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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第6章  移ろう魂編
304/701

第301話  蒼鱗の天魔 6

本日は連続投稿となります。

こちらは2話目ですので、ご注意ください。



 剣姫の魔剣ドゥエリンガーが、首元の輝く蒼鱗に炸裂!


 ガキン!


 まるで超硬の金属に打ちつけたかのような鈍い音と共に、ドゥエリンガーが弾き返された。

 怪物の鱗は?


「!?」


 表面に浅い傷があるだけ。

 あの一撃でこれだけなのか?



「……剣が通らない」


「……そのようですね」


 やはり、とんでもない防御力だ。

 分かってはいたが……。


 いや、ここまでとは思っていなかったな。


「もう一度斬ってみよう」


「いえ。次は私が試してみます」


「……そうか」


「はい。私も感触を知っておきたいので」


「うむ」


 彼女の剣撃で駄目なのだから、俺の剣も通らない可能性が高い。

 それでも、試しておく必要はあるんだ。


 一歩踏み出して、ヴァーンから借りたままの剣を正眼に構える。

 そこに!


「グルオォォ!!」


 雷撃の効果が切れた怪物が飛びかかってきた。

 けれど、素早さはこっちが上。


 俺と剣姫は左右に分かれ、攻撃を回避。


 突進を躱された怪物の足が止まったところを、後ろから。

 上段から斬りつける!


 もちろん、魔力を込めた強力な一撃。


 ガキン!


「っ!」


 弾かれた!


 手に感じるのは痛いほどの衝撃。

 やはり、駄目か。


「……」


 怪物の体表には薄っすらとした傷のみ。

 剣姫以下の傷痕だ。


 効いていないな。



「グルルゥゥゥ……」


「……」


「……」


 雷撃を受け、剣姫と俺の剣を受けながら、平然とこちらを見つめる四足の怪物。


「剣で鱗を削るのは難しそうだ」


「ええ」


 剣撃の効果は薄い。

 雷撃はわずかに効いたようだが、倒しきるほどの効果は期待できない。


「どうする?」


「色々と試しましょう」


「君の魔法か?」


「そうですね。まずは魔法から……ファイヤーアロー!」


 雷撃同様、避ける素振りも見せない敵に正面から炸裂!

 ただ、これも全く効いていない。


 なら。


「アイスアロー!」


 駄目だ。


「ストーンアロー」


 これも駄目。


「炎波!」


「雷波!」




 それからの戦いは、こちらが消耗するだけのものだった。

 怪物の攻撃を避けては魔法を放ち、剣撃を浴びせる。

 放つ魔法は全て異なるもの。そいつを体中に放ってやり、剣も様々な部位に打ち付けてやった。


 けれど……。


 結果はやはり、浅い傷を体表に作る程度。

 魔法と剣撃で与えることができたのは、ただそれだけ。

 気を使った攻撃も一度試してみたが、効果は見えず。


 全ての攻撃を終えてなお、鱗一枚削ることすら叶わなかった。


「……」


 もちろん、あいつの内臓に損傷を与えている可能性も無いとは言えない。

 が、その兆候が全く見えない現状では、期待することなどできないだろう。


 ただし、悪いことばかりでもない。

 敵の攻撃も、こっちに大きな被害を与えることができていないんだ。


 剣姫と俺が喰らった攻撃はかすったようなものばかり。

 さすがに、かすったぐらいでは大きなダメージになることはない。


 とはいえ、あいつの攻撃は一撃で全てを終わらせる威力を持っている。

 まともに喰らったら……。


 恐怖を抱かせる一撃。

 驚異の攻撃力。


「……」


 まっ、そうだよな。

 ステータス上は俺の2倍の力があるんだから。



 そんな怪物との戦いが続くこと約半刻。

 ようやく今、距離を取って息をついているところだ。


「イリサヴィア様、大丈夫ですか?」


 ここまで戦闘がずっと続いている剣姫には、かなりの疲労があるはず。

 魔法薬で回復済みだと言っても、そう簡単なものじゃない。

 ギリギリの戦いを続けた身体と精神には損耗があって当然。


「問題ない」


「……」


 本当に?

