第126話 捜索隊 2
信じがたいことだが、コーキの剣の腕前は超一流の剣士のものなのだろう。
幻影ヴァルターや赤鬼ドゥベリンガー、剣姫イリサヴィア程ではないにしても、相当な腕前であることは疑いようがない。
いや、魔法も使っているのだから、一概に剣の腕前だけでは判断できないか。
コーキの力量は魔法剣士としてのものだからな。
最近冒険者になったばかりの若者だというのに……。
このまま成長を続ければ、いずれ幻影、赤鬼、剣姫やレザンジュの魔導士エヴドキヤーナといった世界に冠たる猛者に近づく者になるやもしれん。
これは、何としてもオルドウに留めねばならんな。
「まあねぇ、俺たちもコーキがここまで強いとは思っていなかったですから」
儂の思索を知ってか、ヴァーンベックの声に苦笑が混じっておるわ。
「ほう、親交のあるお前たちでも知らなかったのか」
「ええ。力を隠していたというより、発揮する場面がなかっただけだと思いますけどね」
「オレはぁ、あいつが凄腕だって知ってたぜ。まあ、剣だけならオレといい勝負だけんどよ」
「はぁぁ。なわけねえだろ」
「んだと!」
儂の心を見透かす鋭さを見せたかと思えば、すぐにくだらぬ口喧嘩を始める。
相変わらず掴みどころのないやつだ。
「おふたりとも、ギルド長の前ですよ」
「ん、ああ、そうだな。悪ぃ、シア」
「けっ!」
まあ、らしいといえば、此奴ららしいがな。
「……ふむ。コーキがこのダブルヘッドを討伐したということは理解した。それで、その本人はどこにいるのだ?」
「それは……」
「詳しく聞かせてもらおうか」
ヴァーンベックに加え、ギリオンと新人冒険者のシアとアルの4人から聞いた話は衝撃という言葉で表現するのも陳腐と感じるくらいの内容だった。
4人がここに至るまでの経緯から始まり、ここでダブルヘッド相手に持ちこたえたという話。4人だけでダブルヘッドと戦闘をして生きのびたという事実も驚きに値するのだが、その後コーキが現れてからの話は、どうにも……。
儂の常識を大幅に超えるものだった。
「……それが真実なら、とんでもないことだぞ」
「分かっていますよ」
「ギルマスよぉ、オレらぁ、こんなくだらねぇ嘘は言わねえぞ」
「ああ、そうだな」
儂も此奴らを疑っている訳ではない。
だが、この儂の頭がな。
その事実を受け入れることを拒否しようとしているのだ。
単独でダブルヘッドを撃破したというだけで、信じがたいほどの快挙であるのに。
ダブルヘッド2頭を相手にしてのこの戦いぶりは……。
「本当かよ」
「あいつ、そんなに強えのか」
「やばいなぁ」
「1級レベルだな」
「いや、1級を越えてんだろ」
「ばか! 特級はそんなもんじゃねえんだよ」
「まじかよ」
またぞろ後ろが騒がしいが、止める気にもならんわ。
「とにかく、すべて事実ですよ、ギルマス」
「ああ、分かった。ここに倒れているダブルヘッドを含め、全てコーキの功績と認めよう」
ここまで証言と証拠が揃えば事実なのだろう。
認めるしかあるまい。
「当然だよな」
「あったりめえだぜ」
自分のことのように喜んでおるわ。
後ろのふたりも同様か。
どうやら、人望もあるようだな。
……。
凄腕冒険者の登場か。
オルドウのギルドにとっては歓迎すべきことだ。
が、それが冒険者になりたての若者となると。
少々面倒ではあるな。
とはいえ、こんな人材を逃すわけにはいかん。
関係各所と調整した上でしかるべき待遇を用意せねばな。
ふむ……。
オルドウに戻ったら、色々と大変そうだ。
それでもだ。
想定しておったダブルヘッドによる損害と比べれば、なんてことはない。
心から感謝するぞ。
「それで、コーキは逃げた手負いのダブルヘッドを追って、まさに今テポレン山を登っているのだな?」
「ええ、半刻程前に追いかけて行ったところです」
「そうか。で、お前たちはここでずっと待つつもりなのか?」
「もうしばらくは、ですかね。ダブルヘッドの素材も確保したいですし」
「ふむ、この辺りにダブルヘッドがいないのならば問題はなかろう。が、その怪我はどうなんだ?」
「治癒魔法で応急処置をしたので、今は問題ないですよ」
「ならば、よし。儂はオルドウに戻るが、お前たちはどうする?」
相変らず騒がしい後ろの冒険者たちに問いかける。
救出活動のためにここまで来た冒険者たちの仕事も、今や存在しないからな。
「帰ります」
「俺も戻ります」
「私も」
大半の者はこのまま帰還することに同意したのだが。
「このまま帰ってもいいんだが……。ヴァーン、ダブルヘッドの処理手伝ってやろうか?」
「あなた達だけじゃ難しいでしょ。私も残ろうか?」
ヴァーンベックやギリオンと親交のある2人の冒険者が、彼らに近寄り話しかけている。
「ああ、まあ、頼んだ方がいいんだろうが、この獲物はコーキのものだからなぁ……」
「報酬は気にすんな、冒険者仲間のよしみで手伝ってやるんだからよ。まあ、コーキがくれるってんなら、その、あれだ。ダブルヘッドの素材に興味がないわけじゃないけどな」
「そうよ、遠慮は無用よ。私も下心は、ほとんどないから」
「ほとんどって、おい。下心あるのかよ。まあ、それでも、ありがたいんだけどな……」
「おう、うじうじ言ってんじゃねぇ、ヴァーン。手伝わせりゃあ、いいだろーが。だいたい、あのコーキがケチなこと言う訳ねえだろ」
「な、うじうじってなんだ!」
「んだろうがよ」
「もう、おふたりとも!」
「……ああ、分かってる」
「……んで、どうすんだ」
「そうだな……。サージ、ブリギッテ、手伝ってくれ。ただし、報酬が金になるか素材になるかはコーキ次第だからな」
「ああ、それでいい。ダブルヘッドの素材なんて簡単に手に入るもんじゃないってのは、十分理解している。まあ、くれるなら貰うけどな」
「私も理解してるわ。いただけるなら、勿論いただくけれど」
「お前らなぁ……」
「なはは、いいじゃねえか。サージもブリギッテも、いい根性してんぜ」
「……分かった」
まったく、此奴らといったら……。
1刻前とは大違いだ。
まっ、悪いことではないがな。
「サージとブリギッテはここに残って手伝ってやれ。他の者はオルドウに戻るぞ」
俺たちも残れば良かったんじゃないか!
などと言っておる連中は黙らせるとして。
「……了解」
「……分かりました」
「……はい」
「ヴァーンベックとギリオン、それにシアとアルか。お前たちは明日ギルドに顔を出すように。ああ、コーキにも一緒に来るよう伝えてくれ」
「了解」
「ふむ、では儂らは戻るとしよう」
ヴァーンベックたちに別れを告げ、足を踏み出そうとした時。
ドーーーーーン!!!
轟音とともに、テポレン山の上空に大きな火花が飛んだ。
とんでもない大きさだ。
「あれは!?」
いったい何だ?
まさか、ダブルヘッドに続いて天災でも起きたのか?





