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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
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第122話  魔落 13



「ふぅ……」


 今夜の野営場所である横穴の中。

 上手く寝付くことができず、何度目かの寝返りをうつ。

 背中に感じる砂地も、いつも以上に硬い。


 目が冴えてしまう。


 ……。


 気持ちが晴れないからなのか。

 眠れそうにないな。


 ゆっくりと身を起こし、壁に背を預ける。


 ……。


 傍らには、規則正しい寝息をたてているセレス様。

 穏やかな寝顔。


 良かった。

 今夜はゆっくり休めているようだ。


 毎日大変なのだから、睡眠くらいはしっかりとってもらいたいからな。


 ……。


 ずっと気丈に振る舞っていたセレス様。

 昨日は珍しく弱音を吐いていたな。

 これまでは稀に表情に出ることはあっても、言葉にすることはなかったのに。


 それだけ、まいっているということだ。


 そりゃ、そうだよな。

 12日もこんな所で探索ばかりしているんだから。

 泣き言の1つや2つ、口から出るのも当然だ。


 普通の貴族女性なら、とっくに心が折れているのではないかな。


 セレス様は本当によく頑張っているよ。

 結局昨日も、その後は元気な姿を見せてくれたから。


 ……。


 そんなセレス様を励ましている俺だけど……。

 この火傷痕、残り少ない回復薬、いまだ見つからない脱出への手掛かり。


 はぁぁ。


 気分も重くなるというものだ。


 ……。


 まあね。

 それでも、まだ切り札は残っている。

 最悪の状況というわけでもない。


 セレス様の方が俺の何倍も不安なはずなんだ。

 そんなセレス様が前を向いているというのに。

 俺が溜息ついている場合じゃないよな。


 ……。


 よーし!

 切り替えよう。

 もっとポジティブに。


 そうだ、ちょうど、ポジティブな材料があった。


 それは何かというと、レベル。

 ここに来る前はレベル2だったものが、地下大空洞内での連日の戦闘のおかげで2つもレベルが上がり、今はレベル4になっている。


 レベル4になったことによる各種ステータスの上昇はありがたい。

 これで、戦闘も若干楽になるだろう。

 けれど、今回はそれよりもっと素晴らしい恩恵があった。


 なんと、新たなギフトとしてアイテム収納が手に入ったんだ!


 アイテム収納とは、目に見えない謎の空間にアイテムを収納できるギフト。

 ゲームなんかでよく見かける非常に使い勝手の良いギフトだ。


 今のような状況では、これは本当に助かる!

 非常にありがたい。


 とはいえ、このアイテム収納にも制約がある。

 収納できる種類は5種類で、1種類につき10個までという制限だ。


 それでも、頭で念じるだけでアイテムの出し入れが可能。

 収納中は時が止まるという機能までついたこのアイテム収納、俺のような冒険者にとっては有用なことこの上ない。


 そして、この地下大空洞内においては、食糧の保存という点において遺憾なくその性能を発揮してくれることだろう。大空洞を生き抜く上で非常に有益なギフトだ。


 ちなみに、ステータス画面で見た今のアイテム収納状況はというと。



<アイテム>


・ショルダーバッグ

・イビルリザードの背肉 3

・イビルリザードの腹肉 2

・イビルリザードの腿肉 2

・イビルエッグの腹肉  1


 となっている。


 ショルダーバッグの中には色々な物が入っているが、それも含めてショルダーバッグとして保存できるみたいだ。


 イビルリザードとイビルエッグは、それぞれあの蜥蜴魔物と蛙魔物の名称らしい。

 リザードは理解できるんだけど、蛙がなぜエッグなのかは意味が分からない。

 分からないが、そう表示されるのだから、そういうものだと受け入れるしかないよなぁ。


 ということで、レベルアップで手に入れたこのアイテム収納。

 これにより今後の探索はかなり楽になるはずだ。


 非常にポジティブな材料だな。



「んっ、んん……。あれ、コーキさん?」


 目を覚ましたのか?

