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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
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第152話  帰宅



 シア、アルと再会を果たしたセレス様。

 無事にあの1刻(2時間)を乗り切ることもできた。


 俺としては、これで十分。

 今はもう望むこともない。

 あとはオルドウに戻るだけだ。


 しかし、ここまで長かったなぁ。

 それに濃密だった。


 けど、まあ、頑張った甲斐はあったよ。

 セレス様や皆の笑顔を見ていると、心からそう思える。


 ホント、みんないい笑顔だ


 ……。


 ということで。

 長かった今回の救出行もようやく終了。


 さあ、帰ろうか。






「おい、本当に俺たちだけで行くのか?」


「ああ、頼む。ギルドにも、よろしく伝えておいてくれ」


「ダブルヘッドの素材だぞ」


「全てヴァーンに任せるわ」


「……まあ、コーキがそう言うなら」


 今回の件については、冒険者ギルドでダブルヘッド討伐に関する報告と素材の提出をする必要があるらしい。


 本来、狩った魔物の素材を提出する義務など冒険者にはないのだが、今回は特別とのことだ。

 もちろん、素材の所有権は冒険者にある。

 なので、今回の素材提出は貴重な魔物素材の確認が目的ということらしい。


 報告と提出は明日の朝でも良いとのことなのだが、早く素材を自分のものにしたいと主張されたので、それなら任せると。そういう話になったわけだ。


 まあ、正直なところ、今の俺にはあまり興味がない。

 アイテム収納ボックスの中には、2度目の魔落で手に入れたダブルヘッドなどの素材が入っているのだから。


「じゃあ、俺は帰るわ。さすがに今回は疲れたからな」


 今は冒険者ギルドで面倒な手続きをするより、早く帰って休みたい。


「んっ? コーキでも疲れんのか?」


「当たり前だ。俺を何だと思ってんだ、ギリオン」


「バケモンだろ」


「何だそれ……」


 即答かよ。

 もう疲れてるから、何でもいいけど。


「おいおい、お前はそのバケモンに剣で勝つつもりなんだよな」


 だからさ、ヴァーンも煽るなよ。


「ったりめえだ! すぐに勝ってやらぁ」


「ははん、そいつぁ楽しみだぜ」


「おう、待っとけ!」


「ったく、また始めてるぜ。お前ら、ホント仲いいな」


「そこのバカふたり、いい加減にしなさい。ほら、さっさとギルドに行くわよ。ギルマスに話もしなきゃいけないんだから」


「サージさん、ブリギッテさん、そこのふたり任せますね」


「ああ、任せてくれ」

「ええ」


「お願いします。では、セレス様、シア、アルも行こうか」


「分かりました、コーキさん」

「はい、先生」

「おう」


 ということで、オルドウに到着した俺は事後処理をヴァーンたちに任せ、帰途につくことに。

 セレス様とシア、アルも今日はこのまま拠点に帰ることになった。



 セレス様のことは気になるが、今のオルドウで問題が起こる可能性は低いはず。

 しばらくは、シアとアルに任せておいても良いかな。


 それでも……。


 セレス様の命を狙った者が何者なのか?

 今後何かを仕掛けてくるのか?


 おそらくはレザンジュ王家によるものだと思うが、まだ何も確かなことは分かっていないんだ。


 そんな現状では、当然警戒を続ける必要がある。


 とはいえ、今回セレス様の命を狙った者も、こうしてセレス様が無事にオルドウに到着しているとは思ってもいないだろう。


 オルドウで目立たぬように暮らしていれば、セレス様の無事を知られることもそうはないはず。


 当分は、穏やかに暮らしてもらえるはずだ。


 もちろん、セレス様がオルドウに潜伏していることは外に漏れないようにしなければいけない。そこはシアとアルもよく理解している。今後の対策もしっかり立てている。


 ああ、サージさんとブリギッテさんには、セレス様の身元は知らせていない。

 その上で、セレス様の存在を秘密にしてもらうという約束をしている。

 ギルドにも伝えないようにお願いしている。


 ふたりのことを信用してもいいのか?

