第100話 ダブルヘッド 9 ※
<ヴァーン視点>
「しまった!」
魔力残量を考慮するあまり、同じような魔法を続け過ぎた。
大ダブルヘッドも慣れたように俺の魔法を簡単にかわしてしまう。
そして、そのまま剣を放とうとするギリオンに迫る。
1頭だけなら、なんとか対処できるはず。
だが!
さらに、横からもう1頭の小ダブルヘッドが迫ってきた。
ギリオンも正対する大ダブルヘッドの初撃は何とか剣で相殺したものの。
「おぁ!」
横から迫る小ダブルヘッドの攻撃に対する準備ができていない。
俺もここからじゃ間に合わない!
「ギリオン!!」
ダブルヘッドが迫る!
まずい、やられる!
「キィーーン」
そんな俺の絶望を杞憂に変えたのは!?
アル!
アルの剣だった。
「師匠、危ない!」
ギリオンの背後から飛び出し、小ダブルヘッドの爪を剣で防いでいる。
アルの腕力ではダブルヘッドの腕の力には敵わないだろうが、初撃を防いだだけで十分。
その僅かな時間でギリオンは体勢を立て直すことができる。
俺の想像通り、ギリオンがアルとともに2頭のダブルヘッドから距離をとった。
よし、これで仕切りなおせたぞ。
「アル、おめぇ、どうして」
「そんなの決まってる。師匠を助けるのは弟子の務めだ。師匠の窮地に逃げ出すなんてできるわけない、だろ」
「ちっ! 言いやがる」
「ってことで、手伝わせてもらうぞ、師匠」
「しゃーねえな」
「アル、助かったぞ。まだやれるか?」
ギリオンとアルの横に歩み寄る。
ここからは3人の戦いだ。
「はい、ヴァーンさん」
疲労感あふれる顔に薄っすらと笑顔を浮かべている。
こいつも、やるもんだぜ。
「わたしもいます」
そんな俺たちに声をかけたのはシア。
背後の岩陰から姿を現し、こちらに一歩踏み出してくる。
「姉さんは来ないでいい! 魔力もほとんど残ってないだろ。隠れていてくれ」
「大丈夫、まだ少しは使えるわ。少しでも助けが必要でしょ」
シアだけを今さら逃がすこともできないか。
なら、もう。
シアにも手伝ってもらうしかない。
総力戦だ!
「……分かった。頼むぞ」
「はい!」
「姉さん無理はしないで」
「ありがと。でも、そんなこと言ってられないでしょ」
「はん、バカが揃ったもんだぜ」
「お前を筆頭にな」
「おうよ! 悪くねぇぜ!」
前衛3人に加え、後衛のシア。
4人いるとはいえ、十全に力を発揮して戦える者はいない。
傷を負い、魔力残量も少ない者ばかり。
それでも、悪くない。
そう思えるな。
もちろん、今まで以上に苦しい戦いが待っていることは分かっている。
それでもだ。
「みんな、いくぞ!」
「おうよ」
「おう」
「はい」
俺の掛け声に気持ちの乗った声が返ってくる。
満身創痍の状態なのに、戦う気力は充分。
アルもシアも大したものだぜ。
そんな俺たちを眺めていたダブルヘッド2頭がゆっくりと近づいてきた。
作戦はどうする?
何ができる?
気力でどこまでやれるか?
最後の戦いになるかもしれない。
どうするべきだ?
大きなダブルヘッドが俺たち3人に突進してくる!
が、今までと変わらぬ攻撃だ。
これなら問題ない。
ギリオンとアルがダブルヘッドの攻撃を防ぎ、いなす。
俺は攻撃すべく隙を窺う。
と、ふたりと戦っているダブルヘッドの後方から。
もう1頭の小さなダブルヘッドが走り寄り、跳躍!?
「なにっ!」
俺たち3人を飛び越える小ダブルヘッド。
そこにいるのは近接戦闘が不得手なシア!
まずい!!
と思う間もなく身体が動いていた。
小ダブルヘッドの傍らを走り抜け、シアのもとへ。
が!
「痛ぅ」
背中に衝撃!
それでも、何とか堪えながらシアのもとに到着。
そのままシアの腕をつかみ、後方に退く。
「えっ、えっ? ヴァーンさん!」
シアは無事だ。
俺の背中に傷は負ったものの、何とかなった。
けど、目の前には小ダブルヘッド。





