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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
320/701

第317話  異なる世界 16



 一瞬で、すべてが変わった。

 周囲がすべて!


「……」


 緩やかに時を刻む世界!


 目に入る光景も、耳に入る音も。

 あいつの動きも。

 すべてが緩慢に進んでいる!


 この感覚は?

 こっちの世界でも、前回の人生でも経験したことのない未知の感覚……。


 まったく理解できないが、今はこれ以上にありがたいことはない。



「グゥオォ」


 真上から近づく剛爪。

 狙いは俺の頭。

 剣姫は俺の後方。

 ここで避けても問題はない。


「ォォォ!」


 音も剛爪もスローモーション。

 これなら、今の俺でも簡単に避けることができる。


 不自由な身体を叱咤し、剛爪を避けるよう横に回転。

 最小の動きで地面を転がり回避に成功。


 当然、終わりじゃないよな。


「オオォォ」


 やってくるのは2撃目。

 これもスロー。

 躱せる!


 同じく地面を転がり回避。


「ォォォ」


 3撃、そして4撃目も。

 続けて地面を転がる。

 剣姫から離れるように転がり続ける。


 ドスン。

 ズボッ。


 その度に地面には大穴が生まれていく。


 5撃。


 6撃。


 7撃。


 8撃。


 ドッガーン!


 9撃目にして最大の攻撃に大きく抉り取られる地面。

 それでも今の体感では、鈍重な一撃に過ぎない。


 地面を転がり距離を取る。

 あいつの追撃は……ない。


「グゥロオォォォォォ!!」


 そこに響き渡る怒声。

 いや咆哮?


 ただ、これも間延びして聞こえてくるだけ。

 脳にもまったく響かない。


「グルゥ……」


 咆哮がやんだ。


 と、次の瞬間。

 静寂とともに時が戻ってくる。

 世界が、正常に時を刻み始める。


「……」


 今の奇跡のような時間は?

 集中していたからなのか?

 それとも、神様の加護?


 分からない。

 けど、助かった!

 本当に。



「アリマっ?」


 駆け寄ってくる剣姫。

 その動きには咆哮の影響が見える、が……。

 距離があったからか、そこまでのダメージはなさそうだ。


 とはいえ、咆哮、ブレス、咆哮と立て続けに喰らっているからな。

 蓄積したダメージは少なくないだろう。


「平気なのか?」


「ええ」


「すべて避けて? 怪我は?」


 見ていたから分かっているだろうに。

 心配してくれるんだな。


「咆哮は? 動けるのか?」


「……大丈夫です」


「そうか」


 不思議なことに、咆哮によるダメージは皆無。

 何の問題もない。


「……ここからは私がやろう」


 万全じゃない剣姫。

 それは俺も同じ。


 いや、今の俺には目眩も痺れもないな。

 ただ肩が痛むだけだ。


 なら、俺の順番だろ。


「いえ、私がやりますよ」


「駄目だ。私に任せろ」


 剣姫の愛剣はあいつの首に突き刺さったまま。

 今の彼女の手には俺の剣。


「イリサヴィア様は動きがまだ戻っていません。私はもう動けますので」


「……左肩は?」


「平気です」


 平気ではないが、右肩ではなく左肩だからな。

 剣を振るのに大きな支障はない。


「そう、か」


 ああ、そういうことだ。


「剣を貸してください」


「……うむ」


 さあ、最後の戦いを始めるぞ。


「グルゥゥ」


 9連撃をすべて避けられたからだろう。

 エビルズマリスは動きを止め、こちらの様子を窺っている。

 ただし、その眼に浮かぶのは苛立ちと嗜虐的な光。


「……」


 そうだよな。

 気分が悪いよな。


 でもな、それはこっちも同じなんだよ。

 だからもう。

 決着をつけよう!


 そんな俺の気持ちを察したのか。


「グゥオォォ!!」


 あいつが向かって来る。

 その動きは単純で直線的もの。


 ならば、この距離、この角度。

 外さない。


「雷撃!」


 今回は難なく発動した雷撃。

 あいつは上体を斜め後方に反らし直撃を避ける。


 さすがだ。

 けど、これで。


「雷撃!」


「グギャ!」


 今度はとらえた。

 なのに、止まらない突進。

 やはり、魔力不足の威力不足は否めないか。


「オオォォ!!」


 エビルズマリスの巨体はすぐそこ!


 もう雷撃じゃない。

 こいつだ!


 剣を構え、前方に跳躍。

 突進する巨体と正面から衝突するようにして剣を突き出す。


 最速、最高の一撃。

 それを首元の真皮へ!


 ザシュ!


 確かな感触が手のひらに伝わり。

 俺の剣が剣姫の愛剣のすぐ横に突き刺さった!


「ギャワァァァ!!」


 迸る悲鳴。


 けれど……。


 足りない。

 貫通していない。


「っ!」


 もう一押しが必要だ。

 渾身の力を込め、剣を奥へ!


 そんな俺に、あいつの腕が迫ってくる。

 若干威力の落ちた攻撃とはいえ破壊力は相当なもの。


 その攻撃が眼前に!

 が、ここは離れられない!


 ここで押し込めないと、剣が真皮と肉に固定されてしまう。

 魔力を込めることもできなくなる。


 だから、あいつの腕を完全に避けられなくても。

 この剣は手放せない!


 まともに受けないよう、体勢を整えたところに。


「させない!」


 迫る腕の軌道が逸れた?

 剣姫が短剣をあいつの腕に叩きこんで、軌道を逸らしてくれたんだ!


 最高の援護。

 完璧な加勢だよ!


「アリマ、とどめを刺してやれ!」


「了解」


 もう、することはひとつだけ。

 ただ真っ直ぐに剣を前へ!


 ズッ!


 まだ動く。

 押し込める。


 ズブッ!


 なら、奥へ!!


 ズズッ!


 もっと奥へ!!


 ズズズッ!!


「グゥギャァァ!!」


 あいつの顔には苦悶の表情。


 剣は……。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  良いよ。二人とも遣っちゃってください~。  アッ、お疲れ様です!  倒される様が嬉しくついつい本音が先に出てしまいました。本当に倒されるかはまだ先に進まないと分かりませんが気持ちいい…
[良い点] 最後のひと押し…… そろそろアレが……でも呪文を唱える時間はなさそうですが……どうなる!?
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