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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第164話  廃墟ビル 7


<和見武志視点>




「この結界、かってえぞ!」


「ええ」


「話に聞いていた以上だぜ」


「……」


「鷹郷さん、何とかなりそうですか?」


「……少し時間がかかる、か」


「ふふ、ははは! あんたらの負けだ」


「何言ってんだ、お前も結界の中にいるだろうがよ」


「俺たちは助けてもらえるからな」


「見殺しにされんじゃねえのか」


「うるさい! あんたらはここで倒れて、俺たちは助かる。そういうことだ」


「はっ、どうだかな」


「と、とにかく、こいつは簡単に破壊できる代物じゃないんだよ。なあ、武志」


「……」


 うるさい男だ。

 与えられた仕事も、まともにこなすことができなかったくせに。

 僕の結界がなければ、今回もどうなっていたことか。


「橘さん、どうします?」


 まっ、こっちの2人はどうでもいい。

 問題は敵の3人をどうするかだ。


「そうだな……」


 結界の中に閉じ込めたままでもいいが、それだと時間がかかってしまう。

 長引けば結界を破壊される恐れもある。

 前回と違いかなり強化しているから、大丈夫だとは思うけれど。


「このままこいつらが苦しむ様子を見ているのも、一興というもの。だが、時間の無駄使いだな」


「ガスを入れましょうか?」


 前回は用意していなかった追撃手段。

 今回は準備万端だ。

 ガスを結界の中に入れてやれば、即終了だろう。


「ああ、そうしてくれ」


「どっちのガスで?」


「……軽い方だな」


「了解」


 鞄から催眠などの作用のある特製ガスを取り出し、橘さんに手渡す。


「これでいいですか」


「ああ」


 それを手にした橘さんが結界に近づき。


「鷹郷さん、これであんたたちも終わりかな」


「……何をする気だ」


 敵のリーダーである鷹郷という男が結界の破壊を試みていた手を止め、橘さんと向き合っている。


 透明な結界で隔たれるとはいえ、ふたりの距離は1メートルもない。


「話は聞いていただろ」


「……」


「まっ、ゆっくり眠ってくれ。少々痺れるかもしれんがな」


「鷹郷さん!」

「鷹郷さん!」


「……」


「ふふ、あの鷹郷が言葉もないか」


「橘さん、ちょっと待って! 俺たちも中にいるんですよ」


「心配するな。お前たちは後で助けてやる」


「それ、本当ですよね」


「ああ」


「それなら……」


「さてと。和見、結界を操作してくれ」


 橘さんが僕の方に振り返り、そう告げる。


「はい」


 ガスを結界内に入れるためには、結界の一部を操作する必要がある。

 結界を維持しながらこれを行うのはかなり難しいのだけれど、今の僕ならできる。


 両手を前に出し。

 集中力を高め。


「……」


「……」


 いいぞ。あと少しだ。


「和見っ、避けろ!!」


「えっ!?」


 操作完了直前に、橘さんの焦ったような声。

 何?


 何かがすごい勢いで迫って来る!


「っ!」


 何とか避けることができたけど。

 集中が途切れてしまった。


「橘さん!」


「ガスは後だ」


「了解です」


 今はこいつに対処しなければならない。

 でも、突然現れたこいつは?

 このサングラスの男は誰なんだ?


 そんな疑問が浮かんだ瞬間!


「!?」


 なんてスピードだ!

 避けられない。


「ううっ!」


 身体に衝撃!

 そして、目の前が真っ白になり。


「……」





**********





 武志を気絶させた後、対峙するのは橘という相手のボス。

 武志への対応は後でしっかりするとして、今はこいつの相手をしないとな。


 しかし……。


 距離を取ったまま、動こうとしない。

 随分とこっちを警戒しているようだ。


「……」


 今の動きを見たのだから、それも当然か。


「……誰だ?」


「それを知る必要はないでしょ」


 名乗るわけないだろ。

 自分の身元をばらすような愚かなこと。

 露見に繋がる可能性もあるというのに。


「有馬君?」


「えっ? あれは、有馬なのか?」


「……」


 だから……。


 ふたりとも、今の会話聞いていたよな。

 驚くのは分かるけど、その名は口にしないでほしいって、それも理解できるよな。


 はぁぁ。


「……まあ、誰でもいい」


 んん?

 耳に入っていないのか?


 これは、ありがたい。


「誰であろうと、ここで倒すだけだからな」


「やれますかね」


「当たり前だ」


 口の端を上げ嗤っている。


「……」


「問題ない」


 今の俺のスピードを見た上で、この自信。

 やはり普通じゃないな。


 さすが、特別な異能の持ち主といったところか。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰も知らない異能を目撃し、事件に巻き込まれ、組織に保護される……そう考えてみると里村君はいわゆる巻き込まれ型主人公として物語の主役になれるのかもしれないですね。 勝ったと思って、結界に頼…
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