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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第185話  魂を揺らす者 2



「ええ、自信はありますね」


「……」


 それだけ自分の持つ異能に自信があるってことか。


 それにしても、俺にこだわる理由が分からない。

 壬生少年の前では身体強化こそ見せたものの、あからさまな魔法は全く使っていないのに。


「……」


 まさか、魂移で俺の身体を狙っている?


 いや、それはないか。

 鑑定によると、自我の確立前の身体にしか移れないはずだから。


 それとも、何か抜け道が……。


「その沈黙は、ぼくに手を貸そうと考えてくれているんですか」


「違うな」


「残念。まっ、今はしょうがないのかなぁ」


「それで……俺を仲間にして何をするつもりだ?」


「うーん、まだ話せないですねぇ。だって、有馬さんも秘密だらけですし」


「……」


「有馬さんが話してくれたら、ぼくも話しますけど」


 それは無理な相談だ。

 ただ。


「目的が分からないと、そもそも考慮すらできないぞ」


「なるほど。それは困りますねぇ……。では、少しだけ」


 少しなら話せるのか?


「まずは、この近辺の異能者たちを従えましょうか。放っておくと厄介ですからねぇ」


「そうすると、鷹郷さんたちとも対立することになるが」


「素直に従ってくれるなら対立しませんよ」


「従わないなら?」


「はは、そんなの従わせるだけです」


 こいつ、ここでも自信満々なのか。


「まあ、彼らは従ってくれると思いますけど」


「……今回の襲撃は、その野望の第一歩というわけだな」


「違いますよぉ。これは橘たちが計画したことですって。ぼくは関係ないですね」


 廃墟ビルの件も、今日の襲撃も自分は関与していない。

 その主張は変わらない、か。


「いずれにせよ、鷹郷さんたちとは対立するってことだ」


「だからぁ、従ってくれたら対立しませんって」


 そんなわけないだろ。


「君の考えは理解した」


「そうですか。嬉しいなぁ」


「勘違いするなよ」


「勘違い、ですか?」


「ああ。君に手を貸すことはできない。決裂だ」


「うーん、結論を出すのが早いのでは?」


「いや、対立するに決まっているからな」


 こいつの言葉は信用ならない。

 それに、今この時点で既に揺魂を使っている可能性すらある。

 少しずつ感情や思考が誘導されている可能性も。


「この話はここまでだ」


「悲しいなぁ」


 茶番はもういいだろ。


「問題ないようなら解放してやるが、とりあえず拘束させてもらうぞ」


 この異能抑制具を使ってな。


「はぁ~~。仕方ないですねぇ」


 その嘆息を無視して傍らまで接近……できない?


 身体が重い!?


 いや、違う。

 身体が押し戻される!

 前に進むのを押しとどめようと何らかの力が俺に働いているんだ。


 これは、あいつの異能か?

 人体を止めるほどの念動力を使えると?


 廃墟ビルで異能者が使っていた念動力とは比べ物にならない。


「なかなか効くでしょ」


「……そうだな」


 信じがたいほどに強烈な力だよ。

 普通なら、自由に動けなくなるところだろう。


 ただ、俺を止めるには足りないな。


「どうです、仲間になる気になりました?」


「お生憎様だ」


「強がらなくていいですよ」


 強がりじゃない。


「……」


 強化した身体で四肢に力を入れ、念動力を……押し返してやる!


「えっ! そんなに動けるんですか?」


 まずはゆっくりと動いてみたが、大きな問題はなさそうだ。


「凄いなぁ。やっぱり普通じゃないや」


 俺が動いても、壬生少年の余裕に変わりはない。

 崩れない、か。


「普通人だけどな」


「絶対違うでしょ」


「違わない」


 無駄口を叩いている間に少年に接近。

 あと少し……。


「!?」


 さらに圧力が増した。

 かなりの力が身体にかかってくる。


「これで、どうです?」


「……」


「さすがの有馬さんも、きついみたいですね」


 確かに、これはきつい。

 が……動けないほどじゃない。

 充分に力を発揮できないが、それでも動ける。


 強引に前へ。


「うわっ! すっごいなぁ」


 後退する壬生少年。

 残念、この状態でも俺の方が早い。


 よし、部屋の隅に追い詰めた。


「じゃあ、これで」


「!?」


 なっ!

 何だこれは?


 震える!

 身体が震える。


 そして……。


 まるでフラッシュバックするかのように、映像が目の前に!

 頭の中に浮かんでくる!


 これは……。


 40歳の俺。

 絶望の淵に追いやられていた俺。

 自室でただ空を睨んでいる……。


 もう何もやる気になれない。

 けど、異世界を諦めきれない。

 つらい、つらい、痛い!


 この感情は?



 そんな映像が消え。

 次は……。


 実家の俺の部屋。

 ベッドの中にいる俺。


「うっ!?」


 あの感覚がよみがえる。

 首を斬られたあの感触、冷えていく身体、薄れていく意識。


 恐怖!

 何も考えられない、あの死への恐怖!


 心が震える。

 気持ちが悪い!


 吐きそうだ……。



 また映像が消え。


 次に浮かぶのは、真っ赤に染まった地面に倒れ伏すユーリアさん!

 傍らではフォルディさんの慟哭。


「……」


 寝具に横たわるのは……アデリナさん。

 息をしていない。


「……」


 夕連亭の食堂に横たわるウィルさん。

 上半身を鮮血に染め、うつ伏せに倒れたまま。


「……」


 セレス様。

 絶望した目で、俺に死をせがんでいる。


「……」


 テポレン山の麓。

 俺の手の中には……セレス。

 もう息をしていない。


「……」


 幸奈。

 武志の棺の前で泣きじゃくる幸奈。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 無力感が襲ってくる。


 絶望が心を押さえつけ。


 虚無が身体を……。


 ……。


 ……。


 ……。


 幾つもの映像が消えては現れ、また消えて現れる……。


「くっ!」


 分かってる。

 こんなものはまやかしに過ぎない。

 壬生の異能による偽物だ。


 だけど、この感情は……。


 感情は本物なんだ。



「苦しそうですねぇ。仲間になるなら助けてあげますよ」


 壬生の声が通り過ぎていく。


「まだ、頑張りますか?」


「……」


「忍耐力もあるんですねぇ。でも、これなら有馬さんの身体は傷つかない。最高でしょ」


「……さい」


「はい?」


「……うるさい。黙れ!」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。あくまでしらを切り続ける主人公の姿勢、嫌いじゃないw 力の根源が異能と魔法で違うのか同じなのかの問題がありますが、個人的にはどこまでも切り続けて欲しいところ。
感想一覧
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