第359話 白都キュベルリア 2
<ギリオン視点>
「……取り押さえろ。命は奪うなよ」
おっ!
黒づくめの男たちが、包囲を狭めてやがる。
本格的に動き出したとってことは。
やっぱり、出番だよなぁ。
よーし、オレ様が助けてやる!
と思ったんだが……。
「ふふ、ふふふふ……」
何だ、あの女の余裕は?
威勢の良さは、ハッタリじゃねえってか。
「命は助けてくれるそうだぞ、ウォーライル」
「では、こちらも命は奪わないようにしましょう」
「ふむ。聞きたいこともあるしな」
黒づくめは10人以上いるってえのに。
3人とも余裕の表情だぜ。
ホントに、やれんのかよ?
「……かかれ!」
「「「「「おう!」」」」」
ちっ!
始まっちまった。
こいつぁ、やっぱり。
オレが出るしかねえだろ。
とりあえず、3人を囲む黒づくめの後ろから。
いくぞ!
覚悟しやがれ!
「どりゃぁ!!」
「うっ!」
上段からの一撃でひとり目!
そのまま隣の黒づくめに。
「だぁぁ!!」
「うぐっ!」
横薙ぎ一閃。
これで、ふたつだ。
「なっ、何者!?」
黒づくめのリーダーみてえな奴が驚いてやがらぁ。
おい、あの女も驚いてんじゃねえか。
「君は!?」
「……正義の味方だな」
「正義の?」
「加勢するぜ!」
キン、キン!
「……」
「エリシティア様、一般人は巻き込まない方がよろしいかと」
「うむ。君、加勢は要らぬ。ここは危な……くはないか」
ギン、ザン!
「我らだけで充分。無関係の者が戦う必要はないのだから、離れていなさい」
キン、キン!
「すぐに離れるんだ」
「はあ?」
「今の話、聞いてなかったのか?」
何をごちゃごちゃと。
「聞こえてらぁ」
「ならば」
うるせえ。
こっちは、もう戦ってんだぞ。
っと!
「やあ!」
ギン!
危ねえ。
ギン!
一撃喰らいそうだったぜ。
「こんの野郎!」
邪魔すんじゃねえ。
空気読みやがれ、黒づくめ!
おめえみてえな奴はなぁ。
オレの剛剣で真正面から叩き切ってやらぁ!
「とりゃあ!!」
会心の手応え!
「うぅ……」
オレ様の剛力と高っけえこの剣にかかりゃあ、一撃ってなもんだ。
「君……」
ふん、これで分かったろ。
「ってことで、オレ様が助けてやるよ」
「……」
「……」
「……」
「くそっ! あいつからやってしまえ」
おう、おう!
かかってきやがれ!
キン、キン!
「だぁ!」
キン、ギン!!
「とりゃ!」
ザシュッ!
「うぐっ!」
ザン!
「ああ……」
はっ。
手応えのねえ奴らだぜ。
「エリシティア様?」
「ここまでくれば、やむをえまい」
「……」
「サイラス、皆を呼べ」
「はっ」
何だ、その光?
眩しいぞ!
ん?
合図か?
「「「「「「「……」」」」」」」」
「「「「「「「……」」」」」」」」
「「「「「「「……」」」」」」」」
おい、おい……。
どっから現れたんだ?
30人程いるじゃねえか。
「っ! まずい。撤退だ」
「ファイヤーウォール!」
「ストーンウォール!」
「ストーンウォール!」
「何っ!?」
壁で退路を断ちやがった。
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール」
「ファイヤーアロー!」
「ストーンバレット!」
そこに魔法の斉射。
「「「あぁぁ!」」」
「「「ぎゃあぁぁ!!」」」
「……」
えげつねえな。
「助勢、感謝する」
「ん……」
この数と魔法。
助けなんて不要じゃねえか。
こっちも分かってりゃあ、加勢なんてしなかったのによ。
「歯切れが悪いようだが……」
ったりめえだ。
「ふふ、どうした?」
「……」
「奴らに剣を放った時とは随分違うな」
この女……。
「威勢はどこにいったのだ?」
威圧感が半端ねえぞ。
鍛えてるって感じもしねえのに。
ちっ!
「どこにもいってねえよ」
「それは重畳」
「……あんたら、最初からこうするつもりだったんだな?」
「ふむ。まあ、そういうことだ」
「なら、助けなんて要らねえだろ」
「だから、そう言ったであろう」
「……」
何を?
「……ウォーライル?」
「聞いてなかったようですね」
戦闘中に?
そういえば、何か言ってたような……。
「ふふ、おかしな男だ」
「おかしくねえ」
戦闘に集中してただけ。
何もおかしくねえんだよ。
「おい!」
うん?
顔を真っ赤にした奴が前に出てきたぞ。
「貴様!」
「……」
「いい加減口を慎め!」
誰だ、こいつ?
「無礼者! 失礼にも程がある!」
「んだと!」
無礼なのは、割り込んでくるおめえの方だ。
「リリニュス、よい。問題ない」
「ですが……」
「私が良いと言っておる」
「……」
「不服か」
「いえ……申し訳ありません」
「ふむ、分かればよい。さて、話の腰を折って悪かったな」
「んなこたぁ、気にしねえよ」
「助かる」
こっちは、おめえの笑顔の方が気になるわ。
「ふむ、どうした?」
「……何でもねえ」
「ふふ、そうか」
こいつ……。
髪は後ろでまとめただけ。
化粧もしてねえ。
服装も飾り気のないもんだ。
それでいて、時折見せる威圧感が尋常じゃねえ。
おそらくは貴族なんだろうが……。
まっ、よく見りゃ、品もあるわ。
金髪もつり目の碧眼も、貴族令嬢っぽいしよ。
「それで、君は冒険者なのか?」
「ああ」
「ふむ、やはりな」
「……」
冒険者と聞いて嬉しそうな顔しやがって。
貴族の女が冒険者相手に、何なんだ?
ほんと、意味分かんねえ。
「……」
くそっ!
貴族なんて、ろくでもねえのに。
なのに、こいつの戦闘時の素振りや今のオレへの対応は……。
ちっ!
悪くねえじゃねえか。
「しかし、王都の冒険者がこんな所に何の用だ?」
「ん? オレは王都の冒険者じぇねえぞ」
「というと?」
「普段はオルドウで活動してんだよ」
「オルドウ?」
「ああ」
「オルドウの冒険者……」
「オルドウに何かあんのか?」
「ふむ、オルドウの冒険者には少々縁があるのでな」





