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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第197話  受諾



 一緒に王都に来てほしいというウィルさんの話。

 こんな往来で立ち話するような内容でもないな。


「場所を変えて話しましょうか」


「お願いします」


 頷くウィルさんと一緒に広場に移動。

 先日セレス様と立ち寄ったあの広場だ。


「ここでコーキさんに会えて、良かったです」


 広場に着くやいなや、安堵で表情が緩むウィルさん。

 俺を探していたんだというのが良く分かる。


「……王都の話とは、どういったものでしょう?」


 幸いなことに、この時間はベンチに座っている人も少ない。

 ゆっくり話を聞くとしよう。


「実は、個人的な用事で王都に行くことになりまして。それで、その護衛をしてもらう方を探していたんです」


「王都までの護衛ですか?」


「はい、あっ、いえ、オルドウと王都間往復の護衛です」


 往復の道中の護衛だな。

 ということは。


「オルドウと王都間の旅路は護衛が必要なほど危険なのでしょうか?」


 女性のひとり旅となるとそれなりに危険だとは思うが……。

 冒険者の護衛が必要なほどの危険があると?


 この世界での旅の常識など持ち合わせていない俺には分からないものの、旅がそこまで危険だという話は聞いたことがない。


 王都までの道中には、特別危険な何かがある?

 うーん??

 この世界に少しずつ慣れてきたとはいえ、まだまだ知らないことが多いな。


「徒歩での旅には護衛が必要だと思います」


「ウィルさんも、徒歩で王都へ?」


「いえ、今回は乗合馬車での旅を考え……」


「……」


「その、ベリルさんから、王都に行くなら護衛を雇うように言われまして。それが王都行を許可する条件みたいで」


「ベリルさんにも王都への旅の話を?」


「具体的な話はまだですけど、近い内にとだけは伝えています」


 まあ、そうか。

 ウィルさんの王都訪問が確定しているのなら、さっきベリルさんが話してくれただろうから。


「その際に護衛の話が出たんです」


「ウィルさんの話を聞いて、ベリルさんは馬車での旅でも危険だと判断されたのですね」


 雇用者であり親代わりでもあるベリルさんが旅を危険だと判断し、護衛を王都行の条件にしたってわけだ。


「そうだと思います。馬車旅でも、乗り換えの際など徒歩になることもありますし、それに……」


「……」


「それに、最近は街道でも問題が起こっているという噂がありますので」


 問題?

 馬車旅に護衛が必要な問題となると、魔物や野盗が出るってことか?


「王都への道も安全ではないのですね」


「今ははい、そうみたいです」


 ここは魔物が出没する世界だ。

 旅が危険なのも当然と言えば当然か。


「護衛を依頼するならコーキさんにお願いしたいと思いまして」


「それは、申し訳ありませんでした。実はここ数日の間、オルドウを離れてまして」


「ああ、そうだったのですね。でも、こうして会えて良かった!」


 事情は理解した。

 ウィルさんの考えも分かった。


 とはいえ。


「ウィルさんなら護衛の伝手などいくらでもあるでしょう?」


 そう。

 彼女には一族がついているのだから。


「今回は個人的な旅ですから、ちょっと難しいんです」


「……」


「それに、コーキさん程頼りになる方はいませんので……。王都に一緒に来ていただけないでしょうか?」


「……」


 キュベリッツ王国の王都への旅。


 王都かぁ……。


 もちろん、興味はある。

 そろそろ、オルドウ以外の街にも訪れたいと思っていたところだし。


 ただ、1週間後には武志を迎えに行くことになっているんだ。

 シアに魔法指導をする必要もある。

 ワディンの内戦は……長期戦になるとのことだから、問題はないか。


 まあ……。


 日程次第だな。


「王都へは、いつ出発の予定でしょう?」


「あっ、すみません。日程の話を先にしないといけないのに」


「いえ、気にしないでください。それで?」


「私はいつでも休みを取れますので、出発は早ければ早いほど嬉しいです。明日でも明後日でも、コーキさんに合わせて出発します」


 早い方がいいということは、武志を迎えてからでは遅いということか。


「分かりました。ところで、オルドウから王都までは何日かかるのでしょう?」


「今回は馬車での移動になりますから、何も問題がなければ片道で5日ほどです。その後、王都では数日滞在しますので、オルドウに戻るまでの日数は15日程度と考えてくだされば。もちろん、全て順調に進めば15日もかからないと思います」


