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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
354/701

第351話  籠城 2


<ディアナ視点>




「ばかな! おまえたちの参加は認められていないんだぞ!」


 トゥレイズ子爵の命令で、この3人は子爵邸で待機していたはず。

 戦闘には加われないはずなんだ。


「ああ、それなら問題ねえ」


「何を言ってる?」


「セレスさんが許可してくれたんだよ」


「セレスティーヌ様が?」


「ああ、そうだぜ」


「……残念ながら、おまえたちに関してはセレスティーヌ様に決定権はない」


「そんくらい理解してる」


「なら、今すぐ屋敷に戻れ」


「だから、最後まで聞けって」


「……」


「セレスさんがな、伯爵から許可をもらってくれたんだ」


「閣下から……」


「辺境伯爵様の言葉は、子爵の指示より優先されんだろ」


「……」


 体調不良の閣下の代理として今回の籠城戦を指揮しているのがトゥレイズ子爵。

 当然のことながら、閣下の言葉は何より優先される。


 ただ、そうなると。

 ヴァーンが参戦可能になる。

 あのコーキも。


「許可をもらったので、おれたちも戦います!」


「戦うっても、アルは魔法使えねえけどな」


「だから、弓で!」


「弓も練習始めたばかりだろ」


「もう充分使える!」


「ってことらしいぜ」


「……命令書はあるのか」


「おう、これだ」


 間違いない。

 閣下の署名が記されている。


「これで、文句ねえよな」


「……ああ」


 ヴァーン、アル、コーキ。

 この3人が我が軍に加わるのか。


「……」


 わずか3人。

 普通なら戦局に影響などないだろう。

 が、ひとりとんでもないやつが……。



「よーし、やってやっか。で、今の状況は?」


 ヴァーン、アル、コーキが王軍の陣形を眺めようと鋸壁(きょへき)の前に。

 鋸壁から、上半身を出している。


 って、まずい!


「ヴァーン、鋸壁に隠れろ。狙撃魔法がくるぞ!」


「ん? ああ、そういうことかよ」


「早くしろ。敵には凄腕の狙撃手がいるんだ」


「この距離なら大丈夫だろ。それに、隠れてちゃあ、こっちの魔法の狙いがつかねえ」


「おまえ!」


 敵は並の狙撃手じゃない。

 ヴァーンはさっきの狙撃を見ていなかったから……っ!


「きたぞ!」


「おう、ここは俺に任せてくれ。ストーンウォール!」


 早い!?

 こんなに素早く防御壁を?


 ドガン!!


 次の瞬間。

 敵陣から放たれた狙撃魔法が防御壁に激突。


 防ぎきった!


「「「「おお!」」」」


「「「「凄え!」」」」


「……」


 この発動速度で、この大きさの防御壁。

 耐久性も申し分ない。


 ここまでの魔法壁をヴァーンが作ることができる?


「問題ねえな」


「おまえ、いつの間にそんな魔法を?」


「詠唱の省略は、これまでも何度か成功してんだろ」


 それは、確かにそうだが。


「ここまで早くなかったぞ。おまえの防御壁も初めて見た」


「まっ、籠城戦に備えて特訓をしてたんでな」


「……」


 トゥレイズに着いてから、ずっと訓練をしていたのか?

 いや、それにしても、短期間で身につくものじゃない。


「コーキの指導は厳しかったんだぜ」


 子爵邸の中庭でコーキから教わっていた?


「弓の指導も厳しかったなぁ」


 簡単には信じがたいことだ。

 が、彼の指導なら……。



「ってことで、防御は任せてくれ」


「……」


 コーキに加え、今のヴァーンがいれば何とかなる?

 ふたりが対応できる範囲なら、鋸壁から身を乗り出しても?


「ヴァーンさん、次がくるぞ。さっきより強力だ」


「了解。ストーンウォール!!」


 またも驚異の速度で発動。

 防御壁に、さらにもう一枚重ねた?


 ドッガーン!!


 そこに強烈な衝撃が。

 これまでの狙撃魔法の中で一番の威力。


 防御壁は?


「おっ、一枚やられたか」


 敵の魔法がヴァーンの防御壁の一枚を破壊。

 が、二枚目は無事。

 今回も守りきった。


「敵の狙撃手、侮れないな」


「ああ」


 そう口にするコーキもヴァーンも余裕の表情。


「とはいえ、この程度なら問題ねえ。コーキはもちろん、俺の魔法でも十分対処可能だぜ」


「危なくなったら、姉さんも来てくれるし」


「シアは俺より発動が早えからなぁ」


「耐久性もシアの方が上だな」


「……」


 シア殿はセレスティーヌ様のそばにいるはず。

 彼女はこのレベル以上の防御壁を作成可能だと?


「まっ、今は必要ねえだろ。ってことで、今度はこっちの攻撃だぜ」


「ヴァーンさん、どこ狙うんだ?」


「それは……ディアナ?」


「ん、ああ、狙いは敵陣左方。その一団の中に狙撃手がいる」


「了解。あれだな」


 思わず指示してしまったが、ヴァーンはここから狙撃手を狙い撃てるのか?


「……ファイヤーアロー!!」


 まばゆいくらいに鮮烈な炎の矢が空中に現出。

 直後、素晴らしい速度で発射されたそれが大空を飛行し敵の一団の中へ!


 200歩以上はあるだろう距離を越え、着撃した。


「……」


 防御壁にも驚いたが、この火魔法も……。


「「「おお!」」」


「「「届いたぞ!」」」


「「「敵が慌ててる」」」



「ふぅ、何とか届いたぜ」


「けど、ギリギリだよなぁ」


 確かに、狙撃手のいる一団の前衛に届いただけ。

 狙撃手までは至っていない。

 それでも、この距離をヴァーンが?


「防がれたみたいだぞ」


「ホントか、コーキ?」


「ああ、間違いない。あっちの魔法防御も堅そうだ」


「……なら、もう一発撃ってやる」


 連発まで可能?


「ファイヤーアロー!!」


 可能なんだな……。


「どうだ?」


「また防がれた」


「ちっ、やっぱりこの距離じゃキツイかぁ」


「こっちが防げるんだから、あっちの魔法使いが防いでも不思議じゃないって」


「……」


「レザンジュは魔法使いが多いんだしさ」


「アルの言う通りだな」


「ちっ! しゃあねえか」


「そうそう、仕方ない。でもさ、コーキさんの魔法なら違うだろ」


「だな。コーキ一発かましてやれ!」


「この距離でどこまで威力を持続できるかあやしいもんだが、まあやってみよう」


「おう、何の魔法だ?」


「遠距離狙撃用の魔法だな。……雷弾!」


 コーキが口にしたのは初めて聞く魔法名。

 ただ、これは!


 バチ、バチ、バチ!


「「「「なっ?」」」」


「「「「この魔法、何だ!?」」」」


 見たことのない光の塊が空中に現れ。

 激烈な音を発しながら、天を斬り裂くように空を駆けていく!

 そして、着撃。

 光が弾けた!


「……」


 敵陣からは驚声が上がっている。


「コーキ?」


「敵の防御は突破したが……倒せてはいないかもしれない」


「ホントかよ?」


「けど、あれ!」


 狙撃手を囲んでいた陣形が崩れ。

 そして。


「狙撃手の一団が後退してるぞ」


「怖気づいたってか」


「間違いない。さすが、コーキさんだ」


 本当に後退している。

 一撃の魔法で……。





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