表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
351/701

第348話  凶報


 いつになったら幸奈の記憶が戻り、セレス様と入れ替わることができるのか?

 余裕のある時間ができると、どうしても考えてしまう。


「……」


 その幸奈はというと。

 中庭で剣の鍛錬をするアルとヴァーンを眺めている。

 とても穏やかで落ち着いた表情、か。


 体調不良の父、消息不明の母と兄、自分に降りかかった記憶喪失、スキル喪失。

 中身は現代日本人の幸奈が、こんな憂事の連続に真正面から向き合っているんだな。


 本当に……。


 もちろん、幸奈の中にはセレス様の知識、記憶が存在する。

 エビルズピークやローンドルヌ河を経験して、神娘セレスティーヌとしての自覚も芽生え始めているだろう。


 それでも、幸奈のしていることは決して簡単なことじゃない。

 立派なものだと、心から思うよ。



「セレス様、そろそろ中に戻りませんか? 少し冷えてきましたし」


「ありがとう、シアさん。でも大丈夫。ここまでの旅に比べたら、これくらい何ともないから」


「……」


「本当に平気よ。今は頭痛もほとんどなくて体調も万全なの」


「それなら、良いのですが……」


「シアさんは心配性ね」


「……」


 幸奈の頭痛はセレス様としての記憶と関係があるらしい。

 ということは、頭痛が治まっている現状は記憶が安定しているから?

 いまだ完全に記憶を取り戻していない状態で?


 頭痛がないのは良いこと。

 とはいえ、このまま安定してしまうと……。




「アル、まだ視野が狭いぞ。コーキにも言われてんだろ」


「……分かってる」


「おまえの集中力は何も問題ねえ。あとは、集中し過ぎず拡散することだ」


 以前は何より大事だと考えられていた集中。

 ところが最近は、過集中はパフォーマンスを下げると耳にすることも増えてきた。


「集中が過ぎると視野が狭くなるからなぁ」


「だから、分かってるって」


 もちろん、集中と拡散の度合いは個々人それぞれ違うだろう。

 ただ、俺自身の経験から1つ言えるのは。

 過集中は良くないということ。


「けどさ、拡散はヴァーンさんの課題でもあるんだぜ」


「……まあな」


 剣における集中と拡散。

 この厄介で面倒な課題に、今まさにアルとヴァーンが取り組んでいる。


「ほんと、集中の程度が難しいよ。そもそも、初めて聞いた考えだし」


「ああ」


「剣も学問も集中が過ぎるのは良くないなんてさ」


 適度な集中と拡散。

 簡単じゃないよな。



「コーキさん、集中と拡散って難しいのですね」


「ええ」


「わたしが祝福を使えないのは、そこが問題なのかも?」


 それは違う。

 幸奈が神娘の力を使えないのは当然なんだ。


「先生、魔法はどうでしょう?」


 魔法は……。


「やっぱり、集中し過ぎると良くないのですか?」


「いや」


 魔法に関しては、そう単純な話じゃない。

 ただ。


「では、集中した方が?」


「……一撃の威力だけを考えれば集中した方がいい」


 魔力を流し、構築、発動する過程での集中は間違いなく効果的だろう。


「シアの場合は、まだ魔法の質を上げることも可能だしな」


「えっ! わたしの魔法は集中で質を上げられるんですか?」


「もちろん」


「本当に……」


「ただし、戦闘中の過度な集中は危険だぞ。広く状況を把握してこそ魔法は活きてくることを忘れちゃいけない」


「はい」


 全ては状況次第。何事においても集中が最適という局面もあれば、そうじゃない時もある。ようは、柔軟に対応できるよう準備しておくことが重要なんだろう。


「練習ではより集中して質を上げる、戦闘では状況次第で使い分ける」


「ああ」


「集中と拡散かぁ……」


 集中と拡散については、いまだ俺も模索中。

 本当に難しい問題だよ。



「じゃあ、もう一本いくか」


「おう。次はヴァーンさんに勝ってやる!」


「アルは勝負より課題を優先した方がいいぞ」


「それもするけど、勝負にも勝つ!」


「ふん、生意気な」


「生意気でも勝つ!」


 やっていることは剣の鍛錬。

 しかも、かなり激しいもの。

 なのに、ずっと穏やかな空気が流れている。



「なんだか、いいですねぇ」


「アルもヴァーンも活き活きしてます」


 この空気を感じ取っているのは俺だけじゃない。

 幸奈もシアも……。


「ほんと、ふたりともいい表情」


 穏やかで心地良い時間。

 エビルズピークにローンドルヌ河と大変な時間を過ごしてきたから、より一層ありがたく感じられる。


 まだまだ問題は山積みだれけど、こういう時間は貴重だよな。

 そう思っていたのに。


「セレスティーヌ様!」


 ただならぬ空気と共に、ひとりの騎士が姿を現した。


「どうしました?」


「王軍がトゥレイズに向かって進軍を始めたようです」


 その凶報に、穏やかな雰囲気が台無しに……。





********************


<イリアル視点>




 あ~あ、またローンドルヌ河に戻ってきちまった。

 大変な目に遭ったばかりだってのに、またかよって感じだわ。

 ホント、俺だけ働き過ぎだろ。


「そう思わねえか」


「何の話だ?」


「だから、俺の仕事量だけ多すぎるってことだよ」


「それは思い違いだぞ。皆それぞれ苦労しているからな。現に、私もこうして連絡に来ている。遠路はるばるな」


「黒都からローンドルヌまでの旅なんて大したことねえわ」


「こっちも大きな仕事を終えたばかり、なのにこんな辺境まで来てるんだ。容易なことじゃない」


「はっ、俺の働きに比べりゃ、どうってことねえって。基本的におめえは黒都、あいつは白都の都会暮らしなんだからよ」


「お前は愚痴が多すぎる。この分担はボスが決めたこと。私たちが文句を言うことじゃないぞ」


「愚痴じゃねえ。単なる事実だ。それに、ボスに文句なんて言うわけねえだろ」


「これが愚痴じゃないなら、何が愚痴だと言うんだ」


 こいつ、分かってねえよな。


「……とにかく、俺は忙しいってこった。これからまたトゥレイズ侵攻が始まるしよ」


「まあ、それはそうだな」


「だろ。これから黒都に戻ってゆっくりできるおまえとは違うんだぜ」


「さっきも話したように、私は大変な依頼を片付けたところ。黒都でゆっくりする時間もない」


「どんな仕事だよ。どうせ大したことねえだろ」


「詳細はまだ話せないが、バケモノだらけの中での仕事だ。尋常じゃない任務だった」


「ミッドレミルト山脈にバケモンでも出たのかよ」


「……そういうことだな」


「俺も魔物だらけの島から脱出したんだぜ」


「マッドアリゲーターなんて比じゃない。お前の想像もできないバケモンだ。それを相手したのもバケモノだがな」


「ホントかよ」


 さすがに、それは言いすぎだ。

 そんなバケモンばかりいるわけねえ。


「ああ。おまえに嘘を言ってどうする」


「……確かに。こんなことでメルビンが嘘をついてもしょうがねえか」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] イリアルとの対峙……再び魔眼による露見の危機か?
[一言] えぇ!?メルビンΣ(゜д゜;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