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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
314/701

第311話  異なる世界 10



「グルゥ……」


 そろそろ喰らいに行くか。


 いつもの寝座(ねぐら)で少しばかりの睡眠を楽しんだ後。

 空腹解消のため立ち上がるそれ(・・)


 狩りの時間。

 ご馳走の時間。

 心弾む時。

 そのはずなのに……。


 うんざりする。


「グルゥゥ」


 食料庫に保管した後、食事のために何度も足を運んだ。

 何度もだ。


 が……。


 いまだ口にすることができない!

 一口も!


 厄介なやつら。

 面倒な食材。


「オオォォ!」


 簡単に喰らうことができると思っていた食材に、ここまで手こずるとは。


「ォォ……」


 やつらの攻撃は大したことはない。

 どれだけ攻撃を受けても危険などまったく感じない。

 同じ箇所を攻められると、ちょっとした痛みは感じるものの問題と言えるほどじゃない。


 ただ、魔法による痺れと一箇所集中攻撃は……。

 鬱陶しいな。


 最初に連続攻撃を受けた時、驚きのあまり思わずこちらに戻ってしまった。


 戻って……。

 戻って……。


「グゥオォォ!」


 思い出すと苛立ちが込み上げてくる。


 ただの食材のくせに!

 許せないぞ!


 とはいえ、やつらのあの動きは……。

 早すぎる。


 相変わらず攻撃が当たらないのだ。

 煩わしい。


 本当に厄介で面倒なやつら。


「……」


 もう、やめるか。

 しばらく放置するか。


 いや。

 やはり、許せるものじゃない。

 何より、あの美味そうな食材を我慢するなんてこと……。


「オオォォ!」


 狩る!

 狩るしかない!


 そうだ。

 今すぐ狩ってやる。


 今回は準備も万端。

 喰らってやろう!





*********************





「4頭連れとはな」


「ええ」


「気をつけろよ」


「イリサヴィア様も」


「うむ」


 分身と共に現れた怪物。

 今回は2頭じゃなく4頭だ。


 分身には本体ほどの強さはないものの、それでも4頭が相手。

 傍らには本体もいる。

 合計5頭との戦闘が簡単なわけがない。


「グルゥ」


「「「「グルルゥゥ」」」」


 その5頭が、10メートルの距離を置いて俺たちと対峙している。

 余裕からか、まだ動く素振りはない


 しかし、なぜなんだ?

 2頭が上限のはずなのに?



「アリマ、こちらから仕掛けるか?」


「ちょっと待ってください」


 戦闘の前に、鑑定させてくれ。




???

???


エビルズマリス

エビルズピークの悪意


HP  813

MP   95

STR 594

AGI 171

INT 206


<スキル>

気配消去 分身 異界(貯蔵庫)創造




 今回もレベルは表示されていない。

 ステータス値にも変化はない。

 レベルアップしてないんだな。


 なら、分身のスキルはどうなってる?


 やはり、上限が4頭に。

 スキルの熟練度が上がったみたいだ。


「……」


 今後、数が増える可能性は……充分。


 まずいな。

 早く倒さないと、とんでもないことになってしまう。


 で、分身のステータスは。




  ???


レベル 1


マリスズドロップ

悪意の雫


HP  243

MP   27

STR 296

AGI 102

INT  41


<スキル>

気配消去




  ???


