表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第4章  異能編
144/701

第143話  その瞳に映るのは……



 膝に残る確かな温もり。

 現実を拒否するその温もりが徐々に消えていく。


 否応なく受け入れざるを得ない冷たさが、ただ重い。

 重くのしかかってくる。


「……」


 存在が許されない温もり。

 存在に、耐えられない!


「……」


 身動(みじろ)ぎもできない身体に、日暮れ前の不遜な風が吹きつける。

 無遠慮に頬を撫でてくる。

 重く生暖かいそれ。


 不快でしかたがない。


「あぁ……」


 頬。

 まだ乾ききっていない頬。


 セレスが触れてくれた頬。

 儚く優しい指の温もりが残ったまま……。


 触れられたくない。

 何ものにも!


 ……。


 ……。


 ……。







 どれくらいの時間、こうしていただろう。


「……はは」


 相変わらず、馬鹿なやつだ。

 本当に愚かだよ。


 時間は限られているのに。

 まだ、できることがあるのに。


 悩んでいる場合じゃないだろ。


 そう、俺には力がある。

 手段があるのだから。


「……ごめんな」


 だから、今はやることをやるだけ。

 動くだけだ!


「セレス、ここで休んでいてくれよ」


 ゆっくりと地面にセレスを横たえる。


「次は必ず助けてやるから」


 温もりが消えてしまったセレスの頬を、髪を優しく撫でる。


「少しだけ、さよならだ」


 土魔法を使い丁寧に。

 ゆっくりと埋葬を。


 目を背けることなく。

 その姿を目に、胸に焼き付けて。


「……」


「クゥーン」


 音が戻って来た。


「クゥーン」


「ああ、そうだな。ノワール、お前もいたな」


「クゥン」


「お前も悲しいのか」


 ノワールの頭も撫でる手が温かい。


「そうか、お前も……」


「クゥーン」


「でもな、俺はもう行くから」


「クゥン」


「悪いな」


「クゥーン」


「……じゃあな」


 最後にもう一度撫でてやる。

 そして。


「時間遡行!」


 はっきりと、しっかりと口に!


 転瞬。

 リセットによく似た感覚が俺を包み込む。


 僅かばかりの空白。

 刹那の遡行時間。


 気になることは、ただひとつ。

 どの時点に戻れるかだ。

 神域か?


 それとも……。


 ……。


 ……。




 ここは!?

 目に入ってきたのは切り立った岩壁。

 見覚えのあるあの岩壁。


 岩壁を目にして俺が立っている。


 ということは。

 傍らには……。


「!?」


 セレス?

 

 セレスだ!

 セレスが、そこにいる!

 そこに、横たわっているんだ!!


「あぁ……」


 また会えた。

 会うことができた!


 よかった。

 本当に……。


「……」


 安堵と切なさと、不安と喜びと。

 制御できない感情に流されるまま、ただ、ただ、セレスだけを見つめてしまう。


「……」



 時間遡行を使えば、また会えるとは思っていた。

 それでも、こうして実際に目にすると。


 やっぱり……。


 けど、まだだ!


 これで大丈夫だと思いたいが。

 まだ、安心してはいけない。


 だから、今は。

 まず状況の確認から。


「……」


 ここは、あの崖下。

 ということは、今置かれている状況は?


 シアからの依頼でテポレン山を上り、崖上で魔物を始末し、セレスを助けるために崖下に下りた、その直後だな。


 神域ではなく崖下に遡行したということは、トトメリウス様の言う通り地下の神域での時間は現世の理の外にあると、そういうことなのだろう。


 しかし、これは悪くない時点だぞ。


「……」


 セレス……。


 ただ静かに横になっている。


 大丈夫だよな。

 生きているよな。


「……」


 前回と同じ状況だと頭では理解しているが、ぬぐい切れない不安が胃を締め付けてくる。


 セレスに近づき、恐る恐る手を伸ばし。

 脈と呼吸を確認。


 ……。


 ……。


 脈も呼吸も問題ない!

