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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第155話  お仕置き



 里村に難癖をつけてきた男たちに連れられ学食を出る。

 どこで話をするつもりなんだ?


「助けてくれてありがとう」


 小声で里村が話しかけてくる。


「気にしなくていいよ」


「そういうわけには……」


「本当に気にしなくていい。そもそも、さとむ……君が悪いんじゃないから」


 近くで見ていたから間違いない。

 あの男は里村の方を確認した後、自らコーヒーに向かってぶつかってきたんだ。

 明らかに故意だろう。


「ありがと、信じてくれて嬉しい。でも、あの、キミはボクのこと知っているの? ごめん、ボク……」


「以前、知人から聞いてね。だから、君がこっちのことを知らないのも当然」


「そうなんだ。ボクは里村晴海、よろしくね」


「……俺は有馬功己、よろしく」


「うん!」


 これで里村とも知り合いになったわけだ。

 今回はかなり早まってしまったな。


 が、何の問題もないだろう。


「有馬くんって、勇気あるよね。友人でもないボクのために3人相手にあんなこと。ボクには到底できないや」


「里村君が大変な目にあっているのを無視できなかっただけ、かな」


 言うまでもなく、俺には知り合ったばかりという感覚はない。

 困っている知人を助けただけだ。


「でも、やっぱり凄いと思うよ」


 里村は背が低くて身体も細い。

 さらに見る角度によっては、女性に見えてしまう程の中性的な顔立ちをしている。

 だからというか……。


 どうにも、庇護欲を掻き立てられてしまうんだよな。

 他人と接することを避けていた前回の人生ですら、そう感じていたんだ。


 そんな里村が今、こちらを尊敬のまなざしで見つめて……。


「……」


 すると。


「おい、お前ら、ちゃんとついて来いよ」


 先頭を歩くコーヒー難癖男が、振り返って注意してくる。


「分かってる。どこまで行くんだ?」


「もうすぐだ。黙ってついて来い」


 学食内とは違い夏休み前の大学構内は人影もまばらで、俺たちのことを不審に思うような学生もいない。学食内での騒ぎを見ていた学生たちも、わざわざ俺たちの後を追って来ることはないようだ。


「里村君、俺の傍から離れないように」


「……うん、ありがと」


 おい、目を潤ますなよ。


「……」





「着いたぞ」


 3人に連れて来られたのは複数ある大学の校舎の中でも最も古い校舎の裏。

 校舎裏の壁と道路との間に設置された高い塀のおかげで作られた閉鎖空間は、他所から見られることのまずない場所と言える。


 大学内にこんな場所があるなんて知らなかったな。


 さて、ここで何をする気だ。

 暴力にでも訴えるか?


「それで?」


「ちょっと待て」


 難癖男の取り巻き2人が俺と里村の前に立ちふさがる。

 その後ろで、難癖男が電話をかけはじめた。


 こいつも携帯電話を持っているんだな。


「はい……ええ。今……そうです。それが2人いるのですが……」


「ええ……まあ、そうですね」


「はい……分かりました。これからですか?」


「……了解です。では、後ほど」


 何やら話し合った後、電話を切った難癖男が俺たちの前にやって来る。


「今からお前たちを、ある場所に連れて行く」


 うん?

 服の弁償という内容から、話が変わってきたぞ。


 これはもう、ただの難癖じゃないな。

 なら、対応を変えてもいいだろう。


「服の弁償じゃなかったのか」


「それはそれだ。もちろん、金は貰う」


「なら、どこにも行く必要はない」


「ちっ、うるせぇやつだ。黙って付いて来ればいんだよ」


「……時間の無駄だな。里村君、帰ろうか」


「えっ? う、うん」


 里村を促し、踵を返す。


「おい!」

「待て!」


 3人を無視し歩を進める。


「待てって言ってんだろ」


 すると。

 3人が俺たちの前に回り込み。

 1人が里村の腕を掴んだ。


「有馬くん?」


「放せ」


「はぁ?」


「その手を放せ」


「お前、さっきから生意気だぞ」


「あんたらが非常識で礼儀知らずだからだろ」


 手を放さないというのなら。

 里村の腕を掴んでいる男の手首を俺の右手で握って。


「なっ! やめろ!」


 ここで、やめるわけがない。

 もう少し力を入れてやろう。


「痛っ! 分かった、分かったから、放してくれ」


 そいつが里村を解放したところで、こちらも放してやる。


「つぅ……」


「おい、大丈夫か?」


「くそっ、大丈夫じゃねえ」


「こいつ! もう、やっちまおうぜ」


「……まだ時間はあるな。よし、この生意気な後輩を少し躾けてやるか」


 後輩?