 寝惚け眼でこちらを見つめてくるセレス様。


「どうしました?」


「え? どうもしま、せん……」


 と言って、目を閉じてしまった。


 ……。


 まあ、まだ深夜だ。

 ゆっくり眠ってくれたらいい。





 13日目。


 今日はかなりの時間をかけて、B地点の調査を行った。

 それはもう徹底的に、思いついたこと全てを試してみた。


 それでもやはり、何の成果も得ることはできず……。


 そのままB地点の調査を終えることになってしまった。


「ここではもう何も見つからないんじゃないですか」


 諦めたような顔のセレス様。

 そう思うよな。


「そうかもしれませんね。まっ、何か思いついたら、また試してみましょう」


「ええ、そうですね」


 ということで、A地点に転移。

 その後は、テポレン山から落下した地点にある円筒形の空間を調べることになった。


 が、やはり、脱出口など見つかるわけもなく。

 本日の探索も終了。


 結局、この円筒空間を上に進むしか脱出の術はないんじゃないかと考えてしまう。

 遥か上まで続くこの空間をどうやって上がるんだとは思うけれど。


 ……。


 空を飛ぶ魔法を身につけておけば良かったんだよな。

 今から開発しようか。

 なんて思ってしまうほどだ。


 でもさ。


 この大空洞には、あからさまに怪しい転移が仕掛けられているのだから。

 何か手掛かりはあるはず。

 まだ見つけることはできていないが、何かがあるという根拠のない自信だけはあるんだよ。


 きっと、それが脱出への重要な鍵。

 そう思う。





 14日目。


 今日もまた大空洞内を歩きながらの探索。

 魔物との戦闘と探索で、1日が終わる。

 収穫のない1日だった。


 逆に、黒炎による火傷が問題となってきている。

 回復薬の使用量を減らした影響が出てきたからだ。


 1度あたりの使用量を減らして様子を見ているのだけど、当然のように効果は薄いものとなっている。結果、火傷痕は完全に消えず、痛みも残ったままという時間が増えてきた。


 それでも、壊死という最悪の状態を避けることができているのは、この回復薬を使っているからこそ。痛みくらい我慢すればいい。


「痛みは我慢できるものなんですか」


「ええ、大丈夫です」


「本当に?」


「本当ですよ。行動に支障は出てないでしょ。さっきも普通に魔物と戦えましたからね」


「それならいいのですが……。何と言っても、コーキさん、あなたが動けなくなる時が私の最期ですからね。もちろん、覚悟だけはしていますけど」


 冗談交じりといった感じで喋っているが、本心なのだろう。

 セレス様の目がそう語っている。


「……」


 最近のセレス様は先日までとは比べものにならないくらい、率直になってきた。

 いや、遠慮がなくなってきたという感じか。

 とにかく、どこか吹っ切れたような雰囲気があるな。

 それに伴い、言葉遣いも少し変わってきたようだ。


 まっ、言いたいことを我慢せずに話してくれるのは好いことだと思う。


 しかし、セレス様。

 こんな状況下でも、佇まいに品があるというのはさすがだよ。


「コーキさん?」


「……覚悟は要りませんよ、セレス様」


「ふふ、嬉しいですね」





 15日目~18日目。


 A地点からB地点までの間にある怪しそうな場所は、ほとんど調べたと思う。

 それでも、依然としてこの大空洞から脱出する手掛かりになるようなものは手に入っていない。


 隠し通路でもあるんじゃないかと思ったが、まったく影も形もない。


 これは、ホント……。


 いったい、どうしたら脱出できるんだ?





 19日目。


 今日は、転移結界を破壊することが可能なのか調べてみた。

 今までも何度か軽く試しているのだが、得るものはなし。

 ということで、今回は魔法も剣も使って全力での挑戦だ。


 が、結果は惨敗。


 弾力のある空間に攻撃を仕掛けても、何も起こらず。

 その下の地面を攻撃しても地面に穴が開くだけ。

 深く穴を掘ってみても、そこにはやはり弾力が感じられる。

 同じように壁を攻撃しても、意味はなかった。


 転移の装置なんかは、このB地点に存在しないのかもしれない。

 とにかく、それを見つけなければ破壊などできそうにないな。


 破壊したところで、この空間の先に脱出口があるとも限らないのだが。


 ……。







 23日目。


「……」


「……」


 初日に野営した植物に覆われているあの場所で今夜も休んでいる。

 一度弱音を吐いて以降、ずっと明るく振る舞っていたセレス様だが、今日の午後から様子がおかしい。目に見えて元気がない。


「……」


 いや、おかしくはないか。

 それが当然の状況なのだから。


 これまでは単に無理をしていただけなんだろう。


「……疲れたわ」


 だから、そんな言葉も出てしまう。


「ゆっくり休んでください」


「ええ……」


 この地下大空洞に落ちてからは、探索と魔物との戦闘に明け暮れる日々。

 口にする物といえば魔物の肉ばかり。

 夜は魔物を警戒しながら硬い地面の上での野営。


 そんな極限生活を20日も続けているんだ。

 普通の人間が、平気でいられるわけがない。

 ましてや、セレス様はこの世界でも有数の大貴族のお嬢様なのだから。


 そう。

 セレス様の心が折れたとしても、それは何もおかしいことじゃない。


 充分に理解できる。


「……」


「……」


 けれど、本当のところを俺は分かっていなかった。


「私……」


「セレス様?」


「私、もういっそ……」


 ここまで追い込まれているとは、思ってもいなかった。


「……死にたい」


「!?」


「死んでしまいたい」


 そんな言葉が、セレス様の口から出るなんて。




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― 新着の感想 ―
[良い点] どんどん空しく過ぎていく時間の切実さが如実に感じられる場面でした。これは、ハードですね。また、外がどうなっているのか全くわからないというのがまた、焦りに拍車をかけているであろうこともまた、…
[良い点] これはいわゆるジリ貧の状態ですね。 救援を期待出来ないし、未だに見つからない何らかの手掛かり。 まさかの一ヶ月近く、極限サバイバルですから、特殊部隊でもないのに二人ともよく持ちこたえている…
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