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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第165話  廃墟ビル 8



「お前が誰であろうと問題などないが……。その帽子にサングラス、そこまでして隠したいのか?」


 そこまでして隠したいんだよ。


 こっちは単に名前を知られるだけじゃない。

 異世界露見につながる可能性もあるんだからな。


「サングラスで隠しているけど間違いねえ! あいつは、あり、うぐっ!」


「武上君、やめなさい」


 結界の中。

 武上が俺の名を口にしようとしたところを古野白さんが手で塞いでくれた。


 さすが、古野白さん。

 よく、分かってる。


 さっき口に出してたけどな。



「いいだろう。隠したければ、倒されるまでずっと隠していればいい」


 笑みを浮かべたまま、攻撃態勢に入る橘。

 こっちも既に準備はできている。


「君、逃げなさい! そいつは君の手に負える相手じゃないんだ」


 戦闘に入る寸前。

 結界の中から、鷹郷さんが大声で呼びかけてくる。


「ありがとうございます。ですが、ここは頑張ってみます」


「駄目だ。逃げるんだ!」


 鷹郷さん、優しい人だな。

 

 ただ、俺としてもここで見過ごすことはできない。

 それに。


「今さらですよ」


 橘がやる気満々だからな。


「それでも、可能なら逃げるんだ。ここは普通人が介入できるような場じゃないんだぞ」


「分かりました。可能なら逃げます。ですので、そちらは脱出に力を注いでください」


「……」


「鷹郷さん、ここは彼に任せましょう。それより、結界を」


「……ああ」


 鷹郷さん、古野白さん、武上の3人が再び結界破壊を開始。


 その中から。


「ふふ、有馬君が普通人って」


 古野白さんの笑いを含んだ独り言を、強化した俺の耳が拾い上げる。


「……」


 余裕だな、古野白さん。




「茶番は、もういいか」


「ええ……いつでも、どうぞ」


「生意気なやつだ」


 生意気というのは少し違う。

 こう見えて、中身はあんたと同世代だからな。


「後悔するなよ」


 そう言って懐からナイフを取り出す橘。

 さっきの大学構内でのナイフと違い、こっちは軍用ナイフのような本格的なもの。


 そのナイフを構えるやいなや、ほぼ予備動作なしで飛びかかってきた。

 かなりの速度、そして切れのある動きだ。


 とはいえ、それはあくまで日本基準。

 あちらの世界の一流冒険者とは比べるまでもない。


「……」


 橘の手から放たれた初撃を横に躱す。

 そこにさらに、ナイフの連続攻撃。

 流れるような連撃だが問題はない。

 上半身の体捌きで2撃、3撃と躱していく。



「どうやら、口だけじゃないようだな」


 攻撃を躱しきった俺からいったん離れての一言。


「それはどうも。で、そろそろ異能かな?」


「……本当に口が減らないやつだ。が、それもここまで」


 と吐き捨てた直後。


「!?」


 俺の目の前から橘の姿は消えていた。


「橘の異能は瞬間移動だ!」


 結界の中から声がかかる。


「分かりました」


 ありがたい助言だが、橘の異能は既に鑑定で確認済み。

 なので、警戒は怠っていない。

 今もずっと気配察知に力を入れている。


「……」


 だから。

 背後に現れた気配にも、すぐに気づくことができるってもの。


「これで終わりだ!」


 当然、背後からのナイフ攻撃も簡単に避けることができる。


「なっ!?」


 空を切るナイフ。


 それを放った橘は固まっている。

 瞬間移動後の一撃を避けられたことが余程ショックだったのだろう。


「どうして……」


 避けられたショックで固まるなんて、甘いことだ。


「っ!」


 と、また消えたぞ!

 瞬間移動は連続で使えるのか。


 少々厄介だな。


 それでも、やることに変わりはない。

 気配を探るのみ。


 さあ、次はどこだ?


「……」


 出たな!


 現れた気配は、また背後。

 再びの大振りナイフを軽く躱す。


「くっ!」


 さらに転移。


「……」


 何度でも瞬間移動を使えばいい。

 何度でも相手してやるよ。





「はあ、はあ……」


 数度に渡る瞬間移動とナイフ攻撃。

 その全てを防がれた橘はこちらから距離を取り、困憊の表情。

 肩で息をしている。


「……」


 この様子だと、異能発現に必要なSPも多くは残っていないだろう。


「もう瞬間移動は終わりですか?」


「きさま……」


 なら、もう終わりにしよう。

 とはいえ、意識を刈り取らない限りは転移で逃げられてしまう可能性が高い。

 一撃で眠らせるしかないか。


 こんな時、雷撃が使えれば楽なんだが……。

 結界の中のみんなが見ているから、それもできない。


 などと考えながら、ゆっくりと近づく俺に。


「これでも食らえ」


 橘がナイフを投げつけてきた!

 綺麗な投擲だ。


 だが、それだけのこと。

 なんてことはない。


 余裕をもって避けようとしたところ……。


 何!

 ナイフが眼前で消えた?


 予想外の事態に目を見張った、次の瞬間。

 首元に現れるナイフ!


 速度は変わらず、すぐそこにナイフ!

 まずい!!


「ぐっ!」


 咄嗟に首を振り、右の掌をナイフへ!


 カラン、カラン、カラン。


 乾いた音を立て、ナイフが屋上を転がっていく。


 ……危なかった。ギリギリだったぞ。



「そんな、これも駄目なのか!」


「……」


 本当に紙一重だった。

 気配察知を怠っていたら、やられていたかもしれない。


「くそっ!」


 まさか、投げたナイフを転移させることができるとはな。


 自分以外の物体でも瞬間移動ができる。

 さらに、触れていない物でも転移可能だとは……。


 思っていた以上に、応用が利く異能のようだ。


 ん?

 待てよ。


 それなら、俺の身体を転移させてビルから落下させればいいんじゃないのか?

 それをしないということは、何か制約でも?

 重量制限とか?


「……」


 考えても無駄だな。


 制約があるかどうかは分からないが、今はこいつを倒すだけ。

 俺の身体に触れさせることなく、倒してやる!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 三人+里村君までいるから、露見がピンチですね。 しかし、橘はもうやる気十分で逃げられないし、逃げるつもりもないというところでしょうか。 しかし、異世界の方がやはり、魔物とかがいて、人間の生…
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