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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第186話  魂を揺らす者 3



 止まることなく映像が浮かび続けている。


 ……。


 こんなのはまがいものだ。

 ただ、この感情は……。

 確かに、俺が抱いたもの。


 ……。


 頭では全て理解できている。

 なのに、心に残る痛みは……。


 ……。


 大丈夫……これは全て克服済み。


 大丈夫だ!


 ゆっくりと呼吸を繰り返し、身体に力を入れる。

 そして、前を見据え……。


「おや、もう動けるんですか!」


「……」


「トラウマを過剰に刺激したんですよ。普通なら、しばらくは動けないんだけどなぁ」


 やってくれたな。

 よくも、こんな映像を……。


 けどな。

 俺は何度も経験しているんだ。

 何度も経験し、乗り越えてきたんだよ。


 だから、動ける。

 動けるはず!


「ホント、脱帽ですよ」


 ゆっくりと足を前に。


「でも、それじゃあ。非力なぼくにも勝てませんよ」


 と、頭に浮かんでいた映像が消え、また圧力。

 身体が押し戻される。


「……どうかな」


 確かに、感情の名残はある。

 それでも。


「動けるんだよ」


 まだ少し重い身体に鞭を打ち、壬生に迫る。


「おっと、危ない」


 予想外のスピードで避けた壬生が俺から離れる。


「……」


 さすがに、この速度では難しいか。


「そろそろ諦めませんか。ここまでやっただけでも大したものですよ」


「……」


 魔力と気を循環。

 身体を正常に戻していく。


「また、黙っちゃって」


 まだ不十分だが、いけるか。


「強情だなぁ」


 足に力を入れ、床を蹴る!


「っ!?」


 驚いた表情のまま跳び退る壬生。

 あと一歩のところで取り逃がした。


 が、次は捕まえる。


「ホント、凄いとしか言えないや。でも……」


 壬生の輪郭が揺らぎ、上半身から消えていく。

 これは、転移じゃない。

 揺魂を使った認識阻害か。


 ……。


 完全に消えてしまった。


 が、壬生の気配はもう完全に把握している。

 それに、あいつはまだこの室内にいるはず。

 いると分かっていれば……。


 目に魔力を集め壬生が消えた場所を凝視。


 すると……薄っすらとではあるが、浮かんできたぞ。


 いる。

 確かに、そこにいる。


 なら。


 一息で距離を詰め、壬生に迫る。


「なっ!」


 逃げようとする壬生の腕を押さえた。


「ここまでだな」


「ぼくが見えるんですか?」


「ああ、そうだな」


「……どうして?」


「目がいいんだよ」


「……はは、ホント。本当に恐ろしい人だ」


 この状態でも余裕の表情……。


 ただの強がりか?

 それとも、まだ何かあるのか?


 いや、問題はない。

 ここで終わりだ。


「じゃあ、眠ってもらうぞ」


「それは、どうでしょ」


 口の端を歪める壬生に掌底を繰り出すべく構えた右手が……。


 止まる!?

 止まってしまった。


 ……。


 また動かない。

 映像なんか浮かんでないのに!


 と……。


 さっきとは比べ物にならないような震えが襲ってきた。


「今のは危なかったなぁ。でも、もう動けないでしょ」


 急激に襲って来た震えで身体に力が入らない。

 動かないが動けないに変わっていく。


 手も足も、まったく……。


「くっ!」


 これは、まずい。

 震えがきつすぎる。


 力の抜けた俺の左手から壬生の腕が離れる。

 もう一度捕まえようと思っても。

 手が伸ばせない。


 あまりの震えのため、身体が言うことをきかない。


「ぅぅ……」


 身を屈めてしまう。


 駄目だ。

 動けない。

 震えが止まらない。


「……」


 これも揺魂なのか?


「もう感嘆の言葉もないですよ。これを受けて倒れないなんて、ホント」


「な、な、んだ?」


「それに喋ることもできる」


「……い、の、うか?」


「ええ。震えが止まらないでしょ」


「……」


 映像はない。

 恐怖もない。

 もちろん、寒くもない。


 それなのに、震えが止まらない。


 これも揺魂の力……。


「ぼくの異能は揺魂と言いましてね。魂に働きかけることができるんですよ。効果は様々あるんですけどね。今の有馬さんのように魂に直接恐怖を与えてやると、大抵は震えで動けなくなりますね。中には、すぐに失神する者もいますし」


 魂に直接恐怖を?

 俺自身全く恐怖など感じていないのに、魂が恐怖を感じていると?


「……お、お、、し、えて、いい、のか」


「有馬さんは特別ですよ。まっ、ぼくの異能を知ったところで対処なんてできないでしょうから、問題はないですし」


 すぐ目の前にいるというのに、何もできない。


「ぅぅぅ……」


 これ以上、立っていられない。

 我慢しきれず膝をついてしまう。


「膝立ちで耐えるんですね。うーん、恐ろしいなぁ」


「……」


「でも、どうです。そろそろ、ぼくに手を貸す気になりましたか?」


「そ、んな、わけ、な、い」


「そうですか」


 壬生少年が震える俺のもとから離れていく。


「こういうの趣味じゃないんだけど」


 鷹郷さんたちのもとに歩を進めている。


「強情な有馬さんが悪いんですよ」


「な、にを」


「それと、手を出してきたのは有馬さんが先ですから。許してくださいね」


「な、に、する?」


「うん? 脅すんですよ。有馬さんを」


 橘の投げたナイフを拾い、古野白さんに近づく壬生。


「こういうことです」


 そのナイフを古野白さんの首筋にあてた。






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