 15日ということは、異世界間移動の時差を単純計算すれば日本時間で7日半かかるということ。


 となると、武志の帰宅の日に間に合わないな。

 この依頼、申し訳ないが断るしか……。


 いや、待てよ。


 王都滞在中に時間を自由に使えるなら。


「日程は了解しました。もうひとつ伺いたいのですが、王都でも護衛は必要でしょうか?」


「いえ、王都は治安の良い街ですし、知り合いのお世話になる可能性も高いので、護衛の必要はないかと思います」


「では、私は王都では自由に行動しても良いということで?」


「はい。あっ、でも、王都での滞在日数の分も依頼料はお支払いしますから」


「依頼料は気にしないでください。ただ、私は自由に動いても良いのですよね」


 重ねての確認になるが。

 ここは、はっきりさせておきたい。


「はい。王都では、コーキさんのお好きなように過ごしていただければと」


 そうか……。

 自由なんだな。


「コーキさん、護衛依頼受けてもらえませんか?」


「……」


 ここまでウィルさんが俺を頼りにしてくれているんだ。

 この依頼、引き受けてもいいんじゃ?


 時間的な問題も、王都で自由に動けるとなれば何とかなる。

 王都滞在中は、日本に戻って活動すればいい。

 時間を調整すれば、問題なく武志を迎えることもできるはずだ。


「……分かりました。引き受けましょう」


「えっ、本当に?」


「ええ、お受けしますよ」


「ありがとうございます! 本当に助かります」


 頭を下げてくれるウィルさん。

 心からの感謝が伝わってくる。


「ウィルさん、頭を上げてください。まだ、護衛もしていないのですから」


「でも、嬉しくて」


「大袈裟ですよ。私でなくとも、他に冒険者などいくらでもいますのに」


「コーキさんほど、人柄も腕も信用できる方はいません!」


「……」


 凄い勢いでこちらのことを肯定してくれる。

 若干引きそうにもなるが。


 それでも、ありがたいことだよ。


「それほどではないと思いますが、力は尽くしますので」


「本当に助かります。ありがとうございます」


「いえ、それで出発ですが。明後日でも良いでしょうか?」


「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします」


「了解しました」


 決定だな。




 出発のための準備があるというウィルさんとは広場で別れ、ひとりでオルドウの大門へと足を向ける


 思わぬ仕事が決まったので、また忙しくなりそうだが、今日明日のするべきことに変わりはない。


 まずは、テポレン山に向かわないとな。


「クゥーン」


「もちろん、ノワールも一緒だ」






 テポレン山の地中に存在する地下大空洞。

 エンノアの人々からは魔落と恐れられている、畏怖の対象たる地下空間。


 実際は神域中の神域。

 トトメリウス神の創り給ひし神域だ。



『久方ぶりじゃな。其方(そち)、元気であったか?』


「はい、トトメリウス様の御加護のお力で元気にしております」


 神域の中に存在する真の神域。

 そこには、際限のない白い空間が目の前に広がっている。


 そんな厳粛で荘厳で神秘的な地に存在するのは、鳥の頭を持つ異形の神。

 知恵と時と魔法を司るトトメリウス様だ。


『ふむ』


「トトメリウス様もご健勝のようで何よりでございます」


『吾にそのような概念はないが、まあ良かろう。して、どうしたのじゃ?』


「本日はお約束の品をお持ちしました」


『約束の品……』


「私の故郷、日本の品々です」


 収納から取り出したのは、俺の貯えで手に入れることができる日本製の商品。

 トトメリウス様が興味を持たれるような物を集めてきたつもりだ。


『そうじゃったな』


「どうか、お納めください」


『ふむ』


 智の神であるトトメリウス様でも、異世界の物品を直接手にすることは簡単ではないらしい。


 ということで、トトメリウス様にお世話になったお礼として、約束していた日本製品を持参したのだが……。


『これは……なるほど。なかなか、面白いのう』


 気に入っていただけたかな?


『良い(なぐさ)みになりそうじゃ』


 良かった。


『其方には感謝せねばならぬな』


「滅相もないことでございます。私は約束を果たしただけですので」


『ふむ。とはいえ、これはなかなかの量じゃからな。其方、何か望みはないかの?』


「……はい。望みなど、何もございません」


 これまでも散々お世話になっている。

 これ以上は罰が当たるというものだ。


 しかし……。


 何度来ても、この空気とトトメリウス様には圧倒されてしまうな。


『相変わらず謙虚なものじゃ』


「いえ……」


『とはいえ、ふむ……』


 こちらを見透かすような深みのある眼差し。

 これは……ああ、見られているな。


『また、斯様(かよう)なことを……』


 何を見られているんだ?


『其方は、筋金入りじゃのう』


「……」


『よかろう。少しばかり手解きしてやろうかの』




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― 新着の感想 ―
[良い点]  お疲れ様です。  今回は久々メンツですね。楽しいです。  コーキさんは本当に異世界ではものすごく意気揚々としますね。読んでるこちらも嬉しいです。次回待ちです! [気になる点]  トトメ…
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