 ってことは、この大学の学生なのかよ。

 信じがたいな。


「ああ」


「賛成だ」


 下卑た笑いを浮かべる3人。

 そして、難癖男が俺に向かって殴りかかってきた。


 こうなるともう、仕方ないか。

 まずは、一発殴らせてやろう。


 俺の頬に難癖男の拳が叩き込まれる。


 響き渡る鈍い音。

 いい音だ。


「有馬くん!」


「大丈夫」


 魔力で肉体強化はしていないが、今の俺にとってこの程度の拳など何てことはない。


 それより。


「顔を殴ったな」


「ああ、それがどうした」


「お前が俺たちをここに連れ出し、先に手を出したんだぞ。俺の顔を殴ったんだぞ」


「だから、それがどうしたってんだ」


 単純な男で良かった。

 ただ……。

 こいつが同じ大学の学生で先輩なのかと思うと、げんなりしてしまうな。


「確認しただけだ」


「何だ? 確認って?」


「……」


「まあいい。お前、今すぐ謝るなら少しは手加減してやるぞ」


「そうだ、土下座しろ!」


 俺の頬に拳を当てたことで安心したのか、嬉しそうに笑っている。

 こんなもの俺にとっては遊びみたいなものだが、俺の顔が鋼鉄のように硬くなっているわけでもないからな。

 この難癖男にしてみたら、自分の拳が効いたと勘違いしているんだろう。


「謝らないなら、もう一発だ!」


 再び、俺の顔面に拳が繰り出される。

 が、2発目を貰う必要はない。


「なっ!?」


 難癖男の拳を掌で正面から受け止め。

 そのまま拳を握り込むようにして力を入れてやる。


「えっ、待て、いたっ、痛い!」


 とはいえ、やり過ぎるわけにもいかないか。


「はなせ、放してくれ!」


 懇願する難癖男。

 取り巻きの2人も驚いて固まっている。


「ほら」


 要望通り、放してやるよ。


「こいつ……」

「おい?」

「大丈夫か?」


 さて、どうしたものか?

 どこまでやればいいものか?


「……」


 とりあえず、詳しい事情とさっきの電話について聞かなきゃな。


「おい、3人でかかるぞ」

「おう」

「いいぜ」


 こいつら、まだ懲りてない?


「有馬くん!」


 不安そうな里村に頷きをひとつ。


「……うん」



 さあ、これで終わりにしよう。


「今度は3人がかりで俺に暴力をふるうつもりか?」


「うるさい、いくぞ」


 その声と共に攻撃を仕掛けてきた。

 3人同時の連携攻撃だ。


 いや、これを連携攻撃といっていいものか?

 放たれる脚や拳の稚拙なことといったら……連携どころじゃないだろ。


 あっさりと3人の蹴りや拳を避け躱し、体を入れ替えて反撃。

 大怪我をしない程度に、それなりの痛みを与えてやる。


「うっ!」

「痛っ!」

「くっ!」


 蹲る3人。


「凄いよ、有馬くん」


 興奮する1人。


「何てことはない。こいつらが弱いだけ……だと思うぞ」


「そんなことない! 凄い動きだったもん。ボク、こんなの見たことないや」


「そ、そうか」


「うん、すごい、すごい!」


 称賛に満ちたキラキラした目で見つめてくる。


「……」


 いや、まあ……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、あれ? 単純に表に出ろで校舎裏に連れて行かれたのかと思ったら、電話で誰かに連絡をしているとは、不穏な雰囲気ですね。 難癖をつけて、連れて行こうとしていたのに何か、理由があったのでしょう…
[良い点] 更新お疲れ様です。 >里村は背が低くて身体も細い。  さらに見る角度によっては、女性に見えてしまう程の中性的な顔立ちをしている。 こういうのあると同じ世界線に帰ってきてるのか不安にります…
[一言] 里村って誰だっけ、、、
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