博物館 機動兵器
私『このコーナーは特務大尉が搭乗した機動兵器のコーナーになります。時間が切羽詰まって来たのでさくさく行きますよ』
『おおすげえ。ガラス越しだけどメンテナンスハンガーを見られるのか』
『パンフレットによると整備周りの施設も当時を再現してるらしい』
『男の子ってこういうの好きだよねー』
A『私も好きだよ』
私『では解説しましょう。最初の機体は次世代検証試作機。通称チキンレースになります』
『知ってるぜ。あくまで通称なんだよな』
私『仰る通り。マール大学と軍が共同開発した次世代の検証機になりますが、正式採用されたものではありませんので、チキンレースの名はあくまで通称です』
『どうしてそんな名前が付いたのー?』
私『技術的限界や機体と中身の有機物。どちらが先に駄目になるかを崖めがけて競争した機体……というブラックジョークですね。そして流石はマール大学。一応でも通常の人型機動兵器の形に仕上げましたが……幾度かのアップデートで人間には扱えないものになりました。有機物駄目になり、チキンレースの勝利ですね』
A『どれくらいだったんです?』
私『通常の速度から上を出すとベテランパイロットが即気絶するレベルだと思ってください。リミッターをかけていた最大速度に至っては計算上になりますが、特別仕様の耐Gスーツを着用していない場合は高い確率で死にます』
A『欠陥って言うんじゃ……』
私『ははは。まさにその通り。ただ性能的には当時の機体を全て凌駕し、システム的な欠陥はない機体に仕上がってますよ。だからこそ、崖から落っこちた人間を見下ろしていた鶏が、後ろから蹴飛ばされたのですが』
私『本番を語りましょうか。大敗走時代、マール星を襲撃中のガル星人を殴りつけた特務大尉がチキンレースを発見し搭乗。衛星軌道付近に展開していた小規模のガル星人艦隊に単機で突入し、これを殲滅しました。ちなみにギリギリのところで運用したのかなという誤解を生じさせないために、常時最大速度だったことを補足しておきましょう』
A『ええ……なんで生きてたんだろう』
私『では続きまして特務大尉が最も搭乗し、最も新兵器開発部を追い詰めた機体。バードの説明に入ります』
『これはちゃんと青色なんだな』
『長く使ったという割に随分と綺麗だな』
『ぴかぴかだよ』
A『うん。とっても綺麗』
私『一回出撃するごとにあちこち改良するものですから、常に新品同然なんですよ。まあ流石に裏面のスラスター関連はくすんでますがね』
『こっちはどうしてバードなの?』
私『表向きは軽やかに舞う鳥のような機体。実際のところは特務大尉に蹴飛ばされた鶏が飛んだからですね』
『本当だったのかよ……』
『噂には聞いていたが……』
私『新兵器開発部の紹介とかなり被るのであまり説明することはないですね。先程説明したチキンレースですら満足が出来なかった特務大尉のために作られた専用機ですが、これも特務大尉に振り回されて、あちこちに担当者の嘆きがこびり付いてる機体です』
私『現在では、バードで培われた技術の多くが現役の機動兵器に流用されていますが、本機は特務大尉を除いて誰も動かせないので、チキンレースと共に博物館に貸し出されています』
『現物を見てると歴史を感じた気分になるなあ』
私『さて、ボスの玉座に行きたいところですが、捌き切れていないようなので少し時間が必要ですね。こちらの方で予約を入れておきましょう』
『じゃああれやってみようぜ! カブトムシの足チャレンジ!』
『興味がある』
『どうするー?』
A『触るだけ触ってみようか』
メモ・メル星の学校データにアクセスすると、通常の運動能力。危機的状況でどうなるかは知りたくない。絶対に。
私『ではご案内しましょう。こちら、ガル星人が運用した超巨大陸上多脚戦車、通称カブトムシの足になります』
『……やっぱデカすぎだろ』
『これはどう考えても無理だ』
『ふえーーー』
A『これを登ったなんて信じられないや……』
