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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
162/701

第161話  廃墟ビル 4


<古野白楓季視点>




 4階で倒した炎の異能使いをロープで拘束した後。

 鷹郷さんが尋問したのだけれど、有益な情報はほとんど手に入れることができなかった。


 どうやら、この男。

 あいつらの仲間になったのは最近のことで、ただの下っ端らしい。

 詳しいことを知らないのも当然ね。


「こいつも連れて行くしかねえか」


「そうね」


 ロープで拘束済みとはいえ異能者を放置するのもはばかられる。

 余計な荷物が増えてしまうけれど仕方がない。

 ガムテープで口をふさいだ男を連れ、捜索を再開することに。





「あとはもう屋上だけですね」


「そうだな」


 5階から8階まで捜索したものの、結局彼らの姿を見つけることはできず。

 残るは屋上だけ。

 追い詰めたと考えていいのか、それとも……。


「あいつら、下に逃げてねえだろうな」


「それはないでしょ」


 ここで逃げるなら、何のために廃墟ビルにやって来たのかってことになる。


「屋上での戦いになりそうだな」


「はい」


「やっと戦えるぜ」


 鷹郷さんと武上君と私。

 万全の3人が揃っている状況。

 人質もいない。

 何も問題はない。


 ただ、この暑さは……。


「しっかしよぉ、このくそ暑い中、迷惑な連中だぜ」


「……」


 廃墟ビルの中なのだから、冷房などあるはずもなく。

 私たち3人は全員が汗にまみれている。


 シャツが肌に張り付いて不快でしかない。

 けど、もうそれも終わり。


 決着をつける。

 屋上で幕引きよ。


「おかげで、体力を削られちまった」


「やむを得まい。それより、ふたりとも分かっているな」


「もちろん」


「はい」


 屋上では、敵がこちらを待ち伏せているに違いない。

 何らかの仕掛けがある可能性も考えられる。


 それでも、ここは突入するしかないのだから。

 十分に警戒して進むだけ。


「屋上に出る前に、こいつの足も拘束しておこう」


 鷹郷さんの指示通り、炎の異能者の足をロープで拘束。


「うっ、うっ!」


「準備完了です」


「よし。いくぞ、突入だ!」


 その声と共に屋上への扉が開かれた。

 夏の強い陽光が目に入り、僅かに目を閉じてしまう。

 けど、そんなこと構ってられない。


 まずは、炎の異能者を屋上に転がす。

 そして、屋上に足を踏み入れ散開。


 敵はどこ?


 いた!


 屋上中央の少し奥。

 屋上の端よりに位置する出入り口から離れた地点に、ふたりが立っている。

 嫌な嗤いを浮かべながら。


「遅かったなぁ。待ちくたびれたぜ」


 喋るのは氷使いのパーカー男。

 傍らには念動力使い。


 この2人以外に敵は見当たらない。

 2人だけ?

 他にもいると思っていたのに……。


「2人だけみたいだぜ」


「相手がどうあれ、油断はするなよ」


「了解」

「了解」


 でも、本当にこれだけ?

 何もないの?


 敵は2人で、異能も使ってこない。

 待ち伏せの利点がない。


 どういうこと?

 こっちにとっては、助かるけれど……。


「元々お前らが勝てるチャンスなんてほぼねえけどよ。完全に勝機を逃したなぁ」


 不敵に言い放つ武上君も、不審に思っているのは間違いないわ。

 目がそう語っているもの。


「はっ、そんなわけないだろ」


「……」


 口の端に嗤いを残したまま。

 やっぱり、何かある?


「話は後でいい。ふたりとも、プランBだ」


 鷹郷さんの言葉に、止まっていた身体が反応する。

 勝手に動く。


 もう何度も行ってきたシミュレーション。

 染み付いている動き。


 武上君が駆ける。

 鷹郷さんが続き、私も。


「……」


 そうね。

 少し疑問は残るけれど、今は相手を倒すのみ。





**************





「ここだよね?」


「ああ、このビルだ」


 里村とふたり、炎天下の中を歩き続け。

 目的地である廃墟ビルの前に到着した。


「思ってたより静かだよ」


「……そうだな」


 ビルの入り口にも周りにも、人の姿は見えない。

 戦闘音も聞こえない。

 静かなものだ。


「……」


 このビルは今秋に取り壊され新しいビルが建造される予定ということで、周りには仮柵が設置され立ち入り禁止の看板が置かれている。


 そんなビルの中に正面から堂々と入って行くのは、さすがに躊躇してしまう。

 この暑さもあって、近くに人がいないのはありがたいことだが……。


 とりあえず、ビルの周りを調べるか。


 仮柵を越え、ビルの敷地内へ足を踏み入れる。

 そのまま裏手に回り、周りに問題がないか確認。


 特に何もない、か。


「誰もいないし、問題もなさそう」


 里村の言う通り。

 人影どころか、気配すら感じない。


「……この裏口から入るぞ。俺から離れるなよ」


 裏口のドアに手をかけ施錠を確認?


