表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
160/701

第159話  廃墟ビル 2


「ツーツーツー」


「……」


 古野白さんの声が途切れ、電子音だけが響いてくる。


 嫌な予感が当たったというか、予想通りというか。

 これはもう……。


 異世界露見的には近づいちゃいけない状況。

 距離を取るべき案件なんだろうな。


 とはいえ、ここで退き返すという選択肢は俺にはない。

 廃ビルに行くという一択のみ。


 ただし、やみくもに動くつもりもない。

 廃ビルで、古野白さんが危ないようなら手を貸す。

 問題がないなら、隠れて様子を見るだけ。


 この方針で進めるつもりだ。


 まっ、里村が敵の手に落ちていない現状では、そこまで大きな問題もないはず。

 そう思いたいものだが、電話の切れ方が気になってしまう。



「有馬くん?」


 ずっと、こちらの様子を窺っていた里村。

 気になるのも当然だな。


「何の話だったの?」


 どう考えても、廃墟ビルは安全じゃない。

 里村は連れて行かない方がいいよなぁ。


「何の電話だったの?」


「……廃ビルに来る必要はない、と」


「それ、嘘だよね」


「……」


「嘘だよね」


「……悪い」


「もう! ボクを連れて行きたくない気持ちは分かるけど、今さらだよ。何があっても驚かないからさ、一緒に行ってもいいでしょ」


「……」


「さっきは良いって言ったよね」


「まあ、な」


「じゃあ!」


 仕方ないか。


「……分かった。けど、約束は守れよ」


「もちろんだよ。ありがと、有馬くん」





**************


古野白楓季(このしろふうき)視点>




鷹郷(たかごう)さん、あいつら本当にこのビルに現れるんですか?」


「そういう情報が入っている」


「そうでしたね。でも、私たちふたりで……」


 今回は急な出動だったので、人数を集めることができなかった。

 だから、鷹郷さんとふたりで事に当たっている。


「心配か?」


「いえ……」


 そうは答えたものの。


「……」


 鷹郷さんの力は十分理解している。

 対異能における経験も能力も疑いようがない。

 それでも、敵が何人いるか分からない現状。

 あの橘もいるかもしれない状況。


 ふたりでは心許ない、そんな気がしてしまう。


「心配は無用だ。武上も呼んだからな」


「武上君が! 連絡がついたんですか?」


「ああ、さっきまでは着信に気付かなかったそうだ」


「……」


 武上君、何やってるのよ。

 何のために携帯電話が支給されていると思ってるの!


 本当にいい加減なんだから。


「すぐ来るそうだ。3人いれば安心だろ」


「それは、まあ……」


 2人と3人では大違い。

 これで少し気持ちが楽になった。


「だから古野白君、もうしばらく待機するぞ」


「はい、分かりました」


 鷹郷さんとふたり、廃墟ビルを監視できる場所に姿を隠して敵が現れるのを待つ。

 敵より先に、武上君に到着してもらわないと困るのだけれど。


「古野白君には苦労を掛けるな」


「いえ……」


 最近は私が敵の矢面に立つことが多い。

 鷹郷さんは、それを気にしてくれているのだと思う。

 でも、全ては私が望んだこと。

 後悔はない。


「鷹郷さんには、いつも助けてもらっていますから」


「……」


 私がこうしていられるのは鷹郷さんのおかげ。

 その思いに偽りはない。


 ただ、このところの騒動では……。

 鷹郷さんではなく、彼の力ばかり借りているような気がする。


 彼の助けなかったら私は今頃どうなっていたことか?

 あの結界に捕らわれて……。

 想像するだけで、気分が悪くなるわね。


 まあ、でも今は。


「集中しましょうか」


「そうだな」


 そんな少し居心地の悪い会話をしながら待つこと数分。


「よお、お待たせ」


 武上君が到着した。


「遅いわよ」


「そっかぁ? 敵さん、まだ現れてないんだろ」


「そうだけど」


「なら、問題ねえな」


 相変わらず、緊張感がない。

 もっとしっかりしてほしいのに!


