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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第7章  南部編
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第303話  異なる世界 2


「まずは、このまま進んでみましょう」


「うむ」


 鉄錆色の大地を踏みしめ、ゆっくりと歩を進める。

 もちろん、方向など分からない。

 北に向かっているのか、南なのか?

 どこに向かっているのか?


 ホワイトアウトとは言わないまでも、軽く方向感覚が麻痺するほどには視界が悪い。


「想像以上に歩きづらいな」


「……そうですね」


 赤銅色に濁った空間の透明度の低さは相当で、周囲や先を見渡すこともできないのだから当然だ。


 ジャリ。


 ジャリ。


 ジャリ。


 足裏がとらえるのは、赤茶けた砂利ばかり。


「……」


 不気味な幻想のような世界。

 そんな地に存在するのは、俺と剣姫と魔物の死骸のみ。


 当初はそう思っていたものだが、実際はそんなわけがない

 足下には大地が存在するし、大地には砂利と大小さまざまな石、岩が転がっている。


 ただ、生あるものは俺と剣姫だけ。

 これは間違いなさそうだ。


 ジャリ。


 それでも、この両足に覚える感触が強烈に訴えかけてくる。

 ここは幻の中じゃない。実在しているのだと。


 ジャリ。


 ジャリ。


 ジャリッ。


「っ!?」


「イリサヴィア様、足下には気を付けてください」


 見通しが悪いため、油断すると躓いてしまう。


「……君もな」




 そんな調子で数分は歩き続けただろうか。

 突然、濁った視界の先に奇妙なものが入ってきた。


「アリマ、見えるか?」


「ええ」


「奇っ怪な……」


 話しながらも、ふたりの足は止まらない。

 そして、到着したのが。


 暗黒!?


「何だ、これは?」


「……分かりません」


 分かるわけがない。

 ここまで続いた鉄錆色の地が途絶え、赤銅色の空が消え、目の前には暗闇だけが存在しているのだから。


「恐ろしいほどに暗い……」


 果てもなく左右に広がっている真の暗闇。


「……」


 墨で塗りつぶしたように立ち込めるそれは不思議なほどに立体的で、近くにも遠くにも感じられる。


 闇の立体が腕を広げ、こちらを抱え込もうと、飲み込もうと迫って!?

 そんな錯覚すら覚えてしまう暗闇……。



「見渡す限り、全て闇だな」


 剣姫の言う通り。

 目の前も、その左右も、先も全てが暗闇。

 闇色しか見えない。


「……」


 この境界。

 赤と黒との境界は、黄泉との臨界を想起させるほどの得体の知れなさを孕んでいる。


 なのに!


「イリサヴィア様!」


「うむ?」


「触れるつもりですか?」


 全く躊躇が見られない。

 何か確信でも?


「触れねば何も分からぬだろ? 当然、先にも進めぬ」


「……危険です。まずは、剣で、そして魔法で確かめてみましょう」


「……」


 無言で剣を抜き放つ剣姫。

 これまた無言で、闇に剣を打ちつけた!


 無音のまま剣が闇の中に!


「ん?」


 闇に吸い込まれるようにして剣が止まっている。

 まさか、抜けないのか?


「イリサヴィア様?」


「ドゥエリンガーに問題はない」


 そう言って、愛剣を闇から解放する剣姫。


「だが、感触が奇怪に過ぎる」


 剣を鞘に戻した剣姫が、また腕を伸ばそうとしている。


「待ってください!」


「ドゥエリンガーを見たであろう。魔力で腕を覆えば問題など無いぞ」


 そうかもしれないが。


「先に魔法を試しますので」


「……うむ」


 剣姫イリサヴィアは、こんな性格だったか?

 もっと、冷静で慎重じゃなかったか?


「どうした?」


 ゆっくりしてると、今にも手で触れてしまいそうだ。


「いえ、少し下がりましょう」


「……」


「……ファイヤーボール!」


 顕現した拳大のファイヤーボールが闇に激突。

 と、消えた?

 闇の中に?


