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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
311/701

第308話  異なる世界 7

本日2話目です。


<セレスティーヌ視点>




 今夜この部屋に足を踏み入れ。

 父との関係、壬生さんとの関係を終わらせよう!


 決着を!


「……」


 すべきことは分かっている。

 なのに、足が動かない。

 幸奈さんの足が……。


「いつまで立っているんですの?」


「!?」


 扉の向こうから、壬生さんの声。

 どうして?

 ノックもしていないし、声も出していないのに。


 私がいることが分かるの?


「さあ」


 戸惑う私の目の前で扉が開け放たれ。


「お入りなさい」


 感情のこもっていない声が降ってくる。

 すぐそこには、やはり感情の見えない無機質な表情で私を見つめる壬生さん。


「こちらへいらして」


「……」


 恐怖は消えていない。

 それどころか震えは大きくなっている。

 顔は下がり、俯いてしまう。


 なのに、壬生さんの声に誘われ足が進んでいく。

 まるで幸奈さんの足が意思を持つように。


「こんばんは、幸奈さん」


「……」


「顔を上げてくださいな」


 また、壬生さんの言われるまま。

 顔を上げると。


「ふふ」


 目に入ってきたのは、冷たく笑う壬生さん。

 その後ろには、父が苛立った様子で立っている。


「手間をかけさせおって」


「良いじゃありませんか。こうして来てくれたのですから」


「……」


「何の問題もありませんわ。可愛い幸奈さんと、また一緒に時を過ごせると思うと、それだけでもう、ふふふ」


 頬を緩ませているのに、目は冷たいまま。

 感情がまったく浮かんでいない氷の微笑。


「……」


 怖い。

 気持ちが悪い。


「……では、お願いできますかな」


「もちろんです」


 私に近づいてくる。

 彼女が私に。


 いや!

 来ないで!


「!?」


 幸奈さんが暴れている。

 逃げようとしている。


 決着をつけたいのに、身体が言うことを聞いてくれない。

 私の思考が幸奈さんの恐怖に覆い尽くされ……。


 だめ!

 このままじゃ!


 足よりも自由になる手に力を入れ。

 手が真っ白になるくらい握りしめ。

 爪で手のひらを傷つける。

 血が流れるほど、力を込めて!


 すると。


「……嫌です」


 やっと声が出せた。


「やめて、ください!」


 絞り出せた。


「壬生さん、お父様!」


 ここで拒否を。

 何としても抗わないと!


「……困りましたわ、和見さん?」


「幸奈、いつまで子供みたいなことを言ってる! 立場をわきまえろ!」


「……」


 立場を?


「自分の存在価値を考えれば分かるはずだ」


 幸奈さんの?

 いえ、私の存在価値?


「全ては異能のため、和見家のため」


 異能。

 私より異能。


「……」


 分かっていた。

 幸奈さんも私も理解していた。

 けれど、震える娘を前にして、こんなこと平気で口にするなんて!


 言葉にできない感情が、恐怖を消し去っていく。


「……嫌です」


「おまえ!」


「異能なんて知りません!」


「なっ!!」


 父が怒りで震えている。


「はぁ~、どうしましょ?」


「……壬生さん、異能を!」


「……」


「こいつの言葉など気にせず、力の行使を!」


「だそうですよ」


「嫌です、私はもう受けません!」


「そう言われても、ねえ?」


 今の父には抗える。

 けど、壬生さんには。


「……いやです」


「ふふ」


 聞いてない。

 彼女は冷たく笑うだけ。


「心配はいりません」


「……」


 彼女を前にすると、気力が抜けそうになる。


「大丈夫」


 幸奈さん?

 幸奈さんがまた……。


「5年前にあれだけ受けたんですからね」


「もう……いやなんです!」


 自由を失いかけている身体に力を入れ、何とか言葉を。


「すぐに慣れますよ。いえ、感覚が戻ります」


 必死に口に出した私の言葉。

 壬生さんはまったく気にしてない。


「それに、あなたも以前より強くなってますし。ねえ、幸奈さん」


「……」


「だから、大丈夫」


「……やめて」


「さっ、一緒に楽しみましょ。……憂波!」


 ああ!

 始まってしまった。


「っ!?」


 記憶の中にあったあの音が聞こえてくる。

 とても小さいけれど、頭の中を直接触られているような不快な音。


 それが、すぐに痛みに変わって。


「うぅ……」


 痛い!

 頭の中がかき回される。


 耐えがたい激痛……。


 立っていられない。





*********************





「雷撃!」

「雷撃!」


「グゥオオォォォ!」


「雷撃!」

「雷撃!」

「雷撃!」


 五連続の雷撃だ。


「オオォォ……」


 あいつの動きを僅かに止める程度の効果しかなかった雷撃でも、ここまで続ければそれなりの効果はある。


「グルゥゥ……」


 しばらくの間はまともに動けないはず。

 もちろん、雷撃でこの怪物を倒すことはできないが。


「イリサヴィア様!」


「了解だ!」


 動きが止まっている間、一箇所に攻撃を集中させる。

 現時点では、これが最善の攻手。


(えい)!」


 ザン!


 剣姫の一撃があいつの首元に炸裂。

 ただし、これだけじゃ効果はない。


 剣姫の剣撃の痕に俺も。


 ザン!


 そして、また剣姫。


 ザン!


 ザン!

 ザン!

 ザン!



 剣姫と俺の渾身の剣を5撃ずつ計10撃。

 一箇所に集めてやったところで。


「グゥオァァァ!!」


 あいつが動き出した。

 怒りを発散させるように、腕と尻尾を振りまわしている。


 そう。

 雷撃からの10剣撃を繰り出すことで、ようやく鱗1枚に損傷を与えることができるようになったんだ。


 とはいえ、鱗の破壊にはまだ遠い。

 何度もこの攻撃を繰り返さなければいけないだろう。



「魔力は大丈夫か?」


 そのために重要なのは魔力。

 雷撃を何度も撃つ必要があるからだ。

 ただ、今のところは。


「まだ平気です」


「そうか。では、頼む」


「はい」


 次の連撃だ。


「雷撃!」


 1発目を放ったところで……。


「グゥロオォ!!」


 一声上げた怪物の周囲の空間が歪み。


「オオォォ……」


 消えてしまった。

 この異界に俺たちを残し、また目の前から姿を消してしまった。


「……」


「……」


 ほんの僅かな攻略の糸口を見つけたと思ったら、逃げられてしまう。


「きりがないな」


「……ええ」


 本当に終わりが見えない。






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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、セレス様が(T_T) セレス様もコーキさんたちもどうなってしまうのか(><)
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