第32話 レベル
今俺はオルドウの町を出て1時間ほど歩いた距離にある森に来ている。
魔物との戦闘を経験するためだ。
でもって、今まさに戦闘を終えたところ。
ウサギと犬の中間のような魔物の遺骸が目の前にある。
初めての魔物との戦闘だったので戦闘前はかなり用心していたのだが、思いのほか簡単に倒すことができたな。
ジルクール流剣術やオルセーとの戦闘を経験することで、自分の力が何となく分かるようになっていたのだが……。
やはり、この辺りの魔物なら問題はない、か。
もちろん、強力な魔物がどんなものかはまだ分からない。
今後、そんな魔物とも対戦することになるだろう。
それまでに多くの魔物との対戦経験を積む必要があるな。
さて。
今回はなぜ魔物を倒しに来たのか?
それは、3つ目のクエストが表示されたからだ。
そのクエストとは。
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
文字通り魔物を倒せばいいだけのクエスト。
魔物を1体倒しただけでクエスト達成ということになってしまった。
人助け同様、非常に呆気ないものだ。
クエストが簡単なことは、ありがたいと言えばありがたいのだが、3度も続くと拍子抜けしてしまうかな。
ホント、クエストってこんなに簡単で良いのだろうか。
……。
そしてその報酬が、またあれだ。
セーブ&リセットをもらってしまった。
まあね。
本当にありがたいとは思うよ。
でもさ、何度でも言うけど、これバランスが取れていないよなぁ。
簡単なクエストが3度続き、報酬は破格のセーブ&リセット。
夕連亭の一件の方が何倍も大変だったのに、あれはクエストでも何でもないんだから。
まっ、考えても無駄か。
神様の考えは俺なんかには想像もつかない。
ありがたく貰っておくだけだ。
というように微妙な感じはするものの、クエスト達成からのセーブ&リセット入手はある程度は想定内。
想定外だったのが、新たに現れたレベル表示。
何度か魔物を倒した後にステータスを見るとレベルが2になって、各種ステータスが上昇していたんだ!
レベルアップしたステータスはこれ。
有馬 功己
レベル 2
20歳 男 人間
HP 121(11増加)
MP 171(16増加)
STR 201(18増加)
AGI 138(13増加)
INT 232(21増加)
確かに、力も敏捷性も上がったような感じがする。
……。
エストラルって、レベル世界だったんだな。
でも、レベル1は表示されなかったぞ。
単にレベル1段階では表示されないということ?
そういうことなのか。
色々と基準が分からないが、これもそういうものだと思うしかないな。
しかし、レベルの世界かぁ。
「ふふ」
俺向きの世界じゃないか。
地道なレベル上げは大の得意だからな。
前回の人生でも、30年にわたって体力、武術、魔法を鍛えてきた。道場や、ジムなんかの鍛錬はもちろん、自宅でも毎日腹筋1000回、腕立て500回、スクワット500回なんかを30年の間続けてきた。
高熱で寝込んでいた日以外は毎日欠かさずだ。
地道な運動を毎日欠かさずというのは、そう簡単じゃない。
試したことがある人なら分かると思うが、1年続けるだけでも結構難しい。気分が塞いでいる日も、落ち込んでいる日も、勉強や仕事で疲れている日も、帰りが遅くなった日も、毎日欠かさず身体をいじめるというのは難しいものなんだ。
という訳だから、現実世界でのレベル上げは楽しみで仕方がない。
問題と言えば時間かな。
日々の鍛錬に加え、レベル上げもするとなると時間のやりくりが大変そうだ。
何と言っても、今はオルドウでの活動に時間を費やしたいからな。
そこは、上手く時間調整していくしかない。
ということで、引き続き魔物との戦闘でレベルを上げていこうと思う。
ちなみに、今俺がいるのはオルドウの東に位置する常夜の森。
鬱蒼と茂った樹々が陽光を遮るため、日中でもほとんど日が差さないという森の状況から命名された名称らしい。
その常夜の森の西側から入ってすぐの辺りで、俺はレベルアップのために対魔物戦を行うことにしたのだ。
森の端なら、そうそう強力な魔物も出没しない。そういう情報を手に入れていたから、ここを選んだというわけだ。
森の入り口からあまり離れないように、少しずつ移動しながら魔物を探す。
おっ!
