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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
103/701

第102話  ダブルヘッド 11


<ヴァーン視点>




 防具らしきものをほぼ装備していない軽装の冒険者が、剣を片手に俺たちとダブルヘッドの間に立っている。その姿、見間違えることなどありえない。


「ああ」


 遅すぎるぜ……。


 でも、ホント、助かった。


 今残っている僅かな力を込めていた身体が弛緩していく。

 まだ戦いは終わっていないのに、緊張感が抜けていくようだ。


 それだけコーキの実力を信じているということなのだろう。

 自覚していた以上に。


 けど、どうしてここに?

 今日は常夜の森に入っていなかったはずなのに。


「コーキ、おっせーぞ!」


「悪い」


「まっ、今回だけは許してやらぁ」


「そりゃあ、どうも」


「んで、どうしてコーキがここにいんだ?」


 当然、ギリオンも同じ疑問を抱いているか。

 しかし、こいつの声からも悲壮感がきれいさっぱり消えているよ。

 余裕すら漂い始めている。


 げんきんな野郎だ。

 まあ、俺も人のこと言えないか。


「ギルドでダブルヘッドの話を聞いたからな」


「ん? ギルドでもう情報が出てんのか?」


 そんなに情報が早いのか。


「そうだ。しかし、ギリオンもヴァーンもやられたなぁ。命に別状はないみたいだけど」


「なんとかな」


「はん、こんなの大した傷じゃねえわ」


 強がっているが、結構な傷だぞ。

 ギリオンも俺もな。


「ヴァーンの背中の傷はどうなんだ?」


「多分、深くないはずだ」


 緊張が解けると急に痛み出したけどな。


「そうか、あとで治療してやるから少し我慢しろよ」


「ああ、問題ねえ」


「シアとアルも無事そうだな」


「はい! コーキ先生」


「ああ」


 ふたり共に、さっきまでとは明らかに顔つきが違う。

 元気が戻っている。


「とりあえず一安心だ。じゃあ、話はこれくらいにしてダブルヘッドの相手をするか」


「オレもやんぜ」


「無理すんな、ギリオン。ここは俺に任せろ。他のみんなも自分の身を守ることを優先してくれ」


 まさか、ひとりでやるつもりなのか。

 ダブルヘッド2頭の相手を。

 いくらコーキでも、無謀じゃないのか。


「コーキ、さすがに危険だ。俺らが援護する」


「ん~、危なそうだったら頼む」


 その言葉と共に、こちらに手を振りながら、ゆっくりとダブルヘッドに向かって歩を進めるコーキ。


 その言葉にも動きにも、全く力みがない。

 とはいえ、気合は入っているようだ。


 集中しているのに、気負いのようなものが全く感じられない。

 ダブルヘッド2頭を相手にして、どんだけ精神が強いんだよ。


 こいつこそ、バケモンだぜ。



 対するダブルヘッド。

 さっきから、こちらを襲う気配が全くない。

 コーキと俺たちが喋っているのを眺めているだけだ。


 で、今はというと。

 1頭目の大ダブルヘッドは威嚇するように唸りながらコーキを睨んでいる。

 相手が相当の実力者だと気付いているのだろう。


 俺とシアを攻撃するべく目の前にいた2頭目の小ダブルヘッドは……。


 はぁ??

 なんだ、そりゃ!


 近づくコーキから離れるように後退していく。

 明らかにコーキを見て怯えているぞ。


 どういうことだよ?

 コーキに何かされたのか?


 まさか、さっきまでの単頭は……。


 コーキに斬られたのか?

 そういうことなのか。


 そんな俺の疑問など知る由もないコーキがお得意の雷撃を2頭に放つ。


 いつもながらの無詠唱で予備動作もない。

 そんな魔法が近距離から無造作に繰り出されたのだ。

 2頭のダブルヘッドは逃げることもできず、その身に雷撃を浴びる。


「ギュワアン」


「ギャアァン」


 今のはかなりの威力の雷撃だった。

 俺が見たことのないような威力だ。


 とはいえ、一撃でそれかよ。

 俺の魔法とは大違いだぜ。

 頼りになる味方だが、同じ攻撃魔法の使い手としては少し落ち込んでしまいそうだ。


 で、警戒して後退する大ダブルヘッド。

 さらに怯えを増したように、その場で震えている小ダブルヘッド。


 コーキは一足飛びに小ダブルヘッドに接近。

 そのまま剣で首筋に斬りかかった!

 赤黒く湿った体毛が大きな防御力を持つダブルヘッド、その剣だけでは難しいだろう。

 そう思ったのだが。


「ギャアァァァァ」


「マジかよ!?」


 傍らのギリオンからこぼれ出る驚愕のつぶやき。

 そりゃ、そうだ。


 あれだけ俺とギリオンの攻撃を防いでいた体表、漆黒に濡れた体毛、そこにコーキの剣が難なく通ったのだから。


 そして……。


 ドスン。


 地面へ落下する左の頭。


「すげぇ!」


「先生、すごい!」


 アルとシアからは感嘆の声。

 純粋で羨ましいことだ。

 こっちは感嘆する前に驚愕で声も出ないってのにな。


 コーキが剣、魔法ともに相当な実力を持っているというのは分かっていた。

 だから、こうして安心できたんだ。


 けど、どこまでの腕なのかは測りきれていなかったようだな。


 まさか、ここまでのものだったとは……。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 客観的に見たコウキの実力が尋常ではないとよく分かる描写でした。ダブルヘッドに対しても優勢なようで、とても心強いです。たしかにどっちが化け物だかわからなくなるような場面でした。胸がすくような…
[良い点] 真打登場ですね。 コーキさんの到着で皆、息を吹き返したように元気を取り戻したように見えます。 それだけ、安心感を与えられる存在になっているコーキさんの影響力の大きさですね。 ここまでその脅…
[良い点] 更新お疲れ様です。メイン盾きた!これで勝つる!
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