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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
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第114話  魔落 5



 彼我の距離をなくすように、一気に跳躍!


「グギ!?」


 そして、これまた魔力を纏わせ、切れ味を底上げした剣で一気に片を付ける。


「グギャァァ」


 まずは1匹。


 で、目の前には10匹のゴブリン。

 驚き立ち止まっている。

 ありがたい!


「雷撃!」


 ここはどことも知れぬ地下空洞、いくら魔力が潤沢に残っているとはいえ魔力消費はなるべく抑えたい。


 なので、省エネタイプの雷撃だ。

 これでは全てを倒しきることはできないだろうが、牽制には充分のはず。


 こちらの思惑通り、5匹のゴブリンが身体を震わせ動きを止めた。

 他の5匹も立ち止まったまま。


 よし!


 5匹のゴブリンの急所を的確に切り裂きながら横に通り抜ける。

 残るは5匹。

 そして、さらに後方の40匹程度のゴブリン。


 なら、次は。


「炎舞!」


 火魔法を自己流に改良した魔法、炎舞。

 炎が波のように舞いながら襲いかかる広範囲に効果のある魔法だ。

 ただし、必殺の効力はない。


「グギャギャァァ」

「グギィィ」

「ギャァァ」


 想定以上に、大きな炎の波がゴブリンを襲っている。

 炎にまとわりつかれ苦しみもがくゴブリンたち。


 ……。


 思った以上に効果があるみたいだな。


 これは、黒ゴブリンが火に弱いからなのか?


 それとも……。


 予想以上の炎であったところを見ると、俺の魔法のレベルが上がっている?

 あるいは、この空間では魔法の効力が高いのか?