南側の茂みから、2本の小さな角を生やした仔馬のような魔物が2頭歩み出てきた。
あれは……。
多分、パピルという魔物。
冒険者ギルドに併設されている書庫で閲覧した魔物図鑑に載っていた。
魔法は使えず体当たりと角による攻撃をするだけの魔物らしい。
難しい相手ではないだろう。
そうそう、オルドウの街に、いや、この世界に異世界の物語で定番の冒険者ギルドというものが存在していると先日耳にしたので、冒険者としての登録を済ませておいた。
実のところ、今後もオルドウを活動拠点とするかなど、まだ決めていないことが多かったので、冒険者登録についても考慮中だったんだ。
そうなんだけれど、ギルドで図書閲覧のついでに冒険者という職について聞いたところ、今の俺にとっては良いことだらけだったので、結局オルドウで冒険者登録をすることに決めたと。そういうことだ。
そんなわけで、今の俺はランク5級の新人冒険者。
「おっと」
パピルがこちらに気付いたのか立ち止まって警戒の眼差しを送ってきた。
その様子からは、恐ろしいという感情などではなく可愛らしいという思いがこみ上げてくる。
全く魔物には見えないな。
愛らしい仔馬にしか見えない。
なんて思っていたら、1頭が跳ねるように俺の方に駆け出してきた。
こうなると、さすがに迫力がある。
木々を縫うようにして回避、距離をとったところで。
魔法を試してみよう。
まずは。
「雷撃」
夕連亭で使った雷撃とは違い、必殺の魔力を込めている。
バリ、バリ、バリ!
直撃した紫電が向かって来た魔物を覆い尽くす。
「キュウゥゥ」
激しく痙攣するパピル。
ドスン。
身体から煙を発しながら、倒れ込んだ。
ピクリともしないが。
死んだのか?
調べるのは後、もう1頭への対処を先にしないとな。
「石弾」
こちらも先日の公園でのそれと違い、相当の魔力を込めてみた。
ドン!
逃げようとするパピルの頭に直撃。
「……」
頭を粉砕してしまった。
ドスン。
頭を吹き飛ばされたパピルが、ゆっくりと地に沈む。
さすがに、これは死んでいるな。
2頭に近寄り生死を確認。
うん、2頭とも死骸となっている。
雷電も石弾も問題なく通用するようだ。
オルドウの町で得た情報から推測して、俺の魔法は魔物にも充分通用すると思っていたが、これで一安心だ。
というか、このレベルの魔物相手には過剰だったかもしれない。
次は威力を抑えた状態で試してみないとな。
もちろん、他の魔法も。
しかし……。
こうして亡骸を見ていると、ペットを殺したような気分になってくる。
相手は魔物だと分かってはいるが。
「……」
ちなみに、雷撃も石弾も自分で命名したもので、この世界でこのような魔法が何と呼ばれているかは分かっていない。
それどころか、基礎魔法から我流で作り出した魔法なので、これと同じ魔法がこちらにあるのかどうかも不明である。
思えば、魔法を開発、改良するのには随分と時間がかかったよなぁ。
最初に神様から貰ったギフトでは、ライターのような火、コップ半分くらいの水、掌にのるくらいの砂、扇風機にも劣る程度の風、なんてものしか発動できなかった。
今の魔法の威力とは雲泥の差だわ。
……。
こうして、その成果を目の当たりにすると、30年の努力が報われた気がして嬉しくなってくる。
ホント、俺の魔法も成長したものだ。
さて、感慨に耽ってばかりもいられない。
先ずは確認。
ステータスを呼び出すと。
レベルは2のまま。
変わっていない。
2頭倒したくらいでは、変わらないか。
さっきレベルが上がったのは、必要経験値が少なかったためだろう。
よくある話だな。
では、まだまだ続けますかね。
結局、日が傾く頃まで魔物との戦闘を継続。
実戦を通して色々と実験、検証を行った。
おかげで、今の自分について多くを知ることができたかな。
そこは、今日の成果だ。
ただまあ、レベルの方は全く上がらなかった。
まだ低レベルにも拘わらず、あまりにもレベルが上がらないので、ステータスのレベル2表示を見て鑑定してみたのだが、これがなかなか良い仕事をしてくれた。
この世界におけるレベルは簡単に上がるものではない。
レベル上昇は魔物を倒すことだけに依存するものではない。
日々の鍛錬や経験でも上昇する。
レベルに関係なく各種ステータスは変動する。
このようなことが判明した。
これはあれか。
効率的なレベルアップのためには、魔物だけ倒していれば良いということでもないと。
単純なレベル世界ではないと。
そういうことか。
まっ、この異世界は現実の世界なんだから、納得できる話ではある。
今後もステータスを確認しながら、色々と検証していく必要がありそうだ。