「……」


 開くな。

 鍵はかかっていないようだ。


 が、これは?


 若干の違和感。

 覚えのあるこの感じは?


 古野白さんと最初に出会った公園で感じたあの違和感にそっくりだ。

 簡易の結界のようなものか?


 だとしたら、異能者ではない里村は入ることができない。

 その可能性もある。


「……」


 こういう場合は、手を繋いでいれば大丈夫だったよな。


「気をつけろよ」


 言葉とともに差し出した俺の手を取ることもなく里村が屋内に足を……踏み入れた。


「!?」


 入れるのか?


「えっ? その手は何?」


「いや……」


 入れたのなら問題はない。

 今は先を急ごう。


「じゃあ、行くぞ」


 裏口から侵入し、1階のエントランスホールへ。


 やはり、誰もいないか。


 1階に人がいないことは気配で察知していたが、相手が異能者だからな。

 何があるか分からない。

 用心するに越したことはない。


 ちなみに、俺の感知、察知の能力はテポレン山の地下大空洞での日々を経て、かなりの進歩を遂げている。


 ただ、人の気配は魔物のそれより探るのが難しいんだ。

 特に今回の相手は異能者なのだから、警戒が必要だろう。


「できるだけ静かにしてくれよ」


「うん、分かった」


 可能な限り、気配を消して進む。

 里村は気配を消すことなどできるわけもないので、静かにしてくれればいい。


「有馬君、これって」


 奥に進むと、明らかな痕跡が目に入ってきた。

 間違いない、争った痕跡だ。

 階段前には、壊れたイスやテーブルの山。


「……」


「凄いことになってる!」


「ああ」


異能者の戦いか?


「有馬くん、どうするの?」


「探索を続けよう」


「だよね」


 慎重に1階を見て回り、階段を上って2階に足を踏み入れる。

 この階にも人の気配はない。なので、軽く見て回り3階へ。

 ここにも人はいない。


「誰もいないねぇ」


「ちょっと待ってもらえるか?」


「えっ? うん」


 集中して気配を探る。

 上の階へ、上の階へ、意識を進めて……。




「いるな。上に人がいるぞ」


「有馬君、そんなこと分かるの?」


「……」


「すごい、凄いよ!」


 この廃墟ビルは8階建て。

 感知する限りでは、かなり上の階に微かな気配が感じられる。


 7階か8階か、もしくは屋上か。


「……急ごうか」


 ということで、4、5、6階を簡単に調べ7階へ。


 7階に上がったところで足を止め。

 慎重に感知を進める。


「……」


 ここにも、気配は感じられない。

 8階も同じだった。


 となると、屋上だな。


 意識を屋上に向け、感知再開。


「どう?」


「……」


 いる!

 間違いない、複数の気配が感じられる。


「屋上のようだ」


「そうなの? なら、7階と8階は調べずに進む?」


「……一応調べるか」


 念のため、確認はしておいた方がいい。


「うん」




 7、8階を素早く調べ終えた俺と里村が屋上前に到着。


「この先にいるな」


「音もするね」


 そう。

 もう気配を探るまでもない。


「最後に確認するが」


「うん?」


「里村、ここで待っている気はないか」


「ここまで来て、それはないよぉ」


「そうか……。じゃあ、行くぞ」


「うん」



 このビルの屋上に行く手段は通常の階段と非常階段の2種類があるようだが、俺たちは非常階段の方から屋上に上ることにした。


 複数の人の気配が感じられる現状。

 通常階段の方から屋上に上がると、目撃される可能性が高いからだ。


「まずは、様子を見よう。あと、何があっても大声は出すなよ。手で口を抑えとけ」


「分かったよ」


「何を見てもだぞ」


「もう、分かってるよぉ」


「よし」


 頬を膨らませて頷く里村と共に、屋上に足を踏み入れる。


「……」


「……!?」


 やっぱりな。


 そこには、予想通りの光景が広がっていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 里村君、やはり、ホラー映画とかで死んじゃうタイプの子だー!? 知り過ぎた者は消されるとまでは言いませんが、好奇心は猫を殺すに本当になっちゃいそうで行く末が心配になりますね。 悪気がないだけ…
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