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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
343/701

第340話  ローンドルヌ河 12


<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>




 ローンドルヌ河下流にある中洲。

 そこにいるわたしたちの目の前には、レザンジュ王軍の兵士2名の姿。


 激しい雨の中、ひとりの兵士が意識を取り戻さない仲間を肩に担ぎ不敵な笑みを浮かべている。


「大丈夫です。私が護りますから」


 ユーフィリアさんがわたしを庇うようにして1歩前に。


「問題ありませんからね」


 普段は口数の少ないユーフィリアさんが、今はたくさん語りかけてくれる。

 わたしのことを気遣って。


「……」


 ただ、この状況。

 彼がわたしたちを襲うことはないのでは?


 嵐がやむのを待って、ここから脱出するのが先決。

 あちらもそう思っているはず。

 さっきの言葉からも、そう感じたのだけど。


「では、始末してきます」


「えっ?」


 ユーフィリアさん、いきなり?

 ちょっと待って!

 その言葉が口から出る、その前に。


「ひとりが意識を失っている今が好機です」


「……」


 確かに……。

 敵対するなら、今が好機だと思う。


「お嬢様のお顔も見られていますので」


 あっ!

 フードを外したわたしの姿を!

 ワディンの神娘だと知られてしまった!


「ここでお待ちください」


 そう言ったユーフィリアさんが敵兵のもとに1歩近づき。

 戦闘体勢に。


「仲良くしようつってんだろ」


「黙れ!」


「ほんと、おっかない騎士さんだぜ」


「……」


「けどよ、ちょっと周りを見てみろ。ほろ、そこを」


 男が指を差した先。

 そこには……。


 多くの魔物!


 大きな顎と硬そうな皮膚で覆われた体を持つそれは、コーキさんの手紙に書かれていた水中の魔物に他ならない。


 四足のその魔物が、こちらを眺めて!


「マッドアリゲーター!?」


「ああ、そうだ」


「……」


「この激流で流されたのか避難してきたのか分からないが、上陸する数は増える一方だぞ」


「……」


「ここで人間同士争う前に、まずはあいつらを始末した方がいいんじゃねえのか」


「……セレス様?」


 ユーフィリアさんがこちらを振り返り、わたしに問いかけてくる。

 魔物に対する知識なんてほとんど持っていないわたしに判断なんてできないのに。


 でも、この数は……。


「その方の言う通り、先に魔物を倒しましょう」


「……」


「ユーフィリアさん!」


「……承知しました。お前!」


「ああ、共闘しよう。その前にこいつをっと」


 意識を失ったままの仲間をこちらに運んでくる。


「何をする気だ?」


「何もしねえよ。こいつを運ぶだけだ」


「……」


「よっと。嬢ちゃん、ちょっと見ててくれ」


 わたしの傍らに仲間を寝かせ、ユーフィリアさんの横へ。


「さてと、やるか」


「……」


「あいつらはさっきから全く動いてねえ。アリゲーターの性質上、考えられないことだろ」


「何が起こってる?」


「ん? 激流に流されて混乱でもしてるんじゃねえか」


「アリゲーターが混乱?」


「分かんねえけどな」


「おまえ……」


「とにかく、そう、あんたが言う所の今が好機ってもんだぜ」


「……」


 あの魔物が上手く動けないのなら、まさに好機。


「ってことで、さっさと始末するぞ!」


「……分かった」





************





 ドッガァァーーン!!


 轟音を立て、橋の中央で横転した馬車。

 誰かが外に投げ出されたのか?


「……」


 分からない。

 通常なら見える距離でも、この視界の悪さだ。

 はっきり視認できないぞ。


 ただ、あの馬車は……。


 セレス様が、幸奈が乗っている馬車では!


「っ!」


 幸奈の姿、セレス様の姿はどこに?

 見つからない。


 ということは馬車の中?

 それとも?


 この雨なのに、焦りで汗が噴き出してくる。


 けど、もう橋に着いてる。

 なら、駆けつければいい。

 倒れた馬車へと走るだけだ。


「くっ!」


 が、レザンジュ王軍とワディン騎士たちが入り乱れた橋上。

 上手く進むことができない。


 邪魔が多すぎる。

 剣で道を切り開いても、これじゃ遅すぎる。


 それでも、無理やり強引に押し通っていく。



「コーキ? コーキか!」


「ヴァーン。セレス様はどこだ? 馬車に乗っていたのか?」


「ああ、馬車の中にいるはずだぞ。シアと一緒にな」


 やっぱり!

 シアも一緒に!


「って、お前どうしてここに?」


 戦闘に気付いたからに決まってるだろ。


「そんなことより、セレス様を助けに行くぞ!」


「助けに行く?」


 こいつ、気付いてない?


