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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第6章  移ろう魂編
302/701

第299話  蒼鱗の天魔 4



 幸奈は日本での記憶を失っている。

 自分のことをセレス様だと思い込んでいる。


 もちろん、今の幸奈の姿形はセレス様そのものだ。

 セレス様の姿で声で自身が記憶喪失だと言うのなら、不自然さも覆い隠せてしまう。

 自他ともに納得してしまう。


 その証拠に、シアやアル、ヴァーンにも疑っている様子は見えない。

 誰も疑っていない。


 俺だって、日本にいるセレス様から真実を知らされていなければ……。


 それでも。

 セレス様の体の中にいるのは幸奈だ。

 鑑定で見ても、間違いのない事実だった。


 なら、俺は?

 どうすればいい?

 どう動けばいい?

 今の幸奈に何を伝えれば?


「……」


 駄目だ。

 正解なんて思いつけない。

 まだ混乱している。


 まいった。

 本当にまいった。


「……」


 幸奈のこの状態。

 おそらくは、魂替の異能を使うことなんてできないだろう。

 記憶を取り戻すまで、使えない可能性は高い。


 つまり。

 しばらくの間、幸奈はこの世界でセレス様として過ごすことになる。

 セレス様も日本で暮らすことになる。

 そういうことだ。


「……」


 こちらの世界は、ワディン紛争の真っ只中。

 その中心に記憶を失った幸奈がいる。


 日本では、セレス様。

 あの和見家の中でひとり。

 不慣れなな世界で、ひとり暮らさなきゃならない。


 できることなら、どちらの世界でも手助けしたい。

 傍についていたい。

 けど、俺の身体はひとつ……。


 仕方ない。

 今はもう、この状況に付き合うしかない。

 じっくりと腰を据えて向き合うしかないんだ。


「……」


 しかし。

 幸奈は、日本での記憶を全て忘れているのか?

 少しでも覚えているなら、それを足掛かりにできるんじゃ。


 確かめる必要がある!


