第117話 魔落 8
セレスティーヌ様を壁際に残し、トリプルヘッドに向かい足を進める。
そんな俺を見て、立ち止まるトリプルヘッド。
俺も足を止める。
彼我の距離は5メートル。
お互いの視線が絡み合う。
「……」
「グルルル」
でかいな。
俺の知るダブルヘッドより、ひと回りは大きいように見える。
圧力もかなりのものだ。
これは全く油断できないな。
手を抜いて勝てる相手じゃない。
幸い、魔力には余裕がある。
なら。
剣を抜き魔力を込める。
今できる最上の強化だ。
身体には既に魔力を纏っている。
手加減なしだ。
いくぞ!
「雷撃!」
5メートルの距離から放った雷撃。
左横に跳んで躱した。
まあ、そうだろうな。
想定内だ。
「雷撃!」
着地点に連続の雷撃を放つ。
これならどうだ。
着地と同時に、さらに左に跳躍しようとするトリプルヘッド。
が、躱しきれない。
「グゥオ!」
トリプルヘッドの右半身に雷撃が命中。
小さくうめき声をあげるが、それだけ。
平然としたものだ。
やはり、通常の雷撃では効果が薄いか。
それもダブルヘッドとの戦いから、ある程度分かっていたことだ。
だから、次の手を打っている。
距離を一瞬で消し、上段から一閃。
濃密な魔力を纏った剣撃を味わえ!
3つの頭の右端、俺から見ると左の首筋に叩きこむ。
ガシュッ!
鈍い音。
この魔力を纏っていても、切断には至らない。
手応えはそれなり、といったところ。
「グゥルオォォ!」
右頭の咆哮。
そんな右頭をよそに中の頭が俺に牙をむく。
粘りつくような体毛を震わせながら迫ってくる。
首筋に挟まった剣を抜き取り、離脱!
間一髪のところで抜け出すことができた。
「グルルゥゥ」
しかし、こいつの身体は厄介だな。
魔法攻撃、物理攻撃に対して高い防御力を見せる硬い体表。
剣が通りにくい濡れた体毛。ダブルヘッド以上に赤みが強い黒の体毛だ。
切り付けた剣を咥えこんでしまう筋肉質の肉体。
ダブルヘッドの上位互換のような防御性能を誇っている。
さらに、ダブルヘッドと同等以上の回復魔法や攻撃魔法を使えるとすると、本当に大変な相手だ。
とはいえ、スピードはそれほどでもない。
ダブルヘッドと同程度といった感じか。
これなら、最高に強化した俺のスピードの方が上だ。
実は、これ以上のスピードにすることも可能なんだが、そうするとその速度に思考がついてこない。そして、すぐに身体が限界に達してしまうからな。
今はこの速度が最高ということになる。
おっと!
危ない!
トリプルヘッドの突進からの左腕の薙ぎ払いを、左後ろに跳ぶことで避ける。
そこに右手の爪による連続攻撃。
キン!
これを剣で受け止め、左に流し。
返す剣でさっきの首筋に一撃!
ザシュッ!
まだ足りない。
が、あと一撃で切断できそうだ。
「グゥオォォン!」
右頭が叫び声を上げる中。
また、中頭が嚙みつきにきた!
さっきより簡単に抜き取った剣とともに再び離脱。
同じような攻防が2回続いたな。
ということは、やっぱり!
ここで突進か。
それなら、同じ対応をするだけだ。
左腕の攻撃を避け、右爪の攻撃を流し。
3度目の正直だ。
首筋に剣を差し入れる!
ザシュン!
よし!
剣が通ったぞ。
ドン!
必然、右の首が地面に転がり落ちることになる。
「グゥルオォォ!」
「グゥオォォォ!」
中の頭が咆哮し、今まで沈黙していた左の頭も声を上げる。
今度は右肩から突進してきた。
腕を使うことなく、肩をぶつけるつもりか。
けど、その速度では無理だ。
大きく左に跳び、トリプルヘッドの突進を躱す。
トリプルヘッドはすぐに勢いを殺すことができず、10メートルほど通り過ぎてしまった。
もちろん、頭は突進方向、尻は俺の方に向いている。
「炎舞」
振り返る前に、焼いてやるよ。
「グギャ」
「グロォ」
炎がトリプルヘッドの身体全体を包む。
範囲効果がある炎舞なら、あの巨体全てを包み込むことができる。
もちろん、これで倒せるとは思っていない。
ほら、あの体毛のせいか、もう消えてきた。
だから。
「炎舞」
さらに。
「炎舞」
炎舞の3連発だ。
「グギャァァァ」
「グロォオォォ」
振り向いたトリプルヘッドが悲鳴のような声を上げる。
結構効いているみたいだな。
特に中頭が苦しんでいるぞ。
火に弱いのか。
これは充分に効果ありだ。
おお!
体毛の光沢が薄れている。
炎舞の炎でぬめりが少し取れたんじゃないか。
これはいける。
火が消える直前。
トリプルヘッドに接近し、中の頭の頸部に向けて剣撃一閃。
「グギャギャァァ」
今までで最も手応えがあった。
切断には至っていないが。
もう少しだ。
剣を抜き取り、そのまま、もう一撃!
よし!
ドスン。
これで2つの頭を切り取った。
残るは1つだ。





