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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第166話  廃墟ビル 9



「今度はこっちの番だな!」


 いまだ呆然と立ち尽くしている橘に接近するも。


「ちっ!」


 またもや瞬間移動。

 あと一歩のところで、逃げられてしまった。


「お前、何者だ?」


 声が遠いな。

 今回は俺の背後じゃないのか。


 その橘は……。

 少し離れた屋上の端に立っている。


 瞬間移動から直接攻撃に移ることなく、俺から距離をとったと。


「本当に普通人なのか?」


「……もちろん」


 こうやって逃げ回られると、捕まえるのに時間がかかってしまう。

 厄介だな。


 いや、そうでもないのか?

 SP切れが近い今なら……。


「それが本当なら、大したものだ」


 SPが底を突いた時点で終了。

 ただし、橘が逃走を図らなければの話か。


「異能なしで異能者の攻撃をここまでしのぐとは」


「……」


「しかも、この俺の攻撃を……信じがたいことだな」


 やつを逃がさないためには、どうすればいい?

 やはり、一撃を入れて倒すしかないのか。


「ひとつ聞こう。異能者でもないお前がなぜ鷹郷に付く?」


「……」


「無関係のお前がなぜ鷹郷を選ぶ?」


 それは古野白さんがいるから。

 あと、武上も。

 それに。


「そっちが里村を(さら)おうとしたからだ」


「あの人質か。なるほど……。それについては謝ろう。それに、彼を害する意図はなかった」


「だから?」


「こちらに付く気はないか?」


 古野白さんを裏切れと。

 そんなことするわけがない。

 が……。


「何のために?」


 理由だけは聞いてやる。


「我々の理念を実現するためだ」


 理念の実現とは抽象的なことを。

 そんなもの、古野白さんも鷹郷さんも同じだろ。


「異能者を解放するという理念だ」


「……」


 解放?


「有馬、橘の話を聞く必要はねえ。全てそいつの妄言だ」」


「そうよ、私たちは自由なんだから」


 そうだよな。

 どう考えても、ふたりに解放が必要だとは思えない。


「そのふたりは洗脳されているだけだ」


「それも出鱈目だからな」


「いいや、真実だ。実際に、このふたりは鷹郷の指示で動いている。自由意志なんかじゃない」


「何言ってるの。私は私の意志で動いているわよ」


「本当にそうなのか? 自由なのか?」


 自由。


 その言葉はとても甘く、そして重い。

 30年も異世界に焦がれ続けた俺にとっては、何よりも……。


「当たり前でしょ」


「ああ、オレたちは動きたいように動いてるぜ」


 古野白さんと武上が真に自由なのか?

 そんなこと俺には分からない。

 ただ、ふたりは自身を自由だと思っている。


 なら、それでいい。


 確かに、組織の制約なんかは存在するだろう。

 洗脳とは言わないまでも、それに近いものもあるのかもしれない。


 けど、それが組織ってもんだろ。

 その中で自由だと思っているなら、それが自由なんだよ。


「こちらに付いて、一緒に解放を自由を目指さないか?」


「……」


 その言葉。

 軽く使うもんじゃない。


「橘の話なんか、聞いちゃ駄目よ!」


 ああ、分かってる。


「どうかな?」


「残念ながら、あなたに付く気にはなれない」


「ふっ。それこそ、残念な話だ」


「……」


「やむを得ない、か」


 ああ。

 ここで決めよう。


「本当に残念だよ」


 懐から、またナイフを取り出す橘。

 今度は小ぶりなナイフ。

 それを2本だ!


「これで」


 っ!

 2本はまずいぞ。


 仕方ない!


 瞬時に魔力を体内に巡らせ、身体全体を強化。

 効率無視の速度重視。

 粗くてもいい。

 とにかく強化を!


「終わりだぁ!」


 立て続けに2本を投擲。

 そして消失。


 強化は、よし、間に合ったぞ。


「……」


 どこだ?

 どこから来る?

 

 そこかぁ!


 ほんの僅かな時間差で、俺の真後ろと左横に2本のナイフが現出。

 橘もこちらに走り寄ってくる!


 避けるか?

 いや、ここは。


 半身になり、後ろのナイフに上段の横蹴り!

 右足裏でナイフを蹴り上げる。


 バーン!


 右足を蹴り上げたまま、左足を軸にして90度回転。

 次は後ろ回し蹴りだ!


 バキッ!


 左横から飛んできたナイフを粉砕。


「なっ!?」


 そこに突っ込んできた橘。

 驚愕の表情を浮かべている。

 また転移を使うつもりだろうが。


 驚愕のその一瞬が命取りなんだよ!


 回し蹴った勢いで跳躍。

 空中で半回転し右足で着地。

 そのまま右足を軸にした左の回し蹴りを橘に!


「ぐっ!!」


 入った!

 橘の脇腹に吸い込まれるように中段蹴りが入った。


「うぅぅ!」


 鈍い感触が左足に……。

 少しやりすぎたか。


「ううぅぅ」


 膝から崩れ落ち悶絶する橘。

 転移をする余裕もなさそうだ。


 それでも、一応。

 うつ伏せに呻いている橘の襟を持ち上げ、胸に手を当て。


「うぅぅ」


 掌底を。


「っ……」


 意識を刈り取ることに成功。

 これで、逃げられることもないだろう。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 異能者の自由の為に戦っている!( ー`дー´)キリッだったんですね。 理想を掲げるのも考えも自由ですし、やり方が極端で悪いだけで悪人という訳ではないでしょうが、洗脳されているから、解放する…
[良い点] いやぁ、スッキリするバトルでしたね [気になる点] 下記の冗談が通じなかったらどうしよう [一言] よくぞ橘の意識を刈り取った お前にはオプーナを購入する権利をやろう
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