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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
161/701

第160話  廃墟ビル 3


<古野白楓季視点>



「この程度で止めることができるとは思っていない」


 それなら、どうしてバリケードを?


「はあ? 何だそりゃ?」


「ふふ」


 不敵な笑みを浮かべる3人はバリケードの先、階段の上。


「ひとつ教えてやろう」


「必要ねえな」


 敵の言葉を無視して、武上君が今にもバリケードを破壊しようとしている。


「武上、ちょっと待て。喋らせてやれ」


「ちっ」


「筋肉馬鹿と違って、上司は物分かりがいいようだ」


「いいから、さっさと話せ」


「……人質だよ」


 パーカーの男が嫌な嗤いを浮かべながら、発した一言。


 人質?

 あの男、人質って言ったわよね。


「ああ、何だと?」


「人質だ。大切なお友達を人質に取ったんだよ」


 誰を?

 人質なんか、どこに?


「人質たぁ、誰のことだ?」


「誰だろうなぁ」


「はっ、人質なんていねえんだろ」


「いるさ。教えてやろうか?」


「……」


「里村だ。里村晴海を人質に取っている」


 えっ?

 里村君!


「里村だと!」


 里村君を人質に?


 そんなことあり得るの?

 意外な人物の名前を耳にして、発動しかけていた炎が消えてしまう……。


 武上君も驚きで動きが止まっている。


「里村なんて、どこにいんだよ!」


「あとで教えてやる。まっ、覚悟しとくんだな」


 その言葉を残し、3人は階段を駆け上がっていった。


「……」


「……」


 武上君も私も足を止めたまま……。


「里村君というのは?」


 鷹郷さんが私に訊いてくる。


「……大学の友人です」


「古野白君のか?」


「私と武上君のです」


「……」


「古野白の言う通りですよ、鷹郷さん」


「そうか……。人質が本当なら、厄介なことになるぞ」


「はい」


 それが事実なら、単純な戦闘では済まないだろう。

 とはいえ。


「それでも、今は追いかけるしかありません」


「ああ、その通りだ」


「じゃあ、こいつを壊すとすっか」


 武上君がバリケードを派手に破壊し始めた。


「古野白君、さっきの敵の炎は問題ないか?」


「ええ、異能で作られた炎ですから、まず延焼の恐れはありませんし。簡単に処理もしましたので」


 異能の炎は特殊だから、問題になる可能性は低い。

 そうは言っても、こんな屋内で躊躇いもなく炎を使うなんて普通じゃないわよ。


「なら、あいつらを追いかけるとしよう」


「はい!」




 階段を上り階上で捜索を開始。

 2階、3階と異能者を探してまわるが、全く姿が見えない。


「古野白、このビル何階建てなんだ?」


「8階よ。それに屋上もあるわね」


「げっ! そんなにあるのか。まだ4階なのによ」


 この廃墟ビルはそれほど広くはないけれど、それでも各階には複数の部屋が存在する。

 それら賃貸用の各個室は、今やもう雑然としたもの。


 襲撃を警戒しながら通路を進み、そんな各部屋を捜索するとなると……。

 やっぱり、それなりに時間がかかってしまう。


 武上君が嫌な顔をする気持ちも分かるわ。


「ふたりとも続けるぞ」


「はい……鷹郷さん、ちょっと待ってください」


「どうした?」


「電話です」


「大学の件か?」


「分かりませんが、おそらく」


 里村君、今日は午前から大学にいるはずだから。

 その安否を確認するためには、大学内にいる誰かに頼らなければいけない。

 ただ、今回の敵は一般人相手でも異能を使ってくる可能性がある。


 こうなると。


 頼れるのは有馬君だけ。

 その有馬君のポケベルに、さっき連絡したのだけれど……。


 この着信が彼からのものかもしれない。

 そうであってほしい。


「話してみます」


「ああ」


 でも、彼のことは鷹郷さんにも武上君にも話していない。

 なので、会話を聞かれないように鷹郷さんと武上君から少し距離をとって。



「はい! 古野白です」


「古野白さん、有馬です」


 聞こえてきたのは、待望の声だった!


