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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第154話  学食



 幸奈の手料理を満喫した翌日。


 寝る時間を削って仕上げたレポートを片手に大学へとやって来た俺は、提出前の確認をするため学食に立ち寄ったのだが……それが失敗だったようだ。


「おっ、久しぶりだな、有馬」


 こちらに近づいて来たのは。


「ああ、武上か」


「なんだぁ、残念そうな顔して。誰か他の人でも待ってたのかよ」


「俺が? 誰を?」


「……古野白とか?」


「あり得ないな」


 確かに、古野白さんとはそれなりに関わっているが、それはあくまで学外でのこと。

 大学内では、まともに会話したこともない。


「まっ、そうだよなぁ。有馬だもんな」


「……」


「待つ相手なんかいねえか」


 その通り。

 今の時点で俺が親しくしている友人は、この大学にはいない。


 前世では、4年間ほぼ誰とも親しく付き合うことはなかったんだ。

 会話する程度の知り合いも数人といったところ。

 その内の1人が、この武上だな。


「オレ以外は」


 いや、お前も待ってないぞ。


「で、何か用なのか?」


「いいや、特に用はねえな」


「そうか」


 そういうことなら。

 武上を放置して、レポートに視線を向けていると。


「何だ、何だ、相変わらずつれない奴だぜ」


「……で?」


「お前、話す気ないだろ」


「武上こそ、用事もないんだろ」


「用がなきゃ、話しかけちゃいけねえのかよ」


「見ての通り、今は忙しいんだ」


 タイミングが悪い。

 レポート提出後に来てくれ。


「ん、レポートか? って、終わってんじゃねえか」


「最終確認中だな」


「真面目か!」


「……」


「まあ、いいや。それで、あの夜はどうだった?」


 何がいいんだ。

 お前、話しかけてるだろ。


「どうだった?」


「……何が?」


古野白(このしろ)をちゃんと送って行ったのかよ?」


 あの食事会の後のことか。

 もう随分と時間が経ったような気がするが……。


 そうでもないんだな。


「ああ、送って行ったぞ」


 途中、結界に閉じ込められて大変だったけど。

 無事に家まで送り届けた。


「……そうなのか」


「何か問題でも?」


「いや……。まあ、何も無いならいいんだわ」


「……」


 こいつ、何か知っている?

 まさか、古野白さんが喋った?


 いや、それはないな。

 あの古野白さんが部外者に話すわけがない。


 だとしたら、武上は古野白さんのことが……。


 うん?

 電子音?


「おっ、ちょっと待っててくれ」


 武上の携帯?

 携帯電話なんか持ってたんだな。


「えっ! うーん……今から? ……分かりましたよ、了解」


 少し離れたところで会話していた武上。

 すぐに話を終え、こっちに戻って来た。


「わりぃ、急用ができたわ」


「全く悪くない」


「天の邪鬼だなぁ、有馬は」


「……早く行け」


「ホント、つれない奴」


「……」


「まっ、ちょっと行って来らぁ。じゃ、またな」


 なんて軽い口調ながら、急ぎ足で出ていった。






 その後、小一時間レポートの確認を行い無事に提出。

 再び、学食に戻って昼食をとることに。

 武上もいないことだし、静かに食事をとることができるな。


 トレイの上には、定番の定食メニュー。


 懐かしい学食の味。

 うん、やっぱり悪くない。


 ここの食事は学生食堂とは思えないレベルなんだよ。

 安い、美味いとくれば、学生で溢れかえるのも納得できる。


 今はまだ早い時間だから空席もあるが、あと30分もすれば満席になるはず。

 その前に、俺は退散するとしよう。


 と、俺の席から2列前の席に座っている小柄な学生がこっちを見ている。

 里村だ。


 その小柄で中性的な風貌。

 昔を思い出すなぁ。


「……」


 里村 晴海。


 前世の俺が、この大学での4年間で最も会話をした相手。

 俺が素っ気ない態度をとっても、いつも話しかけてきた。

 それはまあ、武上も同じなんだが……。


 暑苦しい武上と違って、小動物みたいで癒し系だったんだ。


「……」


 話しかけたい衝動に駆られるが、知り合うのはまだ先のこと。

 今話しかける理由はない。


 というか、なぜ里村はこっちを見ていたんだ?

