第346話 ヒーロー 2
<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
「拘束? 馬鹿馬鹿しい」
素直に拘束されるつもりはないらしい。
「能力開発研究所には歯向かわない方がいいんじゃない?」
「……あの研究所か?」
「ええ、もちろん今回も上からの指示で動いてるわ」
「……」
「……」
強気を崩さなかった異能者ふたりが若干動揺している。
能力開発研究所という単語は、彼らのような異能者にとって効果があるみたい。
「壬生さん?」
「若?」
「狼狽えるな!」
「しかし」
「研究所が出張って来ようと問題などない。私は婚約者と話をしているだけだ」
話をしているだけ?
よくそんな嘘を。
「幸奈さんに異能も使ったわよね」
「……会話の一環に過ぎない」
「そんなわけないでしょ」
「うるさい! 私は壬生だぞ」
「……」
「能力開発研究所の指示? それがどうした」
「……」
「ふっ。どうせ、おまえらは壬生家門に手を出せないだろ」
壬生という家が異能界において大きな力を持っていることは私も知っている。
でも、ここまで強気に出ることができる家門なの?
貴族社会の公爵家のように?
「はあ? 今をいつの時代だと思ってんだ?」
「今も昔も同じ。我ら壬生にとってはな」
「あなた、正気?」
「無論だ」
「これだから古い家は始末が悪いわ」
「とんだ時代錯誤野郎だぜ」
お互いの認識がかなり違う。
古野白さんたちが正しければいいんだけど……。
「度し難いのは、お前たちの方だ。が、今すぐここを去れば今回だけは許してやろう」
「去るわけないでしょ」
「オレ様が、正義の味方が裁いてやらぁ」
「できもしないことを口にするな」
「すぐに分かることよ」
「分かってねえなぁ。正義のヒーローってもんをよ。いつの時代も最後はヒーローが勝つんだぜ」
「……」
「……」
武上君……。
「ヒーローが悪漢をやっつける。これで万事解決ってな」
みんなが呆れた目を向けているのに気にならないの?
「……ん? どうした?」
「ホント、やめてちょうだい!」
「何を?」
「そのヒーローブーム、やめなさいって言ってるの。いい加減、頭がおかしくなりそうよ」
「古野白もヒロインでいいじゃねえか」
「……」
武上君って、こんな人だったかな?
さすがに、少し不安になってくる。
「……あなた最近おかしいわよ。あのビルで頭でも打ったんじゃないの」
「はは、これが普通だ。有馬にゃあ、負けてらんねえからなぁ」
「その対抗心の持っていき所がもう……」
コーキさん、確かにヒーローみたいだから、それに対抗を?
「っていうか、有馬はどこ行ったんだ? だいたい、幼馴染くらい自分で護れっての。厄介な和見の家の幼馴染なんだからよぉ」
「私たちは彼に借りがあるでしょ。こんなことじゃ、足りないくらいの恩が」
「……まあな」
ふたりともコーキさんに命を救われたことがあるらしい。
私と同じだ。
「おまえら、いつまで下らんことを喋ってる!」
「ごめんなさい、あなたの拘束が遅れてしまったわね」
「謝るなら、さっさと私の前から消えろ」
「ここにも話が通じない人が……」
私もそう思う。
「はぁ……。武上君、やるわよ」
「おう!」
「我ら壬生に手を出すつもりか?」
「当たり前だ!」
「後悔するぞ」
「ヒーローは後悔なんてしねえ!」
武上君の声とともに戦闘が始まった。
「おまえら、愚か者を叩き潰してやれ」
「「はっ!」」
ここから先は、私の予知していない未来。
でも、大丈夫。
このふたりなら、きっと。
「だぁ!」
身体強化した脚で武上君が跳躍。
そこに。
「アイスアロー!」
「ストーンバレット!」
異能の攻撃が降りかかってくる。
さっき私が受けたのと同じ攻撃。
「おら、おら、おりゃ!」
大声を上げながら、氷と石礫を回避し、破壊していく武上君。
後ろの古野白さんは。
「ファイヤーボール!」
炎の異能で武上君を援護している。
「おっらぁ!」
「ファイヤーボール!」
私は戦闘のことはよく分からないけど、でも、このふたりの息がピッタリだということだけは理解できる。
「だあぁ!」
武上君の身体能力、それを充分に使えるように炎で援護する古野白さん。
ふたりの連携は、とっても美しい。
コーキさんの戦いとは違う意味で、見惚れてしまう。
「くっ!」
「くそっ!」
でも、不思議なのはこの世界の異能。
氷や炎の異能は、私の世界の魔法とほぼ同じように見える。
なのに、やっぱりどこか違う。
それが何なのか?
今の私には分からない。
ただ、とても興味深い違いだと思う。
あっちの魔法学者なら、泣いて喜ぶ研究材料に違いない。
「炎霧!」
もうひとつ、おかしいのは異能名。
一貫性がないの。
だって、ファイヤーボールに炎霧なんだから。
「うぅ……」
「ぐっ!」
そんなことを考えている間に、武上君が氷の異能使いと石の異能使いを地面に押し倒し、拘束完了。
さすが、武上君と古野白さんだ。
「よくも……」
後ろで戦闘を眺めていた壬生兄の顔が歪んでいる。
「壬生に手を出してくれたな」
「次はおめえの番だぜ!」
「私の番? ふっ、愚かな!」
顔を歪めながらも、まだ動かない。
手下のふたりが拘束されたのに、助けようともしない。
「愚かなわけねえだろ」
「ならば、仕方ない。お前ら機関の犬には、ここで眠ってもらうとしよう」
「武上君、くるわよ!」
「おう!」
「和見さんは、少し離れて」
「はい」
あれがくる。
彼の異能が!