 そのためにも、まずは幸奈とふたりで話をしないと始まらない。

 話をすれば分かることもあるはず。


 こんな山中で皆と一緒に行動している中、ふたりきりで話をする時間を見つけるのは難しいだろうが、何とかするしかない。


 今後のことは、全て幸奈との話次第。

 場合によっては、一度セレス様のもとに戻ることも……。



「おい、何考えてんだ」


「ん? どうした、ヴァーン?」


「どうしたじゃねえ。考えんのは後にしろよ。もう、ここを出るんだぜ」


「……」


「早くテポレンに入ってワディンに抜けねえとな」


「……ああ」


 そうだな。

 今ここで考えていても事態が変わるわけじゃない。

 先を急いだ方がいい。



「メルビン、戻る前に素材を集めようぜ」


「このまま戻るなんて勿体ねえぞ」


 ワディン側が出発の準備を終えようとしていたところ、冒険者側では素材採取の話が。


「ギルドに届ける証拠も必要だしよ。それに、こんな貴重な魔物素材捨てられねえわ」


「こいつぁ、高く売れるぜ!」


 冒険者たちは、謎魔物の素材を持ち帰りたいようだ。

 まあ、当然か。

 あの蒼い鱗なんて、とんでもなく貴重な素材だろうからな。


「イリサヴィアさん、魔物素材の権利は討ち取ったあなたにあるのですが?」


「うむ。好きにするといい」


「では、お言葉に甘えて。お前ら、手早く剥ぎ取れよ」


「「「「「「「おう!」」」」」」」


 謎魔物の体に取り付き、鱗を剥がし始める冒険者たち。


「外れねえぞ」

「やっぱ、硬え」

「どうすんだ、これ?」


 魔力を纏っていない剣で、あの魔物の鱗を切り取るのは難しいよな。


「ワディンの皆さんは素材は不要ですかね?」


「それは……隊長?」


「「「「「隊長?」」」」」


「こっちの魔物の権利は我々ではなく、彼にありますので」


「ああ、そうでしたね」


 もう1頭の魔物については、俺に権利があるようだ。


「だってよ、どうする?」


「……ヴァーンは早くここを去りたいんじゃないのか?」


「まあな。ここは何つうか、嫌ぁな空気が漂ってるからよ」


 確かに。

 全て終わったはずなのに、なぜか不快な感じがする。


「とはいえだ。とんでもねえ素材だからなぁ。……少しならいいんじゃねえか」


「……」


 捨てるには惜しい素材ではあるよな。

 時間があるなら、手に入れた方がいいのかもしれない。


「分かった。それなら、少し貰っておこう。皆さんも良ければ、どうぞ」


「良いのですか?」


「ええ、もちろんです」


 とどめを刺したのは俺だが、それも皆の助力あってのもの。

 分けるのは当然だ。


「では、我々も少しだけ。皆、急げよ!」


「「「「「「「「了解!」」」」」」」」


 隊長の言葉を受けて、魔物の遺骸に群がる騎士たち。

 さっそく鱗の剥ぎ取りを始めている。


 と、その時。


「うぐっ!」


 鈍い悲鳴がワディン騎士のひとりから!


「何だ!」


「どうした?」


 騎士の身体からはおびただしい出血!?

 そこに!!


「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」


 突如現れた、途方もない気配!

 ワディンの騎士たちの背後に現れたそれは?


「グゥルオオォォォ!!!」


「「「「「「「っ!?」」」」」」」


「「「「「「「なっ!!」」」」」」」


 荒々しい咆哮に大地が揺れる!

 エビルズピークが震える!


 そう思ってしまう程の衝撃。


「オオォォ……」


 恐るべき咆哮を上げた魔物。

 途轍もない気配を放つ兇悪な魔物が、悠然とこちらを()めつけている。



 こいつは!?


 こいつは駄目だ。

 簡単に相手できる魔物じゃない。

 さっきの魔物どころじゃない。


 鑑定するまでもなく、そう理解できてしまう。


「ヴァーン、セレス様を連れて下がれ」


「っ! おめえ、どうすんだ?」


「俺がこの化け物の相手をするから、その隙にセレス様と、皆と逃げるんだ!」


「いや……俺も残って戦う」


「駄目だ! こいつはケタが違う。だから逃げろ! シアもアルも、早く逃げるんだ!」


「……」

「……」

「先生……」


「いいから、早く逃げろ! 走れ!」


「……ああ、分かった」

「……はい」

「……」



「グルルゥゥゥ……」


 魔物はまだ動かない。

 視線を外すことなく、ただこちらを見つめている。



「メルビン、貴君らも退いた方がいい」


「イリサヴィアさんは?」


「残る!」


「……」


「こいつは、アリマと私にしか相手できぬからな」


「……分かりました。無事に戻ってくださいよ。ご武運を祈ってます」


「うむ」


 剣姫が俺の傍らに歩み寄って来る。


「よいか?」


「……」


 剣姫の言う通り。

 こいつと戦えるのは俺と彼女だけ。


「……お願いします」


「うむ」


 いや、俺たちでも危ないな。


 この蒼鱗の魔物。

 四足に太く長い首、長い尻尾。

 そして、恐ろしく重量感のある胴体に、2つの翼。

 さっきの謎魔物を一回り大きくしたような姿態だが、問題はその身体の大きさじゃない。


 ステータスがとんでもないんだ!




???

???


エビルズマリス

エビルズピークの悪意


HP  813

MP   95

STR 594

AGI 171

INT 206


<スキル>

気配消去 分身 ???



 MP、AGI、INTは俺の方が勝っているものの。

 HPは俺の約4倍。

 STRは約2倍。


 おそらく、防御力も凄いのだろう。

 それに、スキルまで。


「グルルゥゥゥ……」


 今まで戦ってきた魔物どころじゃない。

 ダブルヘッドもトリプルヘッドも、比べ物にすらならない。


 エビルズピークの悪意。


「……」


 勝てるのか?




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― 新着の感想 ―
[良い点]  お疲れ様です。  待ってました。この二人、剣姫様とコーキさんの共闘を!  この二人が出てきた辺りから敵よりこの二人はタッグ組んだ方が絶対いいよ!ともう、期待に胸膨らましていたので。今窒息…
[一言] やっぱり本命が出た!! あんな簡単に終わるとは思わなかったですが、 桁外れ!どうなるのか(>_<)
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