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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
147/701

第146話  残された道


 ……。


 ……。


 また。


 また、セレスを……。


 ……。


 ……。


 時間を巻き戻すことはもうできない。

 二度と戻れない。


 失ってしまった。

 今度は本当に!


「うぅ!」


 俺は、俺は!


 ……。


 ……。


 ……軽い。


 両手の中が、あまりにも。

 軽い。

 軽すぎる。


 こんなにも重いのに!!


 ……。


 ……。


 麓はすぐそこだった。


 もっと速く走っていれば。

 もっと早く崖を上っていれば。

 会話などせず急いでいれば。

 時間遡行を急いでいれば。


 俺は何を!


 ……。


 ……。


「ああぁ」


 この瞳はもう……。


 俺を映さない。

 何も映さない。


 ……。


 ……。


 ……。


 動くことができない。

 セレスを抱えたまま、身動ぎもできない。


「セレス……」


「ごめんな」


「助けてやれなくて、ごめんな」


「二度も、辛い思いさせて、ごめん」


「……」


 あの苦しみを俺は知っている。

 自分が消えていく時の苦しさ。

 信じがたいほどに暗く、寒く、寂しい。


 あんなものを二度もセレスに。


「ああ……」


 二度も苦しませるくらいなら、戻らなければ良かった。

 会わなければ良かった。

 ギフトなんて使わなければ。


「セレス……」


 時間遡行というギフトのせいで。

 こんなことに。


 それなのに、今はもう使えない。


「っ!」


 何のための時間遡行だ!

 何のためのギフトだ!


 こんなギフト!

 こんなもの!


「くそっ! ステータス!」


 ステータスウインドウの中に光る文字。

 名前も、レベルも、各種ステータスも何も変わっていない。


 ただ、ギフト欄の時間遡行だけが……。


「えっ?」


「何で?」


「……」


「……」


 はは……。


「ははは」


 何だよ。

 そうだったのか。

 そうだったのかよ!



<ギフト>

異世界間移動  基礎魔法  鑑定改  多言語理解 アイテム収納


時間遡行(1刻)1



 手に入っていた。

 時間遡行を俺は。


「はは」


 ギリギリ間に合っていたんだ。

 クエストを達成し、報酬を手に入れていたんだ!


 一瞬にして、力が抜け。

 地面に膝をついてしまう。

 セレスを落としそうになる。


 そんな状態に反して、戻って来る。

 気力が俺の中に!


「……」


 おかしな話だよ。

 腕の中のセレスは、こんなに軽いのに。


 それなのに、クエストは完了だって。

 救出成功だって。


 何だよ、それ。


 馬鹿げた話だ。

 ふざけたクエストだ。


 でも、俺はそれを狙っていたんだ。

 ありがたい話なんだ!


「セレス……」


 今回もごめんな。


 でも、もう一度いいかな?

 挑戦していいかな?


 絶対に助けるから!


「……」


 だから、今はここでゆっくり休んでくれ。




「セレス……」


 今すぐにでも時間遡行したいところだが。

 闇雲に救出に向かっても、結果は同じだろう。

 今こそ冷静に客観的に事実を見極める必要がある。


 ただし、時間はあまりない。

 冷静に素早くだ。


「……」


 なぜ2回ともに同じ結果になってしまったのか?

 この2回のことを考察してみると……。


 俺がテポレン山を進み、あの崖上に到着。

 そこでグレーウルフを倒し、崖下にセレス様を発見。

 崖下に下りる。


 ここまでは同じだ。

 そして、ここから。


1回目 崖下→魔落→転送→麓  20日以上、現世では約2時間

2回目 崖下→下山 → →麓  約2時間



 重要な点は、今回と前回はともに同じ症状が生じ同じ結果になったということ。

 今回は崖下から直接下山した。

 前回は崖下から魔落(神域)へ行き、そこで20日以上を過ごしたのち麓に転送された。


 これだけの時間差があるのに同じ結果。


「……」


 考えられるのは、トトメリウス様の言葉だろう。

 魔落では現世の時間は経過していない。

 これだ。


 魔落では、俺たちの身体も時間の経過とともに変化していた。

 眠くなる、腹も空く、それに、怪我だって悪化した。

 だから現世時間が停止した神域、時間の概念のない神域でも、自身の肉体的時間は普通に経過していると思っていた。


 当然、1回目のセレス様の結果の原因は、それ以前の時間を過ごしていた魔落(神域)の中にあると思っていた。


 けど、違っていたのかもしれない。


 つまり、神域における肉体はそこでの時こそ刻むけれど、それ以前に現世で受けた影響は神域では停止してしまう。そういうことじゃないだろうか。


 神域の外で何らかの損傷を受けていたセレス様の身体。

 神域内では、その損傷の進行が止まっていた。

 そして神域から現世に戻った途端、損傷が進み始めたと。


 これが1回目の真実じゃないのか。


 1回目も2回目も、現世での経過時間は同じ。

 損傷の進行時間も同じになる。


 辻褄が合う。

 あくまでも想像、仮説でしかないが、悪くはない。

 ひとまずは、そう仮定しておこう。


 では、次。

 セレス様が、どうしてこんなことになってしまったのか?

