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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第182話  能力開発研究所 5



「異能を使えないお前には、これが一番だ!」


 まずい!

 銃弾はまずいぞ!


「くっ!」


 前方に橘の拳銃。

 さらに、左右と後ろにナイフが出現!


 考える余裕もない。

 咄嗟に、右前に身体を投げ出す。


 ダン、ダン!


 と同時に、2発の銃声。

 重く暗い金属音とともに、銃弾がすぐそこをかすめていく。


 ギリギリだ!


 が、何とかなった。

 ナイフを掻いくぐり、銃弾も避けることができた。


「っ!? これも避けるのか! なら」


 ダン、ダン!


 再び火を噴き、銃弾が飛来!

 の直前に、横に跳躍して床を転がる。


「……」


 これも紙一重。

 それでも、回避に成功だ。


「くそっ!」


 今ので4発。

 残りの銃弾数は?


「この!」


 橘の指に力が入るのが見える。

 今回ははっきり見える。


 撃鉄を起こし、引き金を……。

 それを見極め、また跳躍。


 ダン、ダン!


 三度静寂を斬り裂いた銃弾が空を切り、壁に沈んでいく。


 よし!

 タイミングがつかめてきた。

 しかも、もう6発を撃ち終えている。


 残る弾数も少ないはず。

 あと1度か2度避ければ終わりだ。



「お前!」


「……」


「拳銃を、銃弾を……」


 今の俺はレベルも上がっている。

 だから銃弾にも対処できたんだ。

 これが以前の俺だったら。


「……」


 拳銃の弾丸の速度を秒速400メートル、時速1440キロメートル前後だと仮定しても……。


 とてもじゃないが、この距離で避けることなんてできない。

 レベルアップした今の肉体でも、発射後に避けるのは不可能だ。


 発射寸前に動いてギリギリといったところ。


 あるいは、武志のように防御壁を構築すれば防ぐこともできるだろうが、これも構築時間が問題になってくる。

 何より、ここでは魔法を使いたくない。


「本当に普通人か?」


「……」


 もちろん、今よりレベルが上がった身体を魔力で限界まで強化すれば、もう少し余裕も生まれるだろう。

 が、今度は思考がついてこない。


 対処は困難だってことだ。


 ただし、魔力で肉体強度を高めた状態なら、急所にでも当たらない限りは1発で致命傷を負うこともないはず。


 痛みは変わらないが……。


「いったい何者だ?」


「……」


「黙ってないで答えろ!」


「……」


「名乗れないのか!」


 うるさいやつだな。


「……名乗る気がないだけだ。それより、拳銃を使うのは反則だぞ」


 いや、犯罪か。


「反則? 何だそれは。そんなものあるか!」


 言われるまでもなく、分かってる。

 分かってはいるが、異能者は異能で戦うもんだろ。


 というのは、ただの俺の理想か。


「普通人相手にはなあ、銃が一番効果的なんだよ!」


「……」


 そうだな。

 普通人どころか、異能者にも効果はあるだろうよ。


 けど、今は……よし!

 身体の最大強化完了だ。


「ただ……お前、普通人じゃないな。スピード特化の異能持ちか?」


「異能は持っていない」


「嘘をつくな!」


 嘘じゃない。


「まっ、今さら普通人でも異能持ちでも、どうでもいい。これで最後だからな」


 その言葉と共に消える橘。


「……」


 後ろか!


 ダン、ダン!


 姿を現した途端、至近距離からの2発!

 とはいえ、予想通りの動き。


 しかも、今の俺の身体は完全完璧な強化状態。

 後ろに気配を感じた時点で既に動いている。


 銃声が響く直前に予備動作なしのノーステップで右に跳び、そこで反転。

 そのまま橘の懐に!


「なっ!?」


 銃を構えなおす暇も瞬間移動の暇も与えず、掌を橘の顎に!