私『陸上で運用可能なあらゆる兵器を打破可能。なんなら装甲が薄い宇宙船の外壁すらぶち破れる圧倒的な火力を誇り、戦争末期の人類連合軍と星系連合を苦しめました。しかしながら特務大尉の最優先排除対象。もしくは鹵獲対象となり、スペック相応の活躍はあまりできませんでしたね』
『おいこれ絶対無理だって! 掴むのも不可能だろ!』
『傷やへこみを利用すれば……いや、無理だ』
『ほんとにこれ登ったのかなあ?』
A『出来ないよねー』
私『ちなみに実際は、カブトムシが移動したりあちらこちらで爆発してるため、状況はもっとひどいですね。おっと。どうやらそろそろスペースが空きそうですので、移動しましょうか』
A『人がどんどん増えてる』
私『ここから先の展示物は二つ。そして全員が、それを見に来ていると言っても過言ではありませんからね』
係員『制限時間を厳守してくださーい! 制限時間がありまーす!』
私『ではご紹介しましょう。人類連合と星系連合が作り出した唯一無二。これ以上先がない進化の袋小路。宙の怪物。バハムートです』
『これが……』
『実物を見られるとは……』
『弟が玩具を買ってたなあ』
A『凄い……』
私『カブトムシのエンジンで得られた技術を流用しつつ小型化に成功。宇宙船並みの馬鹿げた動力を人型機動兵器の心臓にした上で、恐ろしいまでの出力を全身のビーム兵器と機動力に全振りした本機は、戦争末期に実戦投入されました』
私『明確に確認されている戦果は戦艦89隻、戦闘空母104隻、巡洋艦573隻、駆逐艦1152隻、その他小型艇、戦闘機に関しては総数不明。まさしくたった一機で戦局を打破する決戦兵器として君臨しました』
私『ただまあ、戦争最終盤に投入されたのにこの戦果でしたが、追い詰められてなおこれだけの戦力を生産できたガル星人には寒気しか感じませんね』
『これの名前の由来はー?』
私『さて、聖書からの引用とは思いますが、名付けた特務大尉は語っていませんからね。まあ、リヴァイアサンといい妙なところで聖書から引用する人物でしたが、信心深いなんていうエピソードは欠片もありませんので、かっこいいから名付けた可能性は大いにありますね』
『なんか親近感湧いたぞ』
『だな』
『……男連中の気持ちが分かる?』
A『お父さんもお爺ちゃんもそういうの好きだから、ちょっとは分かるかも』
私『ぶっちゃけた説明もしましょうか。チキンレース、バードを容易く超えた機動力を持つ本機は、全く、完全に、これっぽっちも有機生命体の搭乗を想定しておらず、開発に携わった星系連合の人員は、無人機を作っているのだと思い込んでいました』
私『しかも全身がジェネレータ状態のバハムートは装甲という概念が消失しており、どこかしらが被弾するとそのまま誘爆を引き起こす上に、反応速度も過敏過ぎて人間では扱えません。はい。断言します』
『でも扱えちゃったと』
私『特務大尉ってなんなんでしょうね?』
A『私達に聞かれても……』
私『おほん。当時の新兵器開発部が、これ以上の機体は存在しえないと断言したバハムートは、あの特務大尉が完璧と評した性能でした。選び抜かれた精鋭達がリヴァイアサンを運用し、敵陣ど真ん中ではバハムートがビームの嵐を発射していた光景は、ガル星人にって悪夢だったことでしょう』
『全身の穴、全部ビームの発射装置って聞いたな』
私『さて、案内の音声ばかりで実物を見る邪魔をしてはいけませんね。後からいくらでも調べることが出来ますので、今は博物館の主を見学してください。ああ、ここは特別に写真撮影OKなので、バハムートを背景に一枚どうです?』
『じゃあ撮ろうぜ。父ちゃん母ちゃんに自慢してえ』
『ああ。そうだな』
『ピースピース』
A『うちの皆に見せてあげないと』
私『ええ。ええ。それがいいでしょう』
私『…………では時間になりましたね。最後のエリアにご案内しましょう』
私『展示されている物はほぼ全てが単なるレプリカです。しかしそれでも最後に相応しい。人類史上最大の英雄。青薔薇。不可能を可能にした男。夜明けを齎した者』
私『特務大尉の展示エリアになります』




