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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第192話  和見武志 3



「説明してくれないか?」


「……」


 そっぽを向いたままの武志。

 こちらの顔を見ようともしない。


「どうして、あいつらと一緒にいたんだ?」


「……」


「話せないのか」


「……あんたには関係ない、どうでもいいだろ」


「どうでも良かったら、助けたりはしない」


「そんなこと僕は頼んでないぞ!」


「……そうだな。頼まれてはいないな」


「だったら、自由にさせてもらう」


 そう言って、ドアから出ようとする武志。


「待て!」


「……手を放せ」


「駄目だ。まだ話は終わっていないからな」


「どうしてだよ。あんたには関係ないだろ」


「関係あるから助けたんだ」


「……関係あるだって?」


「ああ」


「今まで……」


 ドアにかけていた手を離し、武志がこちらに向き直る。

 その目には、さっきまでなかった強い光が。


「今まで……姉さんのことも僕のことも、気にもしていなかったくせに」


「……」


「それを今さら」


「……悪かった」


「謝罪なんか要らない!」


「……」


「今こんなことするなら、なぜ今まで無視してたんだ!」


 無視していたわけじゃない。

 ただ、異世界に夢中になるあまり……。


「すまない。全て自分勝手な都合だ」


「都合? 都合なんて誰にでもあるさ」


 ああ。

 都合なんて、ただの言い訳だな。 


「姉さんのことを気にかける時間くらいあっただろ」


「……」


「姉さんがどんな気持ちだったか……。あんた、分かってるのか! 考えたことあるのか!」


「……すまなかった」


「謝罪なんか、今さらなんだよ! それに、謝る相手も違う!」


「……そう、だな」


「もういい! 放っといてくれ!」


「それはできない」


 悪かったと思っている。

 非は認める。

 認めるが、武志のことを見過ごすつもりはない。


 それとこれとは話が違うんだ。


「なんでだよ!」


「武志……。これまでのこと、本当に申し訳なかったと思っている。もちろん、幸奈に対してもそう思っている」


「……」


「今後は……今後はできるだけのことはするつもりだ。絶対に無視なんかしない」


「だから、今日僕を助けたのか?」


「ああ」


「けど、僕は助けてもらったとは思っていない」


 分かってる。


「こんなこと望んでないんだよ!」


「……橘の下にいたかったのか?」


「……」


「いったい、何のためだったんだ?」


「話す必要はない」


「あいつらの思想に共感でもしたのか?」


「話すつもりはない」


「……」


 武志はまだ高校生だ。

 橘にとっては扱いやすい駒のひとつだったんだろう。

 それに、壬生少年の揺魂の影響を受けている可能性だってある。


 そんな武志を説得するには……。


「今回俺が手を出さなかったら、どうなっていたと思う?」


 こんな話でも、するしかない。


「拘束され自由を奪われていただろうな。短期間じゃないぞ、下手をすれば何年もそのままだ」


「っ、何年も!」


「ああ、その可能性は高い」


「……」


「解放されるにしても、かなりの制限を受けるはずだ。さらに、家族にも累が及ぶかもしれない」


「家族は、姉さんは関係ないだろ! 僕だけの問題だ!」


「……関係の有無は能力開発研究所が判断する」


「っ!」


 異能が原因で、幸奈に影響が及ぶなんて考えたくもないよな。


「くそっ!」


 その気持ち、よく分かるぞ。


「だから、武志を連れ出した」


「……どういう意味だよ?」





 武志は、まだこちらを信用しているわけじゃない。

 それでも、話に耳を傾ける気にはなったようなので、俺の推測も加えいろいろと説明をしたところ。


「……」


 今は助手席に座って当惑の表情を浮かべている。


「その話……本当なのか?」


「もちろんだ」


「僕の聞いていた話とは違う」


「橘からは耳当たりの良いことしか聞いていないだろうが、これが真実だ」


 異能について、真実がどうこうと言い切れる知識なんて俺にはない。

 ただ、今ここでは断言させてもらう。


「けど、異能者は研究所に迫害されているんじゃ?」


「研究所は迫害などしない。異能を悪用する輩を取り締まっているだけだ」


「異能を悪用?」


「ああ」


「そんなこと誰も!」


「武志が知らないだけだろ」


「……」


「そもそも、研究所に勝手に乗り込んで事務員たちを眠らせるなんてこと、普通じゃあり得ない。明らかに犯罪行為だ」


「……異能者を迫害する組織だから問題ないと言っていた」


「そんなわけない。それに事務員は普通人だぞ」


「……」


「橘と鷹郷さんのどちらが正しいのか。冷静に客観的に、今までの行動をよく考えてみるといい」


「客観的に……」


 武志も馬鹿じゃない。

 よく考えれば、分かってくれるはず。

 そう信じたい。






「ひとつ聞かせてほしい」


 しばらく考え込んでいた武志。

 おもむろに顔を上げ、決然とした表情で問いかけてきた。


「何でも聞いてくれ」


「……できるだけの事をするって、本当か?」


「もちろんだ」


 武志と幸奈のために、その気持ちに偽りはない。


「力を尽くすつもりでいる、武志と幸奈のためにな」


「……僕のことはいいけど」


「良くはない。武志のことはずっと心配してたんだぞ」


「なっ……」


 僅かに俯き、しばらく躊躇う素振りを見せた後。


「姉さん……姉さんのこと」


「幸奈がどうした?」


「……姉さんのこと、どう思ってる?」


 ここで、どうしてその話になるんだ?


「それは、今話すことなのか」


「……異能とは関係ないけど、答えてほしい」


「……」


「どう思っているんだよ?」


 どういうわけだか分からないが、武志は真剣な表情。

 ここで言葉を濁すわけにはいかないよな。


「……大切に想っている」


「本当に?」


「ああ」


「今まで放っていたのに?」


「……ああ」


「信じていいのか?」


「今の俺にこんなこと言う資格はないが……。それでも信じてほしい」


「……」


「……」


「それで……その、どうなんだ?」


 どうとは?


「だから、あれだ……。好きなのか、姉さんのこと?」


「……」


「いや、いい。やっぱり答えなくていい」


「……」


「でも、姉さんのことを大切に想っているんだよな」


「……ああ」


「もし……もし、姉さんの身に何か起きたら……」


 幸奈に何かが起きる?

 今の幸奈に問題が?


 前回の流れでは、武志の件以外で問題などなかったはず。

 ということは、可能性としての話?


「その時は力を貸してくれるか?」


「言うまでもない」


「そうか……」


 武志はそう言ったきり、何も話さない。

 そのまましばらく沈黙が続き……。


「分かったよ」


 そう答えた時の武志の口調は、明らかにこれまでとは違うものになっていた。




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