「オレに任せとけ」


「……」


 これでいて実戦では頼りになるのだから、あまり文句も言えないのよ。

 ほんと、彼の身体強化は凄いから。




「静かに!」


 鷹郷さんの低く鋭い声。


「どうやら、来たみたいだ」


 鷹郷さんの言葉通り、廃墟ビルの入り口前に3人の男が現れた。

 そのうちの1人には見覚えがある。

 あの公園でやりあった、パーカーの男。

 氷を使う異能者だ。


「ほお、3人かぁ。なら、問題ねえなぁ。ですよね、鷹郷さん」


「……油断するなよ」


「もちろん」


「鷹郷さん、行きます?」


「ああ、3人がビルに入ったら、すぐに追うぞ」


「廃墟ビルの中で戦闘か。こりゃ、面白くなりそうだぜ」


「武上君、真面目にやりなさいよ」


「はあ? いつも真面目にやってんだろ」


 もう……。


「よし、行くぞ!」


「はい」

「おう」


 鷹郷さんの掛け声とともに走り出し、ビルの中に突入する。


 と!?


「避けろ!」


 入り口を入るとすぐ、氷の矢!?


 3人それぞれが左右に跳んで避ける。

 氷の矢は勢いを緩めることなく壁に激突。


 ガシャーン!


 派手な音を立てて砕け散った。


「……」


 廃墟ビルに入った途端の攻撃。

 少し驚いたものの、難なく避けて体勢を立て直す。

 すると、そこに今度は炎の玉が飛んできた!


 狙いは私?


 この速度なら問題ないわ。

 私の炎を使う必要もない。


「っ!」


 再び回避して、物陰に隠れる。


「古野白君!」


「大丈夫です」


 とりあえず、敵の初撃、氷と炎の回避には成功した。


 けれど……。


 これ、待ち伏せされていたのよね。

 こっちが入手した情報は餌だったということ?


「武上は?」


「オレも問題ないですよ」


「よし。なら、分かっているな」


「はい」


「もちろん」


 ただ、こういう事態も想定済み。

 状況に応じた対応訓練も数えきれない程行っている。

 私も武上君も身体に染みついている。

 だから。


「敵はあの3人だけだ。進め!」


 それぞれが隠れていた物陰を出て、敵に向かう。


 先頭は武上君。

 あの動きは既に身体強化済みね。


 その後ろに鷹郷さん、そして私。


 敵は2階に上がる階段の手前。

 3人が集まっている。


「食らえ!」


「アイスアロー!」


 発動が早い!


 先頭の武上君に、さっきと同じような炎の玉と氷の矢が飛来する。

 その距離は、ちょっとまずい!


「ウインド!」


 と一瞬思ったけれど、問題なし。


 鷹郷さんが発動した突風を真横から受けて進路が変わる氷の矢。

 武上君から外れて飛んで行ってしまった。


 炎もかなり弱まっている。


 こうなると。

 武上君の独壇場かな。

 近接戦で身体強化した彼に勝てる相手など、そうはいないのだから。


「おりゃ!」


 弱まった炎など気にもかけず突進して行く。

 避けきれずに少し身体に浴びているけど無視して猛進。


「だぁ!」


 そのまま、気合一閃。

 拳と共に飛び込んだ!


「危な!」

「回避だ!」


 ちょっと大振り過ぎよ。

 敵3人が階段を上って避けてしまったじゃない。


「馬鹿力は分かってるんだよ」


「これでも食らえ」


 床に落ちていた複数の廃材が、武上君に襲い掛かる。

 これは念動力?


「武上君!」


「おう!」


 右拳で廃材を破壊し、左手で受け止め、蹴りでまた廃材を粉砕。

 3つの廃材に対し、流れるような動きで対応した武上君。

 さすがね。


「っ! ……全く効かねえなぁ」


 ひとつ貰ったみたいだけど……。


「こんなもんで、オレを止められると思ってんのかよ?」


 武上君が念動力攻撃に対処した直後。


 いつの間にか、階段の下には廃棄されていた椅子やテーブルが集まり山ができている。

 バリケードのつもり?


「……」


 この僅かな時間で、瓦礫の山を作りあげた念動力は素晴らしいものがある。

 でも、それじゃあ、せいぜい数秒程度の足止めにしかならないわよ。



今話に名前が出た橘は、第75話に少しだけ登場しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] 里村君は悪い子ではないのですが、好奇心旺盛で身を亡ぼすとまでは言わないまでも痛い目に遭いそうなかな。 二時間サスペンスで『知り過ぎた君が悪いのだよ』と四十分くらいに殺されてしまうタイプとも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