第177話 幽霊?
ここのところ場面の転換が多かったので、時系列に並べてみます。
魔落から帰還
↓
幸奈が功己のためにカレーを作る
↓
廃墟ビル事件
武志述懐
幸奈述懐
功己、和見家訪問
↓
武志捜索の日々(オルドウ散策)
↓
現在
となっております。
武志を駅で見かけたという香澄の言葉を聞きすぐに駅前に戻ったのだが、その姿を見つけることはできなかった。
それならと、駅裏、駅構内、隣接しているショッピングモールと駆け回って武志を探したのだが、やはり見つけることはできず……。
僅かの差で武志を逃してしまったことを悔いながら駅前に戻り、もう一度駅周辺を捜索するも収穫はなし。
さすがにもう無理かと諦め、駅前のベンチに座っていると。
「あれ、功己」
「……幸奈、大学の帰りか?」
「違うよ。ちょっと用事があって」
さっきは香澄、今度は幸奈。
今日の駅前はどうなっているんだ。
肝心の武志には会えていないというのに。
「功己こそ、大学の帰り?」
「いや、俺も用事があってな」
「そうなんだ」
幸奈に会うのは、廃墟ビルの事件の日に和見家で幸奈に会って以来なんだが……。
やはり、顔色が良いとは思えない。
武志が家に戻っていないのだから、仕方ないことなんだろうけど。
「もう用事は終わったの?」
終わったといえば、終わったようなものか。
「まあ……な」
今日も武志を見つけることができなかった。
せっかくの好機だったのに……。
武志はもうこの周辺にはいないだろう。
どこかに去ってしまったはず。
それなら。
「幸奈、時間あるか?」
「……1時間程度なら」
1時間でも気分転換にはなるよな。
「ちょっと行きたい店があるんだけど、付き合ってくれないか」
「……うん、1時間でいいなら付き合うよ」
「了解。じゃあ、行こう」
「どこに行くの?」
「香澄に聞いたんだが、この近くに美味しいケーキを出す店があるらしいんだ。そこに行こうと思ってな」
「へえ、そうなんだ。香澄ちゃんのおススメなら楽しみだね」
ということで、さっき香澄と近くまで行ったその店に幸奈と行くことに。
これ、香澄が知ったら怒りそうだな。
香澄から聞いたその店は、大通りから路地を少し入ったところにある洒落たフランス風の店だった。
「あっ、席が空いてるよ。早く入ろ」
「ちょうど良かったな」
さっそくイートインスペースに2人で座ることに。
「いい雰囲気の店だね」
「ああ」
外観同様、内観もフランス風。
店内に流れる音楽はシャンソンだろうか。
洒落た雰囲気を演出している。
「お客さんでいっぱいなのも分かるなぁ」
幸奈の言葉通り。
俺たちが席に着いたことで、店内は満席になったようだ。
「これは楽しみだよ」
そう言ってメニューを眺めている。
少し元気が出てきたように見えるな。
「……」
最近の幸奈はいつもこんな感じ。
最初は浮かない顔をしていることが多い。
話をしていると笑顔も見せてくれるんだが……。
「功己は何にする?」
「ん? 幸奈はどうするんだ?」
「わたしは、このタルトとアイスティーかなぁ」
「そうか。俺はアイスコーヒーだな」
「えっ? ケーキ、食べないの? せっかくだから食べなよ」
「……食べようか?」
「うん、うん」
ということで、俺はイチゴのタルトを注文、幸奈は季節のフルーツタルトを注文した。
ちなみに、後で聞いた話なんだが、この店はタルトの美味しさで有名なケーキ店とのこと。
並ばずに入店するのが難しい人気店だったらしい。
「それで、今日は何してたの?」
「……まあ、ちょっと探し物があってな」
武志を探していたとは言えない。
異能については話せないんだし。
「見つかったの?」
「見つかったといえば、見つかったかな」
「そうなんだ。それにしては、暗い顔してたけど?」
「そうだったか」
「ベンチに座って、どんよりした空気を振りまいてたよ」
「そこまでじゃないだろ」
「ううん、そうだよぉ。功己のことは、よく分かるんだから」
俺がそんな状態だったら、幸奈のことを元気がないなんて言えないな。
「功己、大丈夫?」