 その原因は何なのか?


 これまでは魔落の空気や食べ物が原因だと推測していたが、これは全くの見当違いだったようだ。

 となると、今すぐ俺が考えつく原因は3つ。



1、崖からの落下で、頭、内臓などに損傷を受けていた。


2、魔物によって身体の内部に損傷を負わされていた。


3、俺と出会う前に、1と2以外の何らかの原因で損傷を負っていた。


 こんなところだ。


 1、2、3のいずれにしても、治癒魔法、回復薬では根本的な解決にはつながらない。

 それはもう分かっている。

 そうすると、損傷の原因を消すしかない。


 1の損傷については……。


 頭や内臓に損傷を受けて、あのような症状と結果になるのか?

 分からない。

 分からないが、可能性はある。


 2についても可能性という点では否定できない。

 けれど、セレス様の話ではグレーウルフに襲われたものの、傷は負っていないとのことだった。可能性は低いということか。


 3についても、セレス様の話によると特に問題があったようには思えない。

 もちろん、可能性を完全に否定はできないが。


「……」


 こうなると、可能性としては1なのか?


 けれど……。


 どうも、何かが違うような。

 そんな気がする。

 何というか、何か引っかかるような……。


「……」


 まあ、俺の勘なんかあてにならないか。



 1や2が原因だった場合、俺が時間遡行で早く戻れば解決可能だ。

 セレス様がグレーウルフに襲われる前、崖下に落下する前に戻って助ければいい。


 問題は襲撃前、落下前に戻れるか。

 時間遡行は1刻(2時間)。

 崖上のセレス様を助けるためには、10分から20分程度早く戻る必要がある。

 時間遡行を使用する前に10分から20分の短縮。


 今回は難しいのか?

 今はもう崖下から2時間近く経過しているはず。

 いや、セレス様を失ってからの時間経過を考えると。


「……」


 前回は自失状態が長かった、と思う。

 そこからセレス様を埋葬して、遡行した。

 その間にかかった時間は?


 だめだ、分からない。

 それでも、10分、20分以上かかった可能性も。

 対して今回は……。


 ギリギリだろうな。

 上手くいけば、崖上のセレス様を助けることも可能かもしれない。


 なら、次の挑戦では。


「……」


 次の挑戦で、セレス様が崖下に落ちる前に助けることができればそれでよし。

 前回同様に崖下から開始されたら……。


 その時は2回目同様、セレス様を連れて麓へ向かう。

 それで救命に成功すればいいし、失敗しても時間を稼げれば。

 4回目にかけることだってできる。


 4回目に……。


「……」


 俺は3回目のセレス様を見殺しにするのか。

 4回目のために3回目を犠牲に。

 またセレス様を。


「……」


 だめだ。

 そんなことできない。


 セレス様の命は、そんな計算ずくで行動するようなものじゃないんだ。

 そんな計算で!


「……」


 けど……。


 他に手段がないのなら。

 それしか残された方法がないのなら。


 その時は……仕方がないのかもしれない。


「……」


 ただ今回は。

 今はそんなことをする前に、まだ試してみたいことがある。


 それは魔落。

 魔落に行くんだ。


 魔落での20日以上の日々では、セレス様は無事だった。

 損傷の進行は止まっていたんだ。


 だから、魔落に行けば時間がたっぷりある。

 色々な治療を試すことができる。

 他の手段を考える時間もある。


 それに……。


 トトメリウス様の知恵を借りることも可能かもしれない。


 ……。


 やはり、次は魔落だ。

 いや、待てよ。


「……」


 魔落経由でも時間短縮はできるよな。

 なら、迷う必要はない。


 よし、方針は決まった。


「……時間遡行!」








「コーキ様?」


 ここは……?


「コーキ様? どうしたのですか?」


 目の前にはセレス様。

 その姿に安堵してしまう。

 心が緩んでしまう。


 2度目の時間遡行だから、十分理解していたはずなのに……。


 それでも……。


「大丈夫ですか?」


 ああ、安心している場合じゃないよな。


「……すみません。大丈夫です。それで」


 今はどういう状況、どの時間だ?

 場所はあの崖下。

 セレス様は……。


 少し緊張も解けている様子。


 ということは……。


「どこまで話しましたか?」


「……お互いこれまでの状況を話して、今後どうするかという話ですが」


 あそこか。


 っ!

 時間短縮どころか、超過しているじゃないか。


「本当に大丈夫ですか?」


 怪訝そうに、こちらを見ている。


「……ええ、問題ありません。それで、これからですが。この崖下を探索してテポレン山を下る道を探そうかと思います」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実の2時間で亡くなる運命であったというところに、コウキがどう立ち向かっていくか、なのですね。直接、何かと戦うというのとはまた違った面白みがあって、とても面白いです。ファンタジーの中での医…
[良い点] なるほど、そういうことでしたか。 コーキさんの推理力が凄いの一言に尽きます。 肉体の時間が停止しているから、姫に起きていた何らかの異常も停滞していたということなんですね。 原因が本当、分か…
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