 俺のことなんて知らないはずなのに。


「……」


 もう視線は向かってこない。

 偶然、か。

 そうだよな、偶然だよな。





 食べ終えた定食の皿を返却口に戻そうと、ゆっくりと立ち上がる。

 その俺の目の前で。


「おい、お前、これ、どうしてくれんだぁ!」


 怒声が上がった。

 声を上げた男を含め、3人の男に絡まれているのは里村だ。


「ご、ごめんなさい」


「謝って済むわけねえだろ。弁償してもらわなきゃな」


「は、はい。弁償します」


「おお、そうか。でも、このシャツ高いんだぜ」


「いくらですか?」


「10万だ」


「そ、そんな……」


「払えないのかよ?」


「……10万なんて大金。今は持ってないです」


「それなら、ちょっと付き合ってもらうしかないな」


「えっ、そんな!」


 里村のコーヒーが男のシャツにかかり、シャツが汚れてしまった。

 それは確かな事実。

 だが、俺は見ていたぞ。

 里村に責任はない。


「ほら、立てよ。行くぞ」


 周りの学生は見て見ぬふり。

 運が悪いことに、里村もひとりで食事をしていたようだ。


「……」


 仕方ない。

 まだ知り合ってもいないが、これは放置できないな。


 里村のもとに歩み寄り。


「ちょっと待ってください」


「あぁ、何だ、お前?」


「目撃していた者ですよ」


「はぁ、関係ないやつは引っ込んでろ」


「そうだぜ、黙ってろ!」


 質が悪いな。

 本当にここの学生か。


「黙ってられませんね。明らかにあなた達の言いがかりですから」


「何言ってんだ、お前」


「これを見てみろ! 汚されてるだろうが」


「おい、調子に乗ってんなよ」


 ホント、質が悪い。

 こいつら、ここの学生じゃないかもしれないな。

 というか、大学生ですらないかもな。


「あの、誰か知りませんが、ごめんなさい。ボクのせいなので、だから……」


 この状況でも、里村は俺に気を遣っている。


「……」


 変わらないな。

 って、当然か。


「大丈夫。君の責任じゃない。ここは任せて」


「何が大丈夫だ。生意気なやつだぜ」


「俺たちを舐めてんのか」


「いい度胸だぜ」


 この展開。

 里村が横にいるのに、笑ってしまいそうになるぞ。


 だって、こんなお約束イベントが日本の大学で行われるなんてさ。

 笑えるだろ。

 あっちの世界でも、滅多にあることじゃないのに。


 以前オルドウの知人に聞いた話だが、どうも冒険者連中は俺には下手に絡む気になれないらしい。

 手を出せる雰囲気ではないようなんだ。


 といっても、俺の身体つきなんて180センチほどの身長と少しばかり鍛えた身体だけ。

 しかも、服を着てしまうとそんなに目立たない程度。


 まあ、雰囲気と言われれば何も言えないが……。


 ああ、ゾルダーは別だ。

 あいつは酔っ払っていたからな。


 それは、ともかく。

 こいつらが実力者だとは、到底思えない。

 なら、何も感じとれないただの子供だ。


「ちょっと顔貸せよ」


「外でけりつけんぞ」


「……」


 里村のためでもある。

 軽く付き合ってやろう。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 武上の『何も無いならいい』という言葉がすごく気になりますね。 どういう意味なのかと深く読みたくなってきます。 これは続きが楽しみになる伏線なのかな、と。 前世の大学生活で仲良くしていた子…
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