第162話 廃墟ビル 5
「ガシャーン!」
「バリーン!」
「ドゴーン!」
屋上に広がる光景。
それは、まさに異能者の戦闘そのもの。
炎と氷が飛び交う中、尋常ではない速度で攻防が繰り広げられていた。
「えっ!」
分かってはいたことだけれど。
「……」
確実に見られてしまったな。
「これって? 有馬くん!」
「静かに。ひとまず、こっちに隠れよう」
疑問でいっぱいといった表情の里村と共に非常階段を離れ、通常の出入り口の陰に隠れる。
と、そこに転がされていた物体?
こいつは?
「うぅ!」
両手両足を拘束され、口にはガムテープ。
「うっ、ううぅ!」
敵方のようだな。
となると、ここは放置?
いや、眠ってもらうか。
そいつの胸に手を当て、寸勁を発動。
と同時に少しばかり魔力を流し込んでやる。
「ぐっ……」
これで、しばらくは目を覚まさないだろう。
「有馬くん?」
「説明は後でする。今は静かに」
「……うん」
とりあえず、里村のことは後回し。
それで、戦況は?
「……」
古野白さん側は3人、敵対する相手は2人。
今は両陣営共に距離をとって対峙している状態か。
さっきまでの異能による戦闘の痕跡が、そこかしこに残っている。
ここには、どんな異能者がいるんだ?
古野白さんが火を使うということは知っている。
氷を使う者もいるだろう。
残りの異能者は何を扱う?
この後の戦闘に対する判断基準の1つとして、知っておきたい。
「……」
そうだ!
進化を遂げた俺の鑑定で分かるんじゃないのか。
こっちの人間を鑑定したことはないけれど、この世界でも俺の魔法は使えるんだ。
それなら、ステータス鑑定が使えてもおかしくはない。
今ここで試してみる価値は十分にある。
よし!
古野白さん側の2人を鑑定すべく、意識を集中して視線を送る。
少々距離があるが、どうだ?
上手くいったぞ!
武上 大志
レベル 1
20歳 男 人間
HP 93
SP 71/102
STR 167
AGI 92
INT 148
<異能>
身体強化
「!?」
キャップをかぶっているあの男、武上なのか?
「間違いない……」
昼前の大学で見かけた時と同じ黒のタンクトップを着ている。
確かに武上だ。
あいつも異能者だったのか。
「……」
異能者であり、古野白さんとも付き合いがあったと。
そういうことか。
はぁぁ。
ホント、前回の人生で俺は何も見えてなかったんだな。
異能者と知り合っていたというのに。
「有馬くん、間違いないって何?」
こちらに顔を寄せ、囁くような小声で里村が尋ねてきた。
「……」
里村は武上に気付いていない様子。
なら。
「それも、あとでな」
「……分かったよ」
それにしても、世間は狭い。
その上、異能者であふれている。
いったい、どうなっているんだ?
「……」
まあ、今はゆっくり驚いている場合じゃないか。
鑑定を続けよう。
武上は見た目通りの身体強化の異能持ち。
十分戦えそうだな。
もうひとり、こちらは暑い中でもしっかりと濃紺のスーツを着こなしている。
この男性はというと。
鷹郷 洸一郎
レベル 2
43歳 男 人間
HP 101
SP 115/166
STR 138
AGI 103
INT 223
<異能>
操風
風を扱うことができる異能者か。
こっちはレベル2なんだな。
それで、この年齢ということは古野白さんの上司なのかもしれない。
この人が異能組織の上司。
「……」
できれば顔を合わすことなく、ここを去りたいものだ。
ところで、このステータス表示。
あちらの世界とは少し異なっている。
ギフトやスキルの代わりに異能が表示され、MPの代わりに異能のポイントであるSPが表示されている。
2つの世界で仕様を変えて鑑定が可能。
ほんと、トトメリウス様には感謝しかないな。
次は敵を鑑定。
じっくり調べてみると……。
氷を操る異能者と念動力者の2人。
ともにレベル1の異能者という構成だった。
つまり、古野白さん側は火を操る者に、風使いと身体強化者の3人。
敵は氷系と念動系の2人。
古野白さん側が数的に有利な上に、ステータス的にも上回っている。
これなら、俺の出番はないかもしれない。
実際、今のところ古野白さん側が優勢のようだしな。
露見的には、ありがたいことだ。
ちなみに、この氷系は公園や古野白さんの自宅近くで遭遇した異能者と同一人物。
念動力者も自宅近くで遭遇した異能者の1人だろう。
「お前たち、もう諦めて降伏しろ。今なら悪いようにはしない」
上司と思われる鷹郷さんが1歩前に出て、敵2人に投降を呼びかけている。
「はっ、誰がお前らなんかに下るかよ」
「俺たちは政府の犬に従うつもりはない」
「後悔するぞ」
「誰がするか! そっちこそ考えた方がいいぞ」
「何をだ?」
「さっきも言っただろ。こっちには人質がいる。そいつが、どうなってもいいのか?」
「……古野白君」
「はい」
今度は古野白さん。
「あなたたちが人質に取ったという里村君だけど、既にこちらの手の者が彼を保護したわ。だから、人質はもういない」
「なっ? 嘘をつくな!」
「噓じゃないわ。実際、ここに人質はいないでしょ」
「そんなはずない。橘さんが……」
「人質はいないのよ」
「……」
「……」
「あなたたちの切り札は、もう存在しないようね」
「……」
「……」
「もう一度聞こう。投降する気はないか」
「くっ、うるさい!」
あいつら、投降する気はないようだな。
「これでも、くらえ!」
叫び声と同時に拳大の氷が空中に現出。
1歩前にいる鷹郷さんに向けて撃ち出された!
見事な早撃ち。
しかもその距離。
避けがたい速度の氷の攻撃、だと思ったが……。
鷹郷さんが素早い体捌きを見せ、横に跳んでこれを回避。
お見事!
と思ったところに。
後方に飛び去ったはずの氷の塊が急旋回、再び鷹郷さんの背中に襲いかかる。
鷹郷さんは片膝をついたまま。
これは避けられない!
「危ねえ!」
と、そこに武上が飛び込むようにして横合いから氷の塊を蹴り飛ばした。
バリーーン!
砕け散る氷塊。
再び対峙する5人。
「……」
凄いな異能バトル。
見惚れる程の攻防だぞ。
「凄い……」
傍らの里村も同様。
見入ってしまうよな。
おっ?
まだ続きそうだ。
「ちっ」
氷使いが、舌打ちをしながらも2発目の氷塊を発射。
これも早い。
鷹郷さんはまだ膝をついている。
避けられるのか?
その場から動くことなく、氷塊に向かって手をかざす鷹郷さん。
すると……。
鷹郷さんの手前で急に高度を落とした氷塊が、そのまま屋上を滑り。
バキッ!
それを武上が踏み砕いた。
「くそっ!」
悔しそうに一声発して後退する氷使い。
対する、鷹郷さんは既に立ち上がり体勢を整えている。
本当に素晴らしい攻防だ。





