第18話 夕連亭 3
ウィルさんとヨマリさんと一緒にいただいた夕食。
若干俺の態度がぎこちなかったと思うが、無事に夕食を終え今は宿の一室。
前回と同じ部屋の中にいる。
今回のこちらでの行動については、可能な限り前回同様に進めるつもりだ。
犯人が誰か分からない現状では、同様に事を進めてあの夜を迎えるのが無難だろう。
腕時計を見る。
こちらの世界では10刻半頃かと思われる。
もうすぐ日本に戻る予定なのだが…。
「ステータス」
有馬 功己 (アリマ コウキ)
20歳 男 人間
HP 110
MP 155
STR 183
AGI 125
INT 211
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定初級 エストラル語理解
セーブ&リセット 1
<所持金>
2、360メルク
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
セーブ&リセットが復活している。
おそらく、ヨマリさんを案内することで手に入れてしまったのだろう。
前回と同じように案内をし、報酬として再び手に入れたと。
……。
これはどうかと思う。
異世界で活動して数日。
色々と経験し知識も得てきたが、このセーブ&リセットだけは解せない。
本当に何と言うか…。
それでも、現在の俺にとって、ありがたいことには違いない。
もう一度セーブして、あの夜を迎えることができるのだから。
正直なところ、セーブがあると思うだけで心が軽くなってくる。
……。
現金なことだと思うし、情けなくも感じる。
使用を控えようと考えていたのに、3度目も使う気になっているのだから。
でも今は、その辺を全て飲みこんで、ありがたく使わせてもらおうと考えている。
今後もそう。
命に関わる際は使っていこうと思う。
だから。
「セーブ!」
ステータス上のセーブ&リセットが点滅を始める。
「……」
これでいい。
今回は何としてもウィルさんを助けたい。
そのために全力を尽くすつもりだ。
それでも、失敗する可能性がないとは言えないのだから。
……。
日本に戻るまでは、まだ時間がある。
この後の予定の確認をしておこう。
日本に戻った後は、朝から買い出しをして必要な物を入手。
それから、幸奈と会って帰宅。
その後、19時にオルドウに移動。前回と同じならオルドウ時間では6時(3刻)になるはず。
オルドウでは夕連亭周辺に不審な人や物事がないか調べる。
そして夜。
24時(12刻)頃から食堂の厨房に隠れてウィルさんが来るのを待つ。
……。
ウィルさんを連れてこの宿を出ることも考えた。
事件の夜にウィルさんを食堂に近寄らせないようにすることも考えた。
でも、何と言って説得すればいいのか?
知り合ったばかりの俺が何を。
それに、危険を避けることで明日の夜を乗り切ったとしても一時しのぎに過ぎない可能性が高い。根本から解決するには、やはり犯人と対峙するしかない。
正直言って、不安はある。
あの夜にあの食堂に行くことへの恐怖感が完全に消えたわけではないのだから。
それでも、今はこうして落ち着いて考えることができる。
セーブのおかげもあるんだろうな。
……。
そろそろだ。
「異世界間移動」
「もう、30分も遅刻だよ」
こちらの世界での行動は前回を模倣する必要はないはずだし、ましてや遅刻まで再現する必要はないとも思ったのだが。
……。
「ごめん、大学で少しトラブルがあって」
「午前中に試験は終わってたんでしょ」
「まあ、色々あるんだ」
「そうなの」
「やることが多くてな」
オルドウでも経験したが、2度同じ経験をするっていうのは不思議な感覚だ。
ただ、幸奈とのこの会話は……。
悪くない。
なんだか心地がいい。
懐かしさ、安堵、感謝、そんな感情が混じっているんだろうけど、とにかく心地いい。
「ふぅ~ん、何があってもいいけどさ、30分遅れるのはどうなの?」
「申し訳ない。お詫びに、お茶を御馳走するよ」
「本当?」
「ああ、ケーキつきでご馳走する」
「分かった。それで許してあげる」
前回の流れでの約束もある。
やっとだな。
「どうして笑ってるのよ」
「ごめん、ごめん。御馳走するから許してくれ」
「もう~~、仕方ないなぁ」
「じゃ、珈紅茶館に行こうか」
「えっ、そこなの?」
「ここから近いからさ。今日は遅くなったし」
珈紅茶館までのわずかな時間。
20歳に戻った当初と違い、幸奈とこうして歩くのを避けようという気持ちは今はない。
それどころか、心が浮き立つ感じすら覚える。
そんな自分に少なからず驚いてしまう。
精神的に40歳の俺が20歳の幸奈と。
……。
やっぱり、俺の精神も若返っているのか。
店内に入ると前回と同じ席に着く。
俺はホットコーヒーを幸奈はケーキセットを注文。
「それで、最近どうなの?」
「別に普通だけど」
「そうなの?」
「ああ」
「でも、ちょっと雰囲気変わったよね」
ん?
これ、前回は言われなかったよな。
「そうかな」
「そうだよ。少し丸くなったと言うか」
最近色々あったから。
まっ、今もその渦中だけど。
「その……いいと思うよ、今の感じ」
「……」
「ちょっと前までは、って、ごめん」
携帯電話の着信音。
ここで家族から電話なんだな。
「えっ、今から……? 遠くじゃないです、でも……」
話している幸奈の横でコーヒーをいただく。
「分かりました。今から帰ります……。功己、ごめん」
両手を合わせて頭を下げてくる。
「急用か?」
「うん、家で用事ができて」
「それなら帰った方がいい」
「ごめん、今日の代わりに明日はどうかな?」
「明日は難しいな。今週末ならいいけど」
週末まで4日間ある。
それだけあれば、オルドウでの問題も片付くはず。
「了解。じゃあ、土曜に今日と同じ時間に駅待ち合わせで」
「分かった」
「ありがと。じゃあ、ごめん、先に帰るね。あっ、ケーキ食べておいてね。これ、代金。功己の分も御馳走するから。遅刻のお詫びは次回ご馳走してね」
あわただしく席を立ち出口へと向かう。
「幸奈」
「うん?」
「ありがとうな」
「へっ? なに? わたしが勝手に帰るんだからご馳走くらいするわよ」
「まあ、でも、ありがとな」
この時間軸の幸奈ではない幸奈。
彼女の言葉には助けられた。
だから。
自己満足に過ぎないけれど、ひとこと感謝を伝えたかった。
「うん、まあ、いいけど……じゃあ、もう行くわよ」
「ああ、気をつけて」
結局、今回もケーキをご馳走することはできなかったな。
それは、また週末だ。
幸奈が帰った後、前回同様ひとりでコーヒー2杯とケーキをいただき、帰宅。
手早く夕食を済ませ、シャワーを浴びて自室へ。
時計を確認すると、18時30分。
あと30分で出発。
さあ、ここからが本当の勝負。
命を懸けた1日の始まりだ!