レベル 2


マリスズドロップ

悪意の雫



HP  255

MP   29

STR 305

AGI 106

INT  43


気配消去




 レベル1の2頭の数値は前回と全く同じ。

 レベル2になった2頭は各数値が増加している。

 ただ、レベルアップに伴う数値上昇がこの程度の微増なら大きな問題はない。


 ちなみに、現時点での俺のステータスはこんな感じだ。




 有馬アリマ 功己コウキ


レベル 7


20歳 男 人間


HP  211

MP  263

STR 320

AGI 223

INT 345


<ギフト>

異世界間移動  基礎魔法  鑑定改  多言語理解 アイテム収納




 レベルは7のまま変わっていない。

 クエスト達成や露見にも変化はない。

 ただ、各数値は若干増加している。

 おそらくは、鍛錬や経験による上昇だろう。


 このステータスに魔力による身体強化を加えれば、分身の相手に手を焼くこともないはず。

 ステータスが不明の剣姫も俺に近い数値だろうから、問題はないはずだ。


 ただし、分身の数が増え続ければ厄介な敵になってしまう。


「……」


 悪意の雫か。

 呼称どおり、ふざけたやつらだ。



「まだか、アリマ?」


「……いえ」


 悪意も雫も動かない。

 依然として、こちらを睨めつけるだけ。


「グルゥ」


「「「「グルルゥゥ」」」」


 ならば。

 こっちからだ。


「分身から片付けましょう」


「うむ」


「左をお願いします」


「了解だ」






 エビルズピークの悪意と悪意の雫。

 5頭相手の戦闘は、かなり手のかかる戦いだった。

 分身が4頭に増えたというのもあるが、それ以上に本体の動きが厄介だったからだ。

 これまでの単調な攻撃から一変、多彩な攻撃を見せるやつには本当に苦労した。


 それでも、戦い続けること四半刻。

 何とか分身だけは全頭倒すことができた。


 ただ……。


 本体の攻撃を受けた剣姫が負傷を。


「うっ!」


「大丈夫ですか?」


 剣姫の右脚。

 浅くない裂傷を負っている。


「治癒魔法を使います」


「いや、戦闘中は魔力を温存した方がいい」


「ですが」


 これまで戦闘中に魔力切れに陥ったことはない。

 今回もまだ余裕がある。


「回復薬を使えば問題ないからな」


「……」


「大丈夫。心配無用」


「……分かりました。あいつを引きつけておきますので、その隙に治療してください」


「うむ」


 回復薬があれば治療はできるだろう。

 けど、あの深い傷だ。

 表面上は癒えても、すぐに完治とはならないはず。


 それに。

 今手元には中級と低級の回復薬しか残っていない。

 どこまで回復できるのか?




「グゥオォォ!」


「!?」


 飛翔していた化け物が、赤銅色の空から襲撃してくる。

 狙いは俺じゃない。

 剣姫だ。


「オオォォォ!」


 させるか!


「雷撃!」


「雷撃!」


 雷撃で牽制し、剣姫を庇うようにして対峙。


「グルゥ!」


 あいつは雷撃を避け、10メートルほど上空へ。

 大きく翼を広げ、こっちを見下ろしている。


「……」


 赤銅色の空に留まるあいつに、再襲撃の気配は見えない。

 地上を悠然と眺めるのみ。


 滞空を続けるつもりか?


「グルゥゥ……」


 あの竜もどき。

 やはり、驚くほど動きが良くなってる。


 空を翔る速さ、身のこなし、攻撃の精度。

 すべてが以前とは異なる水準だ。


 レベルもステータスも変わっていないが、戦闘に慣れ、熟練度が上がったってことだろうな。


「グルゥ……」


 実際、今回は俺の雷撃を何度も躱わしている。

 剣姫にも傷を与えて。


「……」


 錆色の地から離れ、上空に待機するエビルズピークの悪意。

 分身を失ってなお、焦りを見せていない。

 欠片も……。


「グルゥゥ」


 甘く見ていたな。

 あの堅牢な防御を突破することだけを考えて、あいつの攻撃を軽視していた。

 いつまでも同じ戦い方だと、高をくくっていた。


 前回まで、あいつの攻撃には変化などなかったから……。


 が、今回は違う。

 まったく違う。


「……」


 となると、この先はますます大変になってくる。

 防御だけでも手を焼いていたというのに、さらに動きまで加わったら。


 戦闘慣れ、増える分身……。


 厄介極まりない。



「待たせたな、アリマ。もう大丈夫だ」


「イリサヴィア様……無理はしないでくださいよ」


「ふっ、そういう状況でもなかろう」


「いえ、今の相手はあいつだけですし」


 手強いことは確か。

 厄介なことも間違いない。


 とはいえ今この時点では、慎重に、警戒して対処すれば。

 あいつに敵わないということはないだろ。

 まだ、こっちの動きの方が上。

 空は飛べなくても、速度は上なんだからな。


「イリサヴィア様は、もう少し休んでいてください」


「……」


「色々と調べておきますので」


 今回は想定外のことが多かった。

 次回のためにも、手を打つ必要がある。


「もちろん、私の手に余る場合は……お願いします」


「……承知した」


「っと、来ましたね」


 滞空をやめ、降下を始めるエビルズマリス。

 5メートル上空で止まった?


「グゥロォォ!!」


 ここで咆哮?


「ロオォォォォ!!」 


 咆哮を上げた口は開いたまま。

 閉じていない。


 その口の中に光るもの!?


 ブレス?

 まさか、ブレス?


 そんなスキル表示されてなかったぞ!


「オオォォォ!!」


 光が爆ぜている。

 凝縮されていく。


 やはり、ブレスだ!






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