「もちろん。あの時は……考え事してたんだと思うぞ」
「悩み事あるの?」
「いや、まあ、そうでもない」
「ならいいけど……。功己、元気出しなよ」
「……ああ」
幸奈のこと心配しているつもりが逆に心配されているのだから、世話がない。
「で、幸奈は何してたんだ?」
「わたし? わたしは母に頼まれた物を買いに来ただけだよ」
「じゃあ、帰るところだったのか」
「そう。だから1時間しかダメなんだ。ごめんね」
「いや、急に誘って、こっちこそ悪かった」
「いいよ、わたしも新しいお店に来れて嬉しいし」
「そうか」
もう今は、普段通りの幸奈に見える。
「ところで、この店寒過ぎない?」
「そういえば……。冷房が効きすぎている、か」
「うん」
「幸奈はいつも通り長袖だから大丈夫だろ」
「それでも、ちょっと冷えそう」
「温かい飲み物でも注文するか?」
「うーん、アイスティー頼んじゃったしなぁ……。あっ、タルトきたよ。美味しそう!」
テーブルの上には、2種類のタルトとアイスコーヒー、アイスティー。
確かに、美味しそうに見える。
「食べよ、食べよ」
「そうだな、いただくか」
食べたら、少しは身体も温まるだろ。
「うん!」
タルトを頬張る幸奈を眺めながら、俺もイチゴタルトをひと口いただく。
「……」
かなり美味しい。
これは満席になるわけだ。
「見た目通り美味しいね」
「そうだな」
良い笑顔で食べている。
「いい店に連れて来てくれてありがとうね」
「どういたしまして」
気分転換になったかな。
それなら、良かった。
幸奈と別れた俺は、無駄だと思いつつも確認のため駅周辺を再度見て回ることに。
が、やっぱり、武志の姿は見当たらない。
結局、今日も成果はなし。
幸奈とお茶をして少し軽くなっていた足がまた重くなってきたようだ。
そんな重い足で駅を離れる。
今借りている部屋はここからそう離れていない場所にある。
なので、歩いて帰るわけなのだが、今日は少しばかり遠回りして例の公園を確認してから帰ろうかと思う。
あの公園に武志がいるとも思えないけどな……。
夏の薄暮は悪くない。
日中の陽光から解放された感覚と、こんな時間なのにまだ明るいというお得感。
そんなものが心を軽くしてくれるような気がするからだ。
若干足も軽くなったような気がする。
そんな気持ちで公園に到着。
入口から公園の中に入る。
公園の中をひとり歩いて着いたのは、古野白さんと俺が閉じ込められていた場所。
何の変哲もない公園の一角だ。
当然、今は何もない。
人影もほとんど見られない。
それは、そうなのだが。
やっぱり、勘違いじゃないよな。
「……」
後ろに感じていた奇妙な気配。
時折気配が消えたりもしていたので偶然かとも思ったこの気配。
尾行に違いないだろう。
しかも、尾行者は。
「そこにいるのは、あの屋上にいた……君かな?」
20メートル以上離れた木陰に向かって声をかけてみる。
木陰に半身以上を隠しているが、そこにいるのはベースボールキャップを目深に被った少年。
「隠れていないで、近くまで来たらどうだ」
「……」
今は少し距離がある。
前回もしっかりと顔を確認することができなかった。
だから、断定はできない。
が、こいつはあの透けた幽霊少年のはず。
「用があるんだろ?」
この距離で木陰に隠れている状況では鑑定もできない。
姿を現してもらおうか。
「……」
返事がない。
というか、この少年の声を聞いたことがない。
本当に人間なんだよな?
木陰の後ろに気配は感じるものの、何とも微妙な気配だぞ。
これって、まさか幽霊の気配とか?
いや、いや、さすがにそれは。
「……」
前回はできなかった鑑定。
今回、この少年を鑑定したら正体も分かるはず。
「出て来ないのなら」
こちらから木陰に近づいてやろう。
「なっ!?」
いない。
どういうことだ?
「……」
少年は木陰にいたはず。
今の今まで、確かに気配があった。
それなのに。
「……」
異能を使って、この僅かな間に姿を消したのか?
それとも、本当に……。
いったい何者なんだ?





