ家が関わっているのかもれません」


「またレンヌ家!」


 国境を越える直前に襲ってきたレンヌ家。

 私たちコルヌ家が憎いからって、他国にまで情報を渡すの!


「なので、用心は怠らないでください」


「……分かったわ」


「もうひとつ、今度は良い話があります」


「……」


「黒都の一流冒険者パーティーである憂鬱な薔薇(メランコリックローズ)が、我々に手を貸してくれることになりました」


 一流冒険者パーティーが味方になってくれる!


「あのシャリエルンが! 本当かい?」


「間違いない。お嬢の護衛もしてくれるぞ」


「それは心強いねぇ」


 護衛まで?

 ヴァルターがいるのに?

 まさか、ヴァルターひとりでは足りないってこと?


「あっ、これはあくまでも用心のためですよ。念のためってことです」


 そう?

 なら、いいんだけど……。





********************


<トゥオヴィ視点>




「まだ捕らえられんのか!」


 王軍の本部が置かれている旧トゥレイズ子爵邸。

 その一室、会議室として使われているこの部屋に将軍の怒声が響き渡る。


「申し訳ございません」


「その言葉、聞き飽きたわ!」


「はっ」


 将軍が立腹するのも当然。

 神娘セレスティーヌ捜索のために組織した5部隊のうち4部隊までもが壊滅させられたのだから。

 とはいえ、この様子は尋常ではないな。


「陛下と殿下には、10日もあれば十分と伝えてしまったのだぞ」


「……申し訳ございません」


「……」


「……」


「……」


 今すぐ退出したくなるほどの重い空気だ。


「閣下、この者に言っても詮無きことです」


「そんなこと、分かっておるわ!」


「でしたら、今は策を講じるのが先かと」


「……分かっている」


 将軍の怒りを抑えることができる数少ない将官のうちのひとり。

 第一参謀官の言葉で、将軍も少し冷静さを取り戻したように見える。


「では、どうする? 卿の考えは?」


「まずは彼らと交戦経験のある者の考えを聞いてみましょう」


 やはり、そうなるか。


「……いいだろう」


「それでは、ノジンキト千人長、閣下の前へ」


「はっ」


「貴君はローンドルヌ河において、彼らと剣を交えたのだな?」


「いえ、直接手を合わせたのは、トゥオヴィ殿になります」


「ふむ、そうか。トゥオヴィ、前へ出るように」


「ははっ」


「ノジンキト千人長の言葉に相違ないか?」


「はっ」


「ならば、どう考える?」


「どう、とは?」


「ふむ、まずは数だな。神娘を捕らえるために必要な人員はいかほどと考える?」


 難しい質問だ。


「……500は必要かと」


「やつらの数は50程度と聞いておる。50相手に500が必要なのか?」


「はい。500でも万全とは言いかねますが」


 イリアルが言うには、500でも心許ないらしい。

 ただ、この場で1000とは言いづらいからな。


「なるほど……。直接剣を交えた貴君の言葉、参考にさせてもらおう」


「はっ」


「閣下?」


「うむ……。もう失敗は許されぬ。であるなら、1000だ。1000の部隊を3部隊編成し、捜索に向かわせろ!」


「……承知しました」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] クーデターに追跡に親子(?)の死別に再会に…盛り沢山ですね。 全部に関係してるコーキくん大丈夫? 時間遡る?(遡れない) [一言] ここまで再登場してないヨマリさんだけなんですよね…正しい…
[良い点]  方々で動きが……  特にコーキがピンチですかね。数の暴力に勝つには難しいですからね……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