 理由は分からないが、こちらにとって悪いことじゃない。


 と、炎に焼かれ苦しみながら1匹のゴブリンが襲いかかってきた。

 そのゴブリンを剣の一撃で迎え撃つ。


「ギギィ……」


 よし、残るは40匹。

 ここから少し離れた大空洞中央部にいるゴブリンたちに向かって駆ける。


「炎舞!」







「お怪我は大丈夫でしょうか?」


「ええ、何とか」


 約50匹の黒ゴブリン集団との戦い。

 やはり、簡単なものではなかった。


 序盤は楽に戦えたものの、後半は統制の取れた動きで抵抗してきたゴブリンたちに、かなりの苦戦を強いられたからな。


 まあ、それでも何とか倒しきることはできたが、時間もかかったし怪我も負ってしまったんだよ。


 戦闘後、確認してみると結構深い傷だったので、回復魔法では心もとなくゾルダーから受け取った魔法薬を少しだけ使うことになってしまった。


 おかげで、無事に完治。

 やはり、高級な回復薬は違う。

 残量は多くないが、今後も大切に使わせてもらおう。


 あの時はゾルダーから迷惑を受けたが、この薬には助けられてばかりだな。


「どこも痛くはありませんか?」


「大丈夫、問題ないですよ」


 今回は倒すことができたが……。


 このレベルの魔物に集団で攻めてこられると、やっぱり簡単じゃない。

 100匹、200匹で襲われるなんてことを想像すると、ぞっとしないな。


「でしたら良いのですが、心配で……」


 気遣わしげにこちらを眺めているセレスティーヌ様。

 その表情からは、本当に心配してくれているというのが伝わってくる。

 高位貴族のお嬢様に心配してもらえるというのは、畏れ多くもありがたいことだ。


 でも、そんなことより気になるのは彼女の顔色。

 白磁のように綺麗な肌に、今朝のような血色の良さが窺えない。

 相変わらず気丈に振る舞ってはいるが、明らかに様子が異なっている。


 ……。


 まあ……、こんな魔物たちとの遭遇で何も感じないわけがない、か。


 おそらく、この地下空洞から脱出するまで、まだ時間はかかるだろう。

 何とか彼女のストレスを緩和しながら探索を続けないといけないな。


「私にとってはあの程度の魔物、50くらいは問題ありませんから」


 などと、笑いながら喋ってみる。


「そんなこと……」


 うん、もう少し。


「セレスティーヌ様が応援してくれているなら、どんな魔物でも打倒可能かもしれませんよ。それに、貴女の笑顔を見ていると元気が出てきますので」


 柄にもないことを言ってみる。

 まあ、こんな状況下だ。

 しかたない。


「……」


「セレスティーヌ様の笑顔は何より勇気を与えてくれますから」


 ホント、似合わない。


「ふふ……そんなことでよろしいなら幾らでも」


 そう言って、はにかみながら微笑んでくれた。


「そうです。その微笑みが見たかった」


「そんな……。面白いお方」


 少しは気分も変わったかな。

 こんなことで元気が出てくれるなら安いものだ。


 とはいえ、無理して笑顔を作ってもらうというのは避けないとな。

 それはそれでストレスの原因になるのだから。





 ゴブリンとの戦闘のおかげで遅くなってしまったが、昨夜同様の携帯食での昼食を済ませ、探索を再開。


 やはり、砂地に岩という景色に変化はなく、脱出の手がかりはつかめないまま。

 そのまま探索を続けると。


 2種類の魔物と連続して遭遇。

 大型の蜥蜴のような魔物と巨大な蛙のような魔物だ。


 ともに強力な魔物だったが幸いなことに1頭ずつの遭遇だったため、そう苦労することなく倒すことができた。


 蜥蜴魔物も蛙魔物も黒ゴブリンと同等か少し上のレベルといったところ。

 この大空洞内には、それなりに強い魔物しかいないのかもしれないな。


 やはり、魔落。

 その可能性は高いか。



 2種類の魔物との遭遇後も探索を続ける。

 本当に変わりのない眺めが続くばかり。

 先も見えない。


 これは、どこまで続くんだ?

 テポレン山の地中にしては広すぎるよな。

 はるか地中まで落下してしまったということなのだろうか。


 分からないことだらけだ。

 とはいえ、セレスティーヌ様の前で不安な顔はできない。


 今は前を向いて進むだけか。

 探索を続けるしかない。



 そのまま半刻ほどが過ぎたころ。


「コーキ様」


「ええ、今度は大丈夫です」


 またしても、黒ゴブリンの集団に遭遇してしまった。


「ここで待っていてください」


 セレスティーヌ様をゴブリンから見えない場所に残し。

 戦闘を開始。


 対ゴブリン集団戦は2度目。

 同じ轍は踏まない。

 まっ、前回も俺の失敗だけどな。




 ということで、今回は魔法を多用し無難な戦いに終始。

 おかげで、ほぼ無傷で倒しきることができた。


 とはいえ、魔法の使い過ぎで魔力が枯渇しかかっている。

 身体的にも疲労が溜まっている状態だ。


 なので、休憩をとることになってしまった。


 今回の休憩場所はただの岩陰ではない。

 探索中に、空洞内で偶然見つけた小さな横穴だ。


 小さいといっても、横穴の中は俺とセレスティーヌ様が休むには充分の広さがある。

 大空洞内からは視認しづらい立地でもある。

 休むには最適だな。


「思ったより広いですね」


「そうですね。しばらくは、ここで休みましょう」


「はい」


 こうして中で休んでみると、随分と広く感じるな。

 ふたりで休んでも、ゆっくり落ち着くことができそうだ。


「コーキ様は本当にお強いのですね」


 岩肌を背にしてふたりで横に並んで座っていると、セレスティーヌ様がポツリとそんなことを呟いた。


「セレスティーヌ様のお力になれたのなら、良かったです」


「そんな、力になるどころではないです。コーキ様がいなければ、私は今ここで生きてはいません」


「……」


「何度も命の危険がありましたから。あの崖下で、そしてこの地下への落下で、本来ならもう命を落としていたと思います。仮に運よく生きのびたとしても、私には魔物に対する力もありません。それに、食料も……」


「……」


「私は運が良いのでしょうね」


 運が良い。


 そんなわけがない。

 この状況で、そんなことを言ってくれるセレスティーヌ様の心情を思うと、言葉に詰まってしまう。


 ……。


 何としても、セレスティーヌ様を護ってここを抜け出さないとな。






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― 新着の感想 ―
[良い点] コウキがらしくもなく、気障なことを口に出していて微笑ましかったです。セレスティーヌ様も不憫な身の上で、それても気丈に振る舞っていて、心打たれるものがありました。 [一言] 案の定、50は不…
[良い点] 五十匹のGを相手に先手必勝の奇襲と魔法を織り交ぜた攻撃でいけてしまうのはコーキさんが強くなっている証拠ですね。 雷と炎の魔法を使いながらというのが集団戦に適した戦い方のようですかね。 相手…
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