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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
344/701

第341話  ローンドルヌ河 13


<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>




 上流から流されこの中州に上陸してきたマッドアリゲーターという魔物。

 その数は10体以上!


 時間が経てば、もっと多くの魔物がここにやって来るの?


「動きが鈍っているうちに片付けるとするか」


 重そうな体で今はほとんど動いていないマッドアリゲーター。

 でも……。

 この雨風の中で凶悪な魔物の姿を見たら、恐怖しか感じない。


 なのに、この兵士の顔に見えるのは余裕だけ。

 ユーフィリアさんも焦っていない。


 ……頼もしい。


「まっ、あいつらは陸じゃあ大したことねえんだけどよ」


 水中ほどは俊敏に動けない。

 そういうこと?


「あんた魔法使いだろ。先制は頼むぜ」


「……分かっている」


 ふたりがゆっくりと魔物に近づいて。

 これから攻撃が始まる、そんな時に。


「うっ、ううぅ……」


 わたしの隣で横になっている細身の兵士から声が!

 意識が戻ったの?


「ごほっ、ごほっ、ごぼぅ!」


 口から水を。

 さっきのわたしと同じだ。


「はあ、はあ……。こ、ここは!?」


 呆然とした表情。

 無理もない。


「私は……生きている?」


「ここはローンドルヌ河にある中洲です。あなたは意識を失っていたんです」


「助かった、のか?」


「はい」


「おっ、やっと目が覚めたかよ」


「イリアル、お前も無事だったか?」


「無事だったかじゃねえぞ。誰のせいでこうなったと思ってんだ」


「……すまん」


「っとに、気をつけろよ。おまえを失うわけにはいかねえんだからな」


「ああ、申し訳ない」


「分かったら、こっち来て手伝え。少しくらいは戦えんだろ」


「了解だ」


「あの、大丈夫ですか?」


 溺れて今まで意識を失っていたのに。


「……ああ」


 本当?

 もうひとりの兵士は鍛え上げられた体をしているけれど、こちらは華奢で細身。

 そんな彼が目覚めてすぐに戦うなんて。


「私も王軍のひとり。これくらいなら戦える」


「……」


「ん? 君……?」


 何?


「その白い髪、深紅の瞳は!?」


 あっ!?

 今は顔も髪も隠してなかったんだ。


「きさま、下がれ!」


 魔物と対峙していたユーフィリアさんがわたしの横に。


「お嬢様、こちらへ」


 わたしを庇って瘦身の彼と向き合ってくれる。


「まさか、ワディンの神娘……」


「っ!」


 知られてしまった!


「お嬢様に対して何を言っている!」


「そうだぜ、ウラハム。何言ってんだ?」


 こっちの男性は気づいていない。

 なのに、彼だけ?


「神娘はとっくに死んでんだぞ」


 えっ?


「……」


 わたしが死んだって、どういうこと?


「なら、今目の前にいるのは?」


「ちっ! ちゃんと視てみろ」


「そう、だな」


 細身の兵士が、ユーフィリアさん越しにわたしを見つめようとしてくる。

 その眼はどこか不思議な光を帯びて……。


「何をしている!」


 ユーフィリアさんが両手を広げ、立ち塞がってくれた。


「……神娘? いや、神娘じゃない? 偽物? これは?」


「だからな、神娘は既に死んでるんだって」


「……」


「もういいから、こっち来い。で、魔法使いさんも戻ってくれねえか」


「……了解」


 細身の兵士が魔物に近づいていく。

 ユーフィリアさんは……。


「お嬢様」


 わたしにだけ聞こえるように耳元で。


「幸いなことに、やつらは勘違いしているようです。このまま話を合わせましょう」


「……はい」


「では、少しお待ちください」


「……気をつけて」


 わずかに微笑んだユーフィリアさんが、また魔物の前に戻り。

 今度こそ、戦闘が始まる。


 でも……。


 わたしが神娘じゃない?

 死んでいるって?


 何を言っているの?


 勘違いしてくれるのは、ありがたいけれど。

 意味が分からない。


「……」


 偽物か。

 確かに、今のわたしは偽物みたいなものかもしれない。


 記憶は完全じゃないし。

 神娘の力も使えないから。


 酷い状態なのだから……。



「あっ!」


 痛い!

 また頭痛が。

 こんな場面で。


「アイスアロー!!」


 少し離れた場所で、3人が戦っているのに。


 わたしは痛みで意識が朦朧と……。


「……」


 意識が薄れていく。

 そんなわたしの頭に浮かんできたのは……。


 真白に霞がかかったような世界。

 そこに?


 白い部屋。

 私が横になっている。

 その傍らにいるのはコーキさん。


 どうして?

 涙を浮かべてる?


 って、これは!


 白昼夢?

 違う、予知だ!


 わたしが神娘の力を?


「……」


 いえ、それも違うわ。

 予知を使っているんじゃない。


 この映像は以前行った予知の記憶。

 それを、ここでまた見ているだけ。


 ただ……。


 何かおかしい。

 何かが?


 あっ!


 霞がかかっていた世界が消え。

 視界が戻ってくる。

 痛みも消えていく。


「……」


 今見た映像。

 何がおかしかったの?


 分からない。



「おい、こんなに動けるのかよ!」


「話が違うぞ。どういうことだ?」


「分からねえ。マッドアリゲーターは陸では動きが遅くなるはずなんだが……」


「雨のせいか?」


「雨だけで水中と同じように動けるなんてあり得ねえ、こともねえのか?」


「イリアル、原因なんてどうでもいい」


「……だな」



 そうだ。

 今は3人が魔物と戦っている最中。

 過去に見た予知のことで悩んでいる場合じゃない。


 それで、状況は?

 わたしが朦朧としている間に、どうなったの?


 魔物は……死骸がたくさん。

 でも、数はあまり減っていない。


 新たに上陸してきたってこと?



「あっ!」


「ウラハム!」


 ひとりが攻撃を受けてしまった!

 大きな顎の中に身体が!


「っ! この野郎!」


「グギャアア!!」


 もうひとりが、その魔物を倒したけれど。

 ウラハムさんという兵士は……大怪我だ!


「ウラハム……動けるか?」


「ぐっ! ……何とか」


「おめえ、後ろで休んどけ。薬は持ってんだろ?」


「……ない。河で流された」


「ちっ、俺もだ」


「……」


「おい、次が来るぞ! アイスアロー!!」


「グギャ!」


「とりあえず、退いとけよ。治療は……後で考える」


「……悪い」


 ウラハムさんが足を引きずりながら、こっちに戻ってきた。


 えっ!?


 凄い出血。

 こんなの、放置したら!




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― 新着の感想 ―
[良い点]  やはり……  ウラハムには何が見えたのか……
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