 あの時と同じだ。

 ちゃんと生きてくれている。


「よかったぁ」


 安堵で胸がいっぱいになり、その場に座り込んでしまう。


「……」


 冷静に考えれば、当然のこと。

 時間遡行で1刻(2時間)戻っているのだから、セレスが生きているのは当然なんだ。


 当然なのに……。


 やはり、まだ正常じゃないな。

 少し落ち着かないと、また失敗しそうだ。


「ふぅぅ」


 軽く深呼吸を繰り返し。


 よし!


 さあ、ここからは。

 どうやってセレスを、セレス様を救出するか。

 それが問題になる。


 その前に……。


 そもそも、前回の彼女はどうしてあんなことになったんだ?

 あまりにも突然だった。

 地下でも神域でも、身体に大きな問題などあるようには見えなかったのに。


「……」


 けれど、実際に起こってしまった。

 事実は事実だ。


 あの症状は、内臓をやられたような感じだったが……。


 全く原因に覚えがない。

 前日も前々日も特に何かがあったわけじゃないのだから。


 なら……。


 魔落自体が彼女にとっては毒だったのか?

 あの空気が身体に障った?

 もしくは、魔物肉が問題?


 20日以上もあそこで暮らしたことが原因だと?


「……」


 けど、俺はこうして問題なく生きている。

 同じ空気を吸い、同じものを口にしていたのに。


 彼女の身体にだけ合わなかった?

 その可能性もある、か。


 異世界人である俺とセレス様では、受ける影響が違うということはあり得る話だ。

 やはりこれは、魔落にいた間に何かがセレス様の身に起こったと。

 そう考えるのが妥当だろうな。


 なら、今回はこのまま魔落に落ちることなく下山すれば問題はないはず。

 そういうことになる。


 難しいことじゃない。

 まずは、その方針で進めるとしよう。


「……」


 セレス様……。

 そろそろ、起こしますよ。


 いや、その前にステータス確認を。


「ステータス」




  有馬 功己 (アリマ コウキ)


レベル 5


20歳 男 人間


HP  165

MP  218

STR 262

AGI 182

INT 301


<ギフト>

異世界間移動  基礎魔法  鑑定改  多言語理解 アイテム収納



<アイテム>



1、765メルク


<クエスト>

1、人助け 済

2、人助け 済

3、魔物討伐 済

4、少数民族救済 済

5、貴族令嬢救出 未



<露見>


地球    2(点滅)/3

エストラル 0/3


時の神の加護、トトメリウス神の加護




 これは?


 予想外というか予想通りというか。

 リセットで戻った時と同じようなステータスだぞ。


 所持金は半減し、アイテムは消えてしまった。

 けど、レベルは5のまま。

 ギフトも加護も最前と同じ。


 エストラルの露見が消え、クエスト5が未達成になっている。

 セーブ&リセットが消えているのも仕方ないことだろう。


 それでも、俺にとっては悪い状態じゃない。

 いや、充分にありがたい状況だ。


 どうしてこうなっているのかという疑問は残るものの、それを考えても答えなんか見つけられない。

 今は、これを事実として受け入れるのみ。


 ならば、よし!



「セレスティーヌ様、セレスティーヌ様」


 数度肩を揺らし、目覚めを促す。

 すると。


「うぅ」


 小さな吐息が口から洩れ。

 そして……。


 ゆっくりと瞼が開き、俺の姿を彼女の瞳が捉える。

 セレス様が瞬きを繰り返している。

 確かに感じる、彼女の息遣い。


「……」


 その瞳には、俺が映っている。


「……」


 ああぁ。

 セレス様。


 抑えきれない。

 込み上げてくる。

 溢れてくる。


 想いだけがただ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] 強力な機能を速攻で使うこととなったのですね。でも人命には変えられませんから、致し方がないです。なんでこんなことになったのか、とても謎なので興味がひかれます。続きもとても楽しみにしています。…
[良い点] まだ、時間遡行という最後の手段が残っていましたか。 ジョーカーですよね、これは。 一か八かの賭けに近い気もします。 任意のポイントに戻れたセーブ&リセットと違い、どこに戻るのかが分からない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