「アイスアロー!」


 こっちも消失。


「雷撃!」


 雷撃も……。


「これならどうだ?」


 剣姫が地面に転がる小石を拾い上げ、投げつけた!


「……」


 消えない!

 闇に当たった小石は消えることなく、そのまま真下に落下。


「何も変化は見られぬな」


 確かに。

 闇にも小石にも異常は見えない。


「ならば」


「あっ!」


 止める間もなく、剣姫が闇の中に手を!


「うむ……」


 平気なのか?


「奇天烈な感触だ」


 奇天烈?

 どんな感触を?


「適当な言葉が見つからぬ」


「……」


「アリマ、君も試してみるがいい」


 闇から取り出した右手を一瞥し、何事もなく提案してくる。


「問題などないぞ」


 鑑定で得た情報は、闇と境界。

 そんなことは調べなくても見れば分かる。


「……」


 本当に大丈夫なんだろうな?



 黄泉とも深淵とも見える奇怪な闇。

 こうして眺めていると、僅かに青みが感じられる。


 赤の世界に青みがかった闇の外縁……。


 気味が悪い。

 ぞっとするな。


 この闇の中に手を?


「……」


 今は、剣姫が戸惑いも見せず闇に手を触れた直後だ。

 安全と考えてもいい。

 なのに……。


 先に無謀なことをされると、どうしても慎重になってしまう。

 これが集団のバランスってものか。


 魔落でのセレス様も、同じ気持ちを抱いていたのかもしれないな。


「アリマ?」


 とはいえだ。

 躊躇していても仕方ない。


 よし。

 闇の中にゆっくりと手を伸ばし。

 そして……。


「!?」


 滑らかなのにザラリとしている。

 温かく冷やか。


 まさに奇妙奇天烈な感触。


「どうだ、おかしなものだろ」


「……ええ」


 取り出した手にはしっかりと感触が残っている。

 ただし、手そのものに異常は見られない。


「剣も魔法も通らぬ闇の壁。わけは分からぬが、この闇が障壁になっていることだけは確かだな」


「……」


 こいつを破壊するのは困難。

 いや、不可能かもしれない。


「とりあえず、探索を続けましょう」


「……うむ」


 この闇について詳しく調べるのは後だ。

 まず先に、闇が左右どこまで伸びているのかを確認した方がいいだろう。

 闇が途切れた地点に脱出口があるかもしれないのだから。


「では、右側を」


 闇の外縁に沿って右に歩を進める剣姫と俺。


 ジャリ。


 ジャリ。


 ジャリ。



 しばらく歩いても眺めは同じ。

 暗闇の壁は途切れることなく続いている。


「……」


 視界の悪さと、麻痺した方向感覚のため気付くのが遅れたが……。


 どうやら、この壁。

 湾曲しているようだ。

 つまり暗闇が弧を描いている、と。


「好くないな」


 おそらく、剣姫と俺の想像は同じ。

 好ましくない内容のはず。


 それでも、足を止めることなく縁を歩く。

 数分歩いたところで。


「……」


 闇の壁とは反対に位置する空間に奇妙な空気?

 この違和感は?


「アリマも感じるか?」


「ええ……空気がおかしいですね」


 空気が動いている?

 これまでになかった感覚。


「調べに行きましょうか?」


「うむ、向かってみよう」


 奇妙な空気の流れに向かって早足で進むと。


「アリマ、そこだ」


 剣姫が指さした方向。


「……?」


 空間が歪んでいる?

 赤が渦を巻くように歪んでいる?


「何か起こりそうだぞ」


「ええ」


 間違いない。

 何かが起きようとしている。

 この世界に来て初めての変化が。


「気を付けてください」


「君もな」


 歪みから少し距離を取り、剣を構える。

 即座に対応できるように。


 次の瞬間。

 歪みの中なら光が溢れ。

 渦が弾けた!


「っ!」


「!?」


 爆風を受け、僅かにバランスを崩してしまう。

 が、すぐさま態勢を整えた俺たちの前には。


「グルゥオォォォ!!」


 あの怪物の姿が!



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