第333話 ローンドルヌ河 5
レザンジュの者が鑑定を使える可能性。
露見カウントが増えてしまう、その可能性。
……充分にあり得る。
駄目だ!
露見だけは絶対に避けないと!
ここで露見すると1人じゃ済まない。
一気に、一瞬で、上限を超える可能性も考えられる。
そうなると、俺は異世界間移動を使えなくなってしまう!
もう……。
なら、どうすればいい?
既に知られている場合は?
「……」
そうだ。
悩む前に確認だ。
今の露見カウントはどうなってる?
ステータスは?
頼む、ステータス表示!
「……」
「……」
「……」
変化は、ない。
露見カウントは変わっていない。
異世界人だとばれてないんだ!
……よかった。
これなら、大丈夫。
ひとまずは安心できる。
「ん? どうかしたのか?」
「……いえ」
今回は運よく露見回避できた。
ただ、この女性兵士。
俺の強さは認識済みだと。
はっきり断言していたんだ。
なら、俺は既に調べられているはず。
鑑定のようなスキルで強さというものを測定されているのだろう。
おそらくは、ローンドルヌ大橋の上で。
なのに、カウントに変わりはない。
現状では露見していない。
つまり……強さの程度を見抜く能力は持っているが、ギフトなどを看破する力はないと。
そういうことだよな?
だったら、俺のギフトを知られる危険も露見の恐れもない。
確証のない希望的観測に過ぎないが、多少は楽観視してもいいだろ。
「……」
それでも。
念のため、あれを使うべきか?
使用による弊害に目を瞑って?
判断に迷っていたところに。
「来たようだ」
先程天幕から出て行った兵が、ふたりの男性を連れて戻ってきた。
「……」
「お呼びでしょうか、トゥオヴィ様」
「ああ。ウラハム、こちらに来てくれ」
「はっ」
ウラハムと呼ばれた青年が近づいてくる。
その華奢な体躯は武官というより、文官に近い。
それと真逆なのが一緒にやって来た男性。
こちらは、一見しただけで武官だと分かる体つきだ。
「ウラハムが視たのは、彼で間違いないか?」
「相違ありません」
このウラハムという線の細い青年が強さを見抜く能力者?
「それで、彼の能力については今も断言できるのだな?」
「……」
こちらに向ける眼は……普通じゃない。
その眼でステータスを視認できると?
なら、こっちも視てやろう。
「ウラハム?」
「……断言できます」
やっぱり、そうだ。
このウラハム青年、特殊能力を持ってるぞ!
看破の魔眼:対象の本質を見抜くことができる。
鑑定で判明した彼のスキル。
看破の魔眼で俺の力を見抜いたってわけだ。
しかし……。
本質を見抜くという表現は曖昧にすぎるな。
これでは、どこまで看破されているのか分かったもんじゃない。
「……」
看破の程度は不明。非常にあやしいスキル、看破の魔眼。
その魔眼で今も視られている。
が、大きな問題はないだろう。
こうして見られていても露見のカウントに変化はないのだから。
「これでもう、君が手練れだということに疑いの余地はない。肩書きではごまかしきれないものが君にはある、そういうことだな」
「……そちらのウラハムさんが私の技量を見抜いたのですね」
「……」
無言の肯定か。
「なるほど」
無言とはいえ、簡単に認めるとは。
相手の力を見抜くスキル持ちなんて、貴重この上ないだろうに。
理由は分からないが、隠す必要はないと考えているのか?
まっ、俺には隠しても無駄なんだけどな。
「君のその力、実体を隠す術も実に恐ろしい」
「……」
「こうして見ているだけでは、君の力を推し測ることなど到底できないのだから」
今の俺はある程度の気は消している。
そんな俺から感じ取れる気配と魔眼による測定値には大きな差があるだろうから、困惑するのも当然か。
「それに加えて、5級冒険者証明」
「……」
「ふふ、見事な隠蔽だよ」
とりあえず、露見の危機は逃れたものの。
これはこれで厄介かもしれない。
「この後、私はどうなるのでしょう?」
「うむ。しばらくはここに留まってもらおう。もちろん、一流の冒険者として遇するので、そこは安心してほしい」
体のいい監禁だな。
「トゥレイズ方面に向かうことも、ワディナート方面に戻ることもできないと?」
「そういうことになる」
「拒否すれば?」
「さっきも言ったように、すすめはしないぞ」
俺の技量を理解し、手練れと判断した上でのこの自信。
ウラハムのスキルのように、この分隊は色々と術を持っているようだ。
実際、このトゥオヴィという女性も侮ることのできない魔法を使えるようだし。
「数日ここに留まっても、何の問題もないだろ?」
「……」
武に劣り、術に優るレザンジュ。
レザンジュ王国については、よくこのように評されるらしいが。
まさに、その言葉通り彼らは多種多様の手練を隠し持っているってことか。
となると、ここは無理を通す場面じゃない。
かといって、監禁されている場合でもない。
なら、もう。
仕方ない。
「……これを見てください」
そう言って差し出したのは、1枚の書面と徽章、いや記章だ。
「!?」
トゥオヴィはそれを手に取るやいなや、目を見開き固まってしまった。
「トゥオヴィ様?」
「……見てみろ」
ウラハムが彼女のもとに近づき、書面を覗き込んでいる。
「これは……エリシティア様の!」
「ああ、間違いない」
「エリシティア様ですか?」
「イリアルも見るがいい」
「……レザンジュ名誉市民権と自由通行権利証。しかも、エリシティア様の署名入り」
「その通りだ。……ここには彼に便宜を図るようにと、エリシティア様直筆の書付まである」
「……」
「……」
効果てきめんじゃないか。
「君……コーキ殿はこれをどこで?」
「キュベルリアのエリシティア様の御屋敷ですが」
「キュベルリアで。そうか……」
白都キュベルリアでエリシティア様から拝領した書面と記章。
ここまでの効果があるとは思っていなかった。
さすが、エリシティア様だな。
「姫殿下の署名に、御直筆の書面まで。トゥオヴィ様!」
「ああ」
トゥオヴィを先頭に、ウラハム、イリアルが襟を正したような様子でこちらに向き直っている。
「コーキ殿、これまでの失礼、お詫びいたします」
揃って頭を下げる3人。
「あなたがエリシティア様の恩人だと知らなかったとはいえ、本当に申し訳ないことを……」
主人公の持つ書面と記章は、
第227話でエリシティアからもらった物になります。