「馬車が横転したんだ!」


「何!?」


「行くぞ!」


「……分かった」


 顔をひきつらせたヴァーンが後ろからついてくる。


「ああぁぁ!」


「おおぉぉ!」


 ザン!

 ザシュッ!


 押し寄せる王軍兵を斬り捨て。

 前へ。


「アイスアロー!」


「ストーンボール!」


 キン!

 ガン!


 魔法を叩き割り。

 幸奈のもとへ。


 ザン、ザン!

 ザッ、ザシュッ!


「「ああぁ」」


「「ううぅ」」


 剣を振るい。


「雷撃!」


「雷波!」


「「「「「ああぁぁ……」」」」」


 魔法を放ち。

 ただ前へ進み続ける。


「雷波!」




 僅かな時間でかなりの敵兵をなぎ倒し。

 ようやく、そこに馬車が見えてきた。


 幸奈は馬車の中か?

 外か?


 どこだ?


「ヴァーン!」


「分かってる」


 まず、馬車の中を探すぞ。


「っ! シア!」


 シアが橋の中央に倒れている。

 やっぱり、馬車から投げ出されてたのか。


「しっかりしろ、シア、シア!」


「うぅ……ヴァーン?」


「シア!」


 駆け寄ったヴァーンの腕の中で意識を取り戻したシア。

 大きな外傷は見当たらない。


「頭は、体は、大丈夫か?」


「……平気。セレス様は?」


 シアは大丈夫?

 なら、幸奈は?

 どこにいる?


 いた!


 欄干のすぐそばに横たわっている。

 その右手が橋の外?

 何をしているんだ?


「ユーフィリアさん、すぐ助けが来ますから」


 助け?

 ユーフィリアが橋から落下しかけているのか?

 幸奈はその手を掴んで?


「!?」


 待ってろ。

 今助けてやるからな!


「なっ!?」


 欄干が!!


「「「セレスティーヌ様!!」」」


 欄干が崩れ、幸奈が橋の外へ!!


 ザッバーーン!!


「そんな……」


 信じられない。

 目の前の光景に思考が止まってしまう。

 呼吸を忘れてしまう。


「セレスさん!」


「セレス様ぁ!!」


「オオーン!」


 ヴァーンとシアが俺の傍らに。

 ノワールも。


「コーキ?」


 ああ、呆然としている場合じゃないよな。

 どこであろうと助けに行くだけだ。


「馬鹿、この激流を見てみろ」


「その激流のローンドルヌ河にセレス様は落ちたんだぞ」


 止めるヴァーンの手を払い。


「セレス様は必ず助け出す!」


「コーキ!」


「先生!」


「クウーン」


「だから、こっちは頼むぞ」


「「「……」」」


「それと、王軍の兵はこんなにはいない。これは敵の幻術だ」


「っ? 幻術?」


「ああ」


「……10倍もいねえってことかよ」


 事前の情報通り敵兵はワディンの5倍程度。

 この混線でどうなってるか判別しがたいが、おそらく大きな変化はないだろう。

 

 とはいえ、苦戦必至の兵力差に変わりはない。

 本来なら、何をおいても加勢したいところだが。


 今は幸奈を優先しなきゃいけない!


 それなら、せめて。


「ヴァーン、これを使ってくれ。雷波を6発込めてある」


 以前セレス様に渡した魔道具の改良版。

 これ1つしか残っていない貴重な魔道具だ。


「なっ、雷波を! いいのか?」


「惜しんでる場合じゃないだろ」


「……助かるぜ!」


 範囲魔法の雷波を使えれば、有利に進めるはず。

 次は。


「ノワール」


 水が苦手なノワールにも少しだけ。


「ドライ!」


 濡れた全身を乾かし、さらに若干の防水も施してやる。

 この程度で嵐を克服はできないだろうけれど、動きやすくはなるはず。


「クウーン!」


 満足そうだな。


 さあ、最後の仕上げだ。

 後方にいるレザンジュ兵の密集に向けて。


「雷波!」

「雷波!」


「雷波!」

「雷波!」


 もう1発!


「雷波!」


 よし。

 これで、かなり削れたはず。


「じゃあ、行ってくる」




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― 新着の感想 ―
[良い点]  お疲れ様です。  コーキさん、カッコいいです!  本当にいつも良いところに現れ場の雰囲気を。良いですね。  幸奈ちゃんも段々場慣れしてきてます。本人は気づいてないかもですが。一旦落ち着き…
[良い点]  まさかの共闘ヽ(*゜ー゜*)ノ  しかし、この王国兵、まさかあの人達だったりは……
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