 ヴァーンとギリオンが大丈夫だと断言していたので、これはもう信用するしかない、といったところだ。


 あとはそう、念のためノワールをセレス様に預けることにした。

 ノワールの能力は並じゃない。

 トトメリウス様のおかげで、知能も戦闘力も一級品だ。

 戦闘において、そうそう後れを取ることはないだろう。

 セレス様の護衛にうってつけだな。


 ちなみに、レザンジュからの刺客の心配はないのかと3人に聞いたところ。

 ワディン領での争乱が収まるまでは、レザンジュ王軍もわざわざセレス様を探し、さらに刺客を送ってくる余裕はないだろうとのこと。


 それなら安心なのだけど。

 警戒は怠らないように、一応注意だけはしておいた。


 と、現状ではこんな感じ。

 万全とは言えないものの、まず大丈夫なのではないかな。





******************





 ああ、久々の日本だ。

 やっぱり落ち着くなぁ。


 という程、ここで暮らしているわけじゃないんだけど……。


 オルドウから異世界間移動で戻って来たその場所は、1人暮らしを始めたばかりのワンルームマンション。


 まだまだ慣れていない俺の部屋だ。


 ……。


 まあ、悪くないな。


 で、今は何日だったか?


 日付を確認すると……。


 そうかぁ。

 そうだった。


 体感としては、というか実体験的に30日以上経過しているのだが、こちらの世界では大して時間は経過していないんだよなぁ。


 ……。


 机の上には、オルドウに行く前に放置したままのレポートの資料が置かれている。

 このレポート提出の期限にも間に合うのか。


 正直言って、疲れている今の状態でレポートを作成したいとは思わない。

 そもそも今の俺にとって、大学を卒業することに意味があるのか……。


 けど、まあ……。


 こちらの世界でも、それなりに頑張ると決めたからな。

 可能な限り頑張りましょうかね。

 急いで仕上げて、提出することにしよう。


 と、机に向かおうと思ったところ。


 ピンポーン!


 玄関のチャイム。

 誰だ?


 ここを知っているのは……。


「功己、来ちゃった」


 ああ、幸奈か。


「久しぶりだな」


「ん? 一緒にイタリアン食べたばかりじゃない」


 そうだった。

 さっき日付を確認したところなのに……。


 でもさ、俺にとっては30日以上前なんだよ。


「まあ、そうだけど……で、今日はどうした?」


「ちょっと近くまで来たからさ。功己の部屋を見ようかと思って」


「そういうことか。じゃあ、あがってくれ」


「いいの?」


「もちろん」


「それじゃあ、遠慮なく。お邪魔しまーす」


 幸奈を部屋まで案内する。

 といっても、一部屋しかないんだが。


「思ったより綺麗にしてるね」


「そうかぁ」


「うん、うん。綺麗だよ。でも、あまり物がないんだね」


「実家に置いてきたからな。ミニマリストじゃないぞ」


「えっ、ミニマって何?」


 そうだった。

 この時代に、そんな言葉ないよな。


「最小限の物で生活する人、かな」


「そんな言葉あるの?」


「いや、まあ……俺が作った?」


「何それ。でも、功己って、たまに変わった言葉話すよね」


 それは、未来で使われる単語なんだよ。

 俺がうっかり口に出してしまった……。


「……それより、最近どうだ?」


「えっ?」


「武志のこと」


「ああ、うん……」


 顔が曇ってしまった。


「……」


「あまり変わりはない、かな」


「そうなのか……」


 俺のせいで微妙な空気になってしまったな。

 いきなり話す話題じゃなかったか。


「でも、気にしてくれてありがとね」


「ああ、武志のことは俺も気になるからな。最近会ってないとはいえ、子供の頃はよく遊んだ仲だし」


「そうだったね。あの頃は功己と武志も仲が良かったもんね」


「俺は今でも仲が悪いつもりはないぞ」


「ふふ、そうだね」


 微笑みを浮かべているのに。

 儚さが消えない。


「……だから、何かあったらいつでも言ってくれよ」


「うん、分かった。また相談するね」






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― 新着の感想 ―
[良い点] ひとまず、姫の安全は確保されて、護衛にノワールもついたから、安心ですね。 何者が呪いに類するものをかけたのか、謎は深まりますが今のところ、探りようがありませんよね。 見えない敵というのがい…
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