表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
138/701

第137話  智と時と魔法を司るもの 3 ※



 しかし、こいつ……。


 この空間に突然現れたダブルヘッド。

 俺を視認した途端、俺の前で仰向けに横たわってしまった。

 その上、腹まで見せている。


 それは服従するという意志なのか?


 これはやはり、あのダブルヘッドなんだろうな。


 ……。


 すっかり忘れていたが、こいつを追うことも俺の目的だったんだよなぁ。


「それで、私はどうすればよろしいのでしょうか?」


 こいつが俺の知っているダブルヘッドだとしても、トトメリウス様が俺に何を望んでいるのかは分からない。


『其方に服従したいと言っておるのじゃ』


 やっぱり、そうなのか。


 でもさ、俺が殺しかけたんだよな、こいつ。

 それに、俺から逃げただろ。


 なぜ、今になって服従したいと思うんだ。

 どうしてそうなった?


「この個体は私が殺しかけたダブルヘッドですよね?」


『そうじゃの』


「それなのに、私に服従したいと?」


『そういうことじゃ』


「このダブルヘッドは一度私から逃げたのですよ。それなのに、どうしてなのでしょう?」


『此奴、強きものに従いたいと言っておる』


 それなら、なぜ逃げたんだ。


「……」


 まあ、あの時あの場にとどまっていたら、間違いなく命はなかっただろうが。


『とにかく、其方に従いたいという強い意志を持っておるわ』


「そうですか……」


 こうなると、トトメリウス様からの話だからなぁ。


「ちなみに、このダブルヘッドはトトメリウス様の眷属なのですか?」


『いいや、ただ吾の領域に棲むだけのものじゃな』


 領域に棲むものを保護しているのか。


 うん?

 ということは。


「私が地下大空洞で倒した魔物たちも、トトメリウス様の保護下にあるのでしょうか?」


 沢山始末してしまったんだけど……。


『保護しておる訳ではないのう』


「ですが」


『ふむ、其方が気にすることではない。人と魔物の生殺は世の常じゃ。そもそも、人も魔物も吾と特別な関係にはない。人は人らしく、魔物は魔物らしく生きれば良いだけじゃ。小さきものの縁など吾が関知することではないからの』


 よかった。

 大空洞内で魔物を殺した責任をとれ、なんて言われたら大変なことになるところだ。


「では、このダブルヘッドだけをなぜ?」


 特別視するのか?


『其方が吾の前に現れたからじゃ』


 それだけ?


『此奴の服従したいという強い思いもひとつの理由じゃな』


「……」


『それに、なかなか可愛いかろう』


「……」


『其方、こやつの主になってはどうじゃ』


 本当に?

 俺がこのダブルヘッドを飼うと?


 信じられないことだが……。

 神様が言うのだから、そういうことだよな。


 しかし、困った。

 服従するといっても、こんな目立つ魔物をどうしたらいいのか。


 それに、このダブルヘッドはシアやアルたちを襲っている。

 それはなぁ……。


 かといって、神様の提案を断るのも難しいし。


 とはいえ、やはり……。


「このような大きな魔物を連れ歩く訳にも行きません、他の者に害を及ぼすかもしれませんので……」


 俺の手には余るんですよ。


『問題はそれだけか』


「……はい」


 何だか嫌な予感がする。


『なら問題はない。ほれ』


 そう言って、右手から眩いばかりの光が放射され、光が収まったあとには。


「……」


 目の前には、小型犬並みの大きさのダブルヘッドがいた。

 相変らずこちらに腹を向けて尻尾を振っている。


 挿絵(By みてみん)


「クーン」


「か、可愛い」


 セレス様まで。


 いや、まあね。

 こうなってしまうと、見た目には可愛いのだけれど。


『これで完全に別物じゃ。外見も問題なかろう』


「まあ……」


 外見どころか、中身も今までとはもう別物だということか。

 それなら、まあ……。


『其方との間に主従の契りも結んでおいたからの。其方の意に反することはできぬし、言いつけも必ず守る。ほれ、何か命じてみよ』


 何か命じろって、何を?

 口に出せばいいのか?


「……立ちなさい」


 ダブルヘッドに向けてそう言うと、尻尾を振りながら嬉しそうに立ち上がった。


「……」


『口に出す必要はないぞ』


「分かりました」


 今度は心の中でダブルヘッドに向かって、お座りと念じる。


 いや、まてよ。


 この世界の魔物にお座りが通じるのか?

 なんていう疑問が浮かぶ間もないほどの素早い動作で、ダブルヘッドがお座りをしていた。


「……」


 もう、言葉もないな。


『問題無かろう』


「ですが、私が不在の間は」


『他の者に命令権を預ければ良いだけじゃ。そうじゃな、その娘で試してみると良い』


 命令権を譲るって、口で言えばいいのか。


「セレスに命令権を譲る」


 ダブルヘッドに向かってそう伝えると、ダブルヘッドが頷いた。


「セレス、何か命じてみて」


「分かったわ」


 ワクワクしたような顔でダブルヘッドに対するセレス様。


「お腹を出して私に撫でられなさい」


 なんだ、その命令は。


「クゥン、クーン」


 と思ったけれど。

 ダブルヘッドはセレス様の前で躊躇なく仰向けになり、されるがまま。


「なんて可愛いの! コーキさん、この仔を預かりましょう」


「……」


 セレス様、ほだされるのが早過ぎるぞ。

 さっき登場した時は、怯えていたじゃないか。


『そやつには吾から力を与えておいたので、そこらの魔物に劣ることもなかろう。さらに吾の領域と其方のもとを自由に転移する力も授けておいた。不要な時は、こちらに戻せば良いじゃろう』


 そんなことも簡単にできるのか。

 さすが神様だ。


 というか、トトメリウス様、このダブルヘッドに肩入れしすぎでしょ。

 もちろん、口には出せないけれど。


『これで問題無いようじゃの』


「……はい」


 まあ、神様にここまでされたら断れないよな。

 セレスさんも乗り気だし。


『好し、これで話はすべて終わりじゃ。と、それもついでじゃな。ほれ』


 トトメリウス様の手から放射された光の粒が俺の左肩に注ぎ。


『確かめてみるがよい』


「これは!」


 左肩にあった黒炎の火傷痕が綺麗に消失していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] ダブルヘッド、そのままでも十分に可愛いかったのですが、なお、可愛くなりましたね。御作に、こんな可愛い要素が飛び出すとは嬉しい誤算です。あぁ可愛い。 人間にとってカマキリとバッタが食い合いし…
[良い点] トート神様、異世界でポケモ〇にはまっている疑惑(・_・;) とにかく、コーキさんがポケモ〇ゲットだぜ! ということであの不幸なダブルヘッド君が仲間になってくれましたか。 この展開は予想外で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