 戦える状態なのか?

 剣姫は持久力も並じゃないと?


「君は?」


「戦えますよ」


 こっちは問題ない。

 神経はすり減っているものの、戦えないほどじゃないからな。


「頼もしいことだ」


「イリサヴィア様こそ」


「ふふ、さっきまで敵だったというのに……」


 まだ笑う余裕がある。

 なら平気なんだろう。


「奇妙なことになったものだな」


「ええ、本当に」


 その原因を作った怪物は?


 悠然とこっちを眺めている。

 休憩中か?


 と?


 怪物の纏う空気に変化が!

 これは、あいつの魔力?


「アリマ?」


「注意してください。何か仕掛けてきます」


 怪物の蒼鱗が強い光を帯び、魔力のようなものが湧き出ている。


「……」


 何をするつもりかは分からない。

 が、簡単にはさせない。

 止めてやる!


「雷撃!」


「グウゥロォォォォ!!!」


 放たれた紫電が怪物に直撃。

 したその瞬間。


「っ!?」


「うっ!?」


 軽い衝撃と共に、光が四散した!

 無数の白い花びらが空を覆い尽くすように、煌々たる白光がエビルズピークを喰らい尽くす。


 視界が途絶え。

 音が消失。


 目眩を覚えてしまう。


「……」


「……」


 数瞬後、戻った視界には。

 目に映ったのは……。


 消えた世界?

 エビルズピークが消えて!!


「何っ!?」


「……」


 いや、目の前に世界は存在している。

 ただ、この世界は?

 この地は?


 今まで踏みしめていたエビルズピークの地じゃない。

 一瞬前までの景色じゃない。


 日は消え。

 木々は消え。

 大地は色を変え。

 空は、青く透き通っていた大空は不気味に濁っている。


 空気が違う。

 さっきまで感じていた風も、全く感じられない。


「これは?」


 風のさざめきも、鳥のさえずりも消えてしまった世界に響くのは、剣姫イリサヴィアの驚愕の声だけ。


「いったい?」


「……」


 鉄錆色とも見える赤茶けた大地。

 植物などは全く存在しない、石と岩だけの荒涼とした大地。


 夕焼けのように赤く染まった空。

 いや、この赤はもっと濁っている。

 不吉な赤だ。


 不気味で質量を感じさせる深紅。

 身体にまとわりついてくるような赤銅色の空。


 そんな奇怪な空間で動いているのは、俺と剣姫のふたりのみ。

 他に動くものなど何も目に入ってこない。


 ただ、傍らには大量の死骸。

 魔物の亡骸が無造作に転がっている。



「アリマ?」


「……分かりません」


 息を飲む剣姫。

 こんな表情を見るのは初めてだ。


「分かりませんが、ここがエビルズピークの地でないことだけは確かでしょう」


「……のようだな」


「あいつも消えてしまいました」


「……うむ」


 そう。

 この不気味で不穏な赤の世界には……。

 エビルズピークの悪意という怪物の姿も見えない。


「君と私だけか」


「ええ」


 赤が支配する世界に存在するのはふたりだけ。

 俺と剣姫のふたりだけだ。







 第6章  完






これにて6章終了です。

6章もお付き合いいただき、ありがとうございました。



※ 本日2話投稿で6章完結したため、明日は休稿するかもしれません。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  ここで六章完ですか!?  色んな方面が気になる! 第七章が楽しみです!
[良い点] 更新お疲れ様です。転移魔法的な感じかな?
[一言] 6章終了ですか!お疲れ様です! まさかの状態で7章突入! どうなってしまったのか気になって仕方ありません! 続きを楽しみにしています(≧▽≦)
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