「有馬くん、よかった!」


 思わず大きな声が出そうになるのを抑え、小声で話す。


「どうかしたんですか?」


 その声に、少しだけ気が緩みそうになる。

 今は緩んでいる場合じゃないのに。


「急いでいるので手短に話すわね」


 ということで、さっそく里村君の件をお願いしたところ……。


 まさかの展開。

 既に里村君を保護しているなんて!


 でも、偶然って?

 どういうことなのか、全く理解できないわ。


「……」


 あの有馬君だものね。

 不思議ではない、か。


 それにそう、ありがたいことなのだから。


 なんて考えていると。


「助けは要りますか?」


 普通人なのに異能者に手を差し伸べてくれる。

 相変わらず、お人好しね。


 いつも頼っている私が言えることじゃないけど。

 でも、今日は。


「必要ないわ。それより、里村君をお願い」


「了解しました。それで、今は駅裏の廃墟ビルにいるんですよね?」


「っ? どうしてそれを? あっ!!」


 通路の前方。

 その角から、あいつらが現れた!


 でも、2人だけ?

 もうひとりは?


 後ろ!?


 気づいた時には、炎の玉が目の前に迫って! 


「くっ!」


 反射的に通路に身を投げる。

 炎は私の髪を数本焼いて頭上を通過。


「古野白君!」


 廊下で一回転して、すぐさま体勢を整える。


「大丈夫です。こっちは任せてください」


「……頼むぞ!」


「りょーかい」


 今のは危なかった。

 あと一瞬でも遅れていたら、顔をやられていたに違いない。


 通路に落ちているのは、焼けた数本の髪と携帯電話。


「……」


 安い代償じゃない!

 だから、次はあなたの番よ。


「よく避けたなぁ」


「何てことないわ」


 若い男ね。

 私と同年代かもしれない。


「へっ、いつまで大口叩いていられるかな?」


「あなたの前では、ずっとよ!」


「ぬかせ! 炎玉!」


 炎の玉が発動。


 それ、もう何度も見ているのよ。

 対処できるに決まってるでしょ。


「炎霧!」


 まずは炎を顕現。

 その炎を目の前で霧のように広げ、敵の炎を包み込み。


「消去!」


 そのまま消し去ってやる。


「なっ!?」


 操炎の異能も使い方次第。

 単純に炎を放つばかりが能じゃないの。


「なっ!」


 驚き立ち尽くしている男に接近。


「くそっ!」


 男が右手、左手と闇雲に突き出してくる。

 遅いし力もない攻撃だ。


「あなた、異能を使うだけなのね」


「何だと!」


 突き出された男の左拳を左に避けることで躱し、左足に力を入れる。

 そのまま左足を軸に横回転。

 勢いをつけ。


 右足の後ろまわし蹴り!


「ガッ!」


 頭部に入った。

 完璧だ。


「……」


 炎の異能使いが、膝から廊下に崩れ落ちる。

 ピクリとも動かない。


「ねっ、ずっとだったでしょ」





「さすが古野白。やるなぁ」


 武上君が歩み寄って来た。

 鷹郷さんは見当たらない。


「ありがと。でも、相手がだらしなかっただけよ。で、そっちは?」


「……逃げられたな」


「また?」


「……」


 武上君だけならまだしも、鷹郷さんもいたのに。


「消えるようにいなくなったんだ。とんでもない逃げ足だぞ、あいつら」


「……それで、鷹郷さんは?」


「その先で何か調べてる」


「そうなの? こっちも、この男を尋問したいんだけど」


「じゃあ、呼んでくらぁ」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵側は中々に頭脳派と思いきや、人質がいると脅す訳でもないのでやや拍子抜けしたと思ったら、奇襲する為だったんですね。 効果的な戦術ではありましたが、古野白さんにダメージを与えていなかったのと…
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