 顎を揺らしてやる。


「うぐっ!」


 当然、揺れた脳は動きを止め。


「ぅぅぅ……」


 力が抜けた体は膝をつき。

 そして……。


 橘が沈んだ。




 さてと。

 何とか倒すことができたが、前回のこともある。

 今回は逃げられないように、まずは橘の異能を抑えないとな。


 いまだ目を覚まさない鷹郷さんのもとに歩み寄り、スーツのポケットから異能抑制具を取り出す。


 この抑制具を橘の腕にはめてやればいい。

 そうすれば無事終了だ。


 さっそく、と。

 橘の方を振り返った、その時?


 っ!

 あれは?


 少年!

 幽霊少年だ!!


「……」


「……」


 今日は現れないのかと思っていた。

 けど、そんなわけないか。

 ここで登場しないなんて。

 そんなこと……。


 俺の足下には、床に横たわる鷹郷さんたち3人。

 デスクの周りには、職員たち。

 通路には、武志と女性異能者。

 そして、橘。


 全員が倒れ伏している中、立っているのは俺と幽霊少年のみ。


 その少年が橘の傍らに立ち、こちらを見つめている。

 少し透けた身体を俺に正対し、ただ見つめている。


「……」


「……」


 僅かばかりの沈黙の時間が、こちらの心をざわつかせ。

 奇妙で不愉快な感覚にとらわれてしまう。


「……」


「……」


 沈黙の中、静かな微笑みを見せる少年。


 漆黒を映す瞳には、好奇心。

 新月の弧を描く唇には、驚嘆。


 隠しきれない感情が、こぼれている。



「……いったい、君は?」


「ふふ」


 口の端から声が。

 ついに、声が!


「やっぱり、見えるんですね」


「……ああ」


「はじめまして、いや、お久しぶりです、がいいのかな?」


 これまで沈黙を守っていた口から流れ出る声音。

 あふれ出る笑顔。


「君は……」


 透けも消えている。

 やはり幽霊じゃない。


「そうです。ぼくは幽霊じゃありません」


 なっ、心が読める?


「心は読めませんよ」


 また読んだ?


「読んでませんって。有馬さんの顔に出ているだけですよ」


「……」


「って、うそ、うそ。嘘ですよぉ。皆さんぼくを見ると幽霊と間違えるんで。有馬さんもそうかなぁって、思っただけです」


 何だ、この少年。

 ずっと口を閉ざしていたのに、一度開くと人を食ったようなことばかり。


「有馬さん、そんな顔しないでくださいよぉ」


 それに、どうして俺の名前を?


「有馬さんと呼ばれているのを聞いたんです」


 やっぱり、読んでるぞ!


「だから、顔に出てるんですって」


「……」


「また、そんな怖い顔してぇ。ぼくの方は、有馬さんと仲良くしようと思ってるのになぁ」


 仲良く?


「それは……どういうことかな?」


「言葉通りです。ぼくは有馬さんと仲良くなりたいんですよ」


「君は橘の仲間じゃ?」


「うーん、仲間ではないですねぇ。ぼくがちょっと面倒を見ているだけです」


 面倒を見ているだと。

 橘より立場が上なのか?

 こんな少年が。


「……」


 いや、違うな。


 確かに、外見は幼いとさえ思える容貌をしている。

 けど、この少年の持つ雰囲気……。


 透けていた時は分からなかったが、今ならはっきりと分かる。

 この雰囲気は、とてもじゃないが少年の持つものじゃない。


 それどころか……。


 とんでもない圧力を感じる。

 あどけない少年が笑顔で話しているだけなのに。


「……」


 日本では感じたことがないような、重く鈍い圧力。

 あのオルセー以上の圧力。


 いったい、どういうことなんだ?





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― 新着の感想 ―
[良い点]  壮絶な橘との攻防、そして決着。カッコイイですね。もうコーキさん。正体を半分さらしているような気がしますが、敢えて意地を張るコーキさんが面白いです。 少年も謎めいていい存在です。次回で明…
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