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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第1章  オルドウ編
30/701

第30話  まほうつかい?  ※



 介入すべきか判断できない。

 そもそも、善悪の区別もつかない。


 そこに、謎の塊がまた出現する。

 塊と膝をつく女性との距離は3メートルもない。


 まずい。

 どうする?


「フッ。ハハハ」


 突然、若い男の哄笑が暗闇に響き渡る。

 誰かを思わせる嗤い。

 嫌な嗤いだ。


「これで終わりだ。もう追って来れないぞ」


 これはもう、あれだな。

 この状況と、個人的な好みで判断させてもらうか。


「それ」


 男の声と共に謎の塊が発射される寸前。


「石弾!」


 俺の作り出したソフトボール大の石の塊が高速で謎の塊に激突。


 バリーン!


 塊が音を立てて砕け散った。


「なに!?」


 驚き焦る男を尻目に、女性のもとに駆けつける。

 その身体を両腕で抱え。


「えっ、何? どうして? 誰?」


 そのまま距離をとる。


「くっ、新手か!」


 悔しそうな顔をしているが、空中に新たな塊を出現させている。


 日本の魔法使いも、やるなぁ。

 こちらも対抗しないとな。


「いけ!」


 男の眼前から魔法の塊的なものが射出される。

 こちらも発動が早い魔法で対応。


「石弾!」


 わずかに遅れて発射。

 が、石弾の方が速い。

 俺の作り出した石弾が相手の塊を破壊し、さらに男に迫る。


「グッ」


 避けようとした男の腕に当たったようだ。

 こちらは女性を抱えたままなので、また少し距離をとる。


「くそっ!」


 女性を抱えたまま魔法戦をするのもどうかと思うので、ひとまず女性を安全な場所に避難させてから応戦しよう、と思ったのだが。


「あっ、逃げたわ」


「……」


 俺の目の前には、こちらを振り返りもせず一目散に逃走する男の姿があった。


 ……。


 あいつ、魔法の発射もなかなか素早かったが、撤退の判断も早かった。

 逃げ足も相当なものだ。


 とはいっても、女性を放置すれば追跡は可能だと思う。

 可能どころか、魔力で強化したこの身体なら、すぐに捕まえることもできるはず。


 ただ、そこまでする必要があるのかということだ。

 状況を把握していないこの段階で、女性を抱えたこの状態で、すぐさま追跡をする気にはなれないよな。


 そもそも助けてよかったんだろうか。

 危険を見過ごすことができず、思わず介入してしまったが。


「……」


「……」


 何だか気まずい。

 微妙な沈黙の中、一応周囲を確認するが、あの男が戻って来る様子も隠れている様子もない。


 さてと、今俺の腕の中には暫定的に正義方と見なした女性がいる。

 腕の中の彼女、いわゆるお姫様抱っこ状態…。


 抱えている女性と目が合う。

 いや、ホント、気まずいよ。


「あの、大丈夫ですか?」


「ええ……。とりあえず下ろしてくれないかしら」


「ああ、そうですね」


 公園内にある近くのベンチまで移動し、女性に座ってもらう。

 これで、少しは落ち着いて話ができるかな。

 そう思って、女性の姿をあらためて見てみると。



挿絵(By みてみん)




「……」


 さっきまで戦いに夢中になっていたため気付かなかったが……。


 この女性、かなり整った容姿をしている。

 暗がりなので分かりづらいが、それでも美人であることに疑いはない。

 それに、細身の高身長、脚も長い、まるでモデルのようだな。


 こんな女性が夜の公園で魔法バトルとか、ここは本当に俺が暮らしている町なのか。

 まさか、20年前に戻ったのではなく平行世界にやって来たとか、そういうんじゃないよな。


 ……。


 違うよな。

 俺の周りの人たちは何も変わっていないから。


 となると、この現代日本には20年前、いや、それ以前から魔法が存在していたってことに

なる。


 ホントかよ?


「何、どうしたの?」


「いえ、なんでも」


「そう……。まず、助けてもらったことには感謝するわ。それで、あなた、どうやってこの公園に入ってきたの?」


 ん?

 普通に入ってきただけだよな。


「歩いて入って来ましたが」


「そういうことじゃな……歩いて入れたの!?」


「はい」


「……」


 何かを考え込むように俯いている。


「まあ、いいわ。それで、あなたは誰? どこの手の者なの?」


 これ、どう考えても、感謝している口調じゃないよな。


「……」


 で、俺は名乗っていいのか?

