表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
322/701

第319話  異なる世界 18



 あまりの眩しさに閉じてしまった瞳。

 鮮烈な白光はとどまることがなく、降り注ぎ続いている。


「うっ!」


「っ!」


 閉じているのに、眼が焼けるように痛い。

 思わず手のひらで両目を覆ってしまう。


「……」


「……」


 あいつ、どうなったんだ?

 倒せたのか?


 この光の奔流はあいつを倒せたから、それとも?



 放光に耐えること数十秒。


「……消えたぞ」


 剣姫の声に目を開けると。


 白光が完全に消え失せていた。

 眩しいだけでなく痛みまで伴った白光が、嘘のように。


「……」


 光を受けた影響で、視界はまだぼやけている。

 痛みも残っている。


「アリマ!」


 それでも、目の前の光景を見誤ることはない。


「消えている……」


 白光だけじゃなかった。

 エビルズマリスの巨体が消失してしまったんだ。


 まさか、逃げられて?


 最後の手応え。

 今度こそは、やったと思ったのに?


 現実を前にして、剣姫も俺も口を開けることができない。


「……」


「……」


 沈黙の中、ぼやけていた視界が戻ってくる。

 その目で確認しても、結果は同じ。


 やはり、竜のようなあの巨体は存在していない。

 ただし……。

 不思議な光景が!


 さっきは気づかなかったそこに。

 大地の上には。


 存在していなかったはずの物体……。


 直径50センチほどの球体。

 突然現れた青黒く歪な球体が、静かに佇んでいた。


 その真中に2本の剣が突き刺さった状態で……。



「これは、いったい?」


「……変形したのでしょうか?」


「あの怪物が球体に!」


「……」


 エビルズマリスの巨体が50センチの球体に変形するなんて、普通なら考えられない。

 サイズ的にもあり得ないことだ。

 もちろん、そんなことは十分理解しているさ。


 けれど、現実は……。


 エビルズマリスが消えたその場に、さっきまで存在していなかった球体が残り。

 さらに、剣姫と俺が突き入れたドゥエリンガーが刺さっている。


「つまり、あいつを倒したと?」


 最後の一撃には確かな感触があった。

 首を貫通できたはず。

 それに、この状況。


 ならやはり、球体はエビルズマリスの成れの果て。

 あいつを倒せたということだろうか?



 その場に立ち尽くしている剣姫と俺。

 球体を眺めているだけじゃ、何にもならないな。


「とりあえず、剣を抜いてみましょう」


「うむ」


 警戒しながら2本の剣に手をやったところ。

 意外なほど簡単に引き抜くことができた。


 と、その瞬間。


「!?」


 球体が発光!

 また白い光を放って!


 ただし、光量はさっきとは比べ物にならない。

 少し眩しい程度。

 時間もわずかなもの。


 その短い放光が終わり……。


「……」


「……」


 消えてしまった。

 謎の球体が目の前から。

 跡形もなく……。



「意味が分からないな」


 まったくだ。

 この異界に来てから想定外のことが続いていたけれど、これはもう?

 何がどうなっているのやら?


 本当に理解できない。


「……あいつはどこに消えたと思う?」


 球体?

 エビルズマリス?


 どちらにしても、分かるわけもない。


「そもそもエビルズマリスを倒せていたのか?」


 あの感触。

 倒したと思いたい。

 が、正解は……。


 そんなことを考えていると、懐かしい感覚が身体に!

 これは、ステータスだ!

 すぐに確認を。


「……」


 レベルが上がっている。

 クエスト達成も。


「!?」


 そのクエストの名が!


<クエスト>


1、人助け 済

2、人助け 済

3、魔物討伐 済

4、少数民族救済 済

5、貴族令嬢救出 済

6、兇神討伐   済



 クエストが発生していたことには気づいていなかった。

 けれど、ここにはっきりと兇神討伐の達成と記されている。


 なら、間違いない。

 兇神を倒したんだ。


 ……兇神?


 エビルズマリスのことだよな?

 あいつ、神だったのか!?


「……」


 兇神、邪神、亜神。

 その類の神のようだが……。


 剣姫と俺は、神を倒したことになる?



「……」


 いいのか?

 こんな状況だし、倒してもいいんだよな?


 クエストには成果が明示されている。

 神様も認めてくれている。

 だったら、問題はない。

 問題ないはず。


 そう思いたい。


「……」


 ところで。

 兇神がエビルズマリスということなら。


 あいつを屠ったことになる。

 倒したってことに。


「……」


 よし!

 あいつを倒した!

 倒したぞ!




「アリマ?」


「……」


「身体が痛むのか?」


「いえ、大丈夫です。それより、やりましたよ」


「そうか。ん、何をやったのだ?」


「あいつを倒したんです」


「……もちろん、その可能性はある。が、確信など持てないだろ?」


「まあ、そうなんですけど」


「うむ?」


「私にはそういう能力がありまして……。分かるんですよ」


「……」


「討伐成功です」


「……本当か?」


「はい」


「信じて良いのだな?」


 疑う気持ちはよく分かる。

 でも、事実なんだ。


「討伐は終わりました」


「……」


「間違いありません」


「……そうか」


 ひとつゆっくりと安堵の息を漏らす剣姫。

 電池が切れたように、その場に座り込んでしまった。


「ええ」


 俺も剣姫の隣に腰を下ろし。


「終わったんです」


 そして、背中から赤い土の上へ。


「終わったか……」


 ああ。

 ようやくだ。

 長い戦いが、今終わった。


「……」


 これまでの疲労を身体が思い出したように、急に力が抜けていく。

 思わず大の字になってしまう。


「ふふ……」


 本当に疲れたよ。

 でも、やっと終わったんだ。


「君のおかげだな」


「イリサヴィア様のおかげです」


「そんなことはない」


 いや、紛れもない事実だと断言できる。


「私ひとりでは無理だっただろう。倒すことはもちろんだが、ここで命を繋ぐことすら叶わなかったはず」


「……」


「君は、私の命の恩人」


「いえ、私だけではあいつを倒すことなんて不可能でしたから。イリサヴィア様こそ私の命の恩人ですよ」


「互いに命の恩人、か」


「……そうですね」


「ふふ、ふふふ。それも悪くない」


「……ですね」


 穏やかな笑顔を浮かべた剣姫が、俺の傍らで仰向けに。

 ともに鉄錆の大地を背に、赤銅色の空を見上げている。


 ここ数日間の緊張感ある仰臥とは意味が違う。

 心から安堵した、安らかな休息だ。


「……ところで、アリマ」


 うん?


「いい加減、それはやめてくれないかな」


「何をでしょう?」


「その慇懃な態度だよ」


 慇懃?

 口調のことか?


「……」


 剣姫は爵位持ちの冒険者。

 振る舞いに注意するのは当然だろ。

 そもそも、彼女に対しては最初からこの口調だしな。


「イリサヴィア様は1級の冒険者、冒険士ですし、準男爵の爵位も待たれているのです。ですので……」


「いや、私も君と同じ冒険者にすぎん。それに、こうして共闘したのだ。さすがに、それは他人行儀というものであろう」


「……」


 と言われてもなぁ。

 今さら……。


「やめてもらえるか?」


 そう言って、傍らから強い視線を向けてくる剣姫。




申し訳ありませんが、本業多忙のため今週は更新が不定期になるかもしれません。

もちろん、可能な限り更新しますので。


ご理解のほどよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  距離が縮まる瞬間!  いいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