 色々と秘密を抱えている俺が名前を教えても…。


 いやいや、迂闊に名乗ることはできない。

 能力も見られただろうし。


 これ、まずいかも。

 まいったなぁ。


「名乗れないの?」


「ええ、まあ……」


 これはもう、なるべく早くこのモデル女性と離れた方がいいな。

 とはいえ、ここに置き去りにはできない。


「でも、私を助けてくれたってことは、あいつの仲間じゃないのよね」


 あいつって、あのパーカーの男か。


「そうですね」


「では、こちら側?」


「何のことですか?」


 さっぱり分からん。

 どこの手の者とか、こちら側とか、何だよそれって感じだ。


 しかし、そんなにたくさん魔法関係の組織があるのか。

 秘密結社的な何かとか?

 この現代日本に。

 科学全盛のこの世界に。


 ホントかよ、日本。

 すごいな、日本。


「何も知らないの?」


「はい」


 何も知らないけど、めちゃくちゃ興味がある。

 詳しく知りたい。


 もし、ここが前回の時間の流れの中なら、積極的に関わろうとしていたはず。

 異世界の代わりに、こちらで魔法を使って。


 ……。


 それは、できないんだった。


 どうにも興奮が抑えきれないな。

 だって、現代日本で魔法バトルなんだぜ。


「本当に?」


「はい」


「そう……。嘘はついていないみたいね」


「ええ」


 今は深く関わることはできない、か。

 非常に残念ながら、危険すぎるからな。


 この時間の中の俺は異世界に移動することができる。

 けれど、諸々ばれてはいけないという禁則つき。

 なら、現代日本魔法バトルに積極的に参加する理由もない。

 危険は冒せない。


 はぁぁ。

 残念だ。


 と、そんなことより、まずは。


「それより、早く治療しましょう」


 脚の傷は思ったよりは酷くないようだが、放置できるものではない。

 それに、腕やら顔やら擦り傷だらけ。


「この時間に診察してくれる病院は……。救急車呼びましょうか?」


「必要ないわ、これくらい平気。それに、一般の病院に行くつもりもないし」


「と言いますと」


「かかりつけの病院があるの。後でそこに行くわ。でも、そんなことより、あなた何者なの? そっちの方が重要よ」


 そこそこ怪我しているのに、そんなこと扱い。

 随分余裕があるな。


「早く病院行った方がいいですよ」


 俺のことは忘れてくれ。


「今は傷のことはいいわ。それよりあなたよ」


 傷は気にならないのか。

 顔の傷なんか特に。

 女性なのに。


 ハードボイルドな世界に生きているんだな。

 さすが魔法美女。


「通りすがりの者ですけど……」


「はあ?」


「いや、本当なんですけど」


「……」


「……」


 そんな疑うような眼で見られても困る。

 沈黙が重い。


「だとしても、さっきのは何?」


 石弾のことだよな。

 やっぱり、見られていたよ。

 そりゃ、そうか。


「さっきのとは?」


「あいつの氷矢を砕いたでしょ。あれは何?」


 あの空中に浮かんでいた塊は氷の矢!

 オルセーのアイスアローとは若干形が違ったけど、同様の魔法?


 ああ、やっぱり、あれ魔法だったのか。

 本当かぁ。


 もう、すごく、ものすごく興味あるぞ。

 聞きたい、詳しく知りたい。

 でも……。


 魔法云々の話は藪蛇になる。


 くぅ、残念過ぎる。


「拾った石を投げただけですよ」


 そっちの魔法には興味津々だが、こっちの魔法は隠さないといけない。

 この暗さならごまかせる、と思いたい。

 そもそも発動前の待機状態は見られてないはずだから。

 言いきれば、何とかなるはず。


 しかし、石弾にしておいて良かった。

 これが炎や水だったら投げたなんて言えないもんな。

 それに、無駄に何発も撃たなくて良かった。


「石を投げた? ただの石であれを破壊って?」


「……」


「嘘でしょ?」


「本当です」


 嘘ですけど。


「そんなこと……あるの?」


「……はい」


 ごめんなさい、嘘です。


「あなた、本当に普通人?」


 普通人?

 また聞いたことのない言葉が出てきたぞ。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] もう少し、やばいことに関わるのを偶然か必然性と説得力がある記述にしていただかないと意味が分からない疑問点のある話になっています。怪物みたいな怪人同士の戦いのようなものに積極的に関わって…
[良い点] 現実世界でも始まりましたね! 2つの世界をまたにかけた謎解き、楽しみです!
[良い点] コーキが現代日本での魔法バトルに興味惹かれ、関われないけれども後ろ髪を引かれまくっているのが面白かったです。好奇心旺盛な良い主人公ですね、本当に。 [一言] ウィルさんといい、今